人魚の答
可愛そうしか思えないとは言ったものの、死ぬと分かっている人を見殺しにする程非道な心は持っていない。
商人や村の他の人がしていることに倣って行っているだけ。
それほど価値があるものをホイホイとあげてちゃ価値も下がるしね。
すぐに渡せるものだけど、だからこそあげる人を選ばなければ……大切な大切な私たちの欠片。
「いいじゃない、ルーサ、あげちゃいなさいよ~」
いきなり背後から声がしてビクリと肩を震わせる。
「あ、ローサさん」
「減るものじゃないし、それで人が助かるならいいじゃない?
損得勘定だけで動いては駄目よ」
いや、別にそんなつもりはなかったんだけど……確かに命を前にして行う取引にしてはえげつない気もした。
「意地悪は駄目よ」
軽くウィンクをしながら私をみる。
その間クックとマーミリアはいきなり出てきたローサさんに驚いてポカンとしている。
「あらあらあらあら、可愛らしいお客様ね」
声をかけられてすぐさまビシッと音がするかのように直立する2人。
軽い自己紹介のあと、本題へと移る。
「それで……その病気の人って、クック君よね?」
うぇ!?なにそれなにそれ、聞いてないよ?あ、興味がないって言ったの自分じゃん……
「え?なんで知って……?」
「音よ、音。どこが悪いかとかまでは分からないけれど、通常の人よりも変な音がするの。今も結構しんどいんじゃない?」
ええ……。どうしよう、さっさと渡しちゃえばよかったかな……。
「ルーサの言っていたことも分かってあげてね、この子、中身は20歳でも身体は1ヶ月だから。まだ使いこなせてないの。」
なるほどね……これから分かってくるのかな。
2人が「はい」と返事をしているのを眺めながらこっそりと考える。
「とにかく、今までのことは水に流しなさい。真珠と鱗はあげるから。
病気なのよね?病気なら薄紫の真珠。癒しの涙。鱗はどれでもいいよね、はいっ」
そう言って手渡す。
「あ、ありがとうございます!」
地面に頭が付くんじゃないかってくらい2人は腰を折りながら感謝の言葉を述べる。
なんか、私嫌なやつみたい。
クルリとこちらに向いてローサさんが一言。
「ルーサ、皆のことを思って考えてくれてありがとう。貴方のしたことも決して間違いではないわ。」
そう声をかけられた。ああ、この人は本当に素敵な人だ。
全てを理解して全てを受け入れてくれる。ポカポカと太陽のようだ。
「でも、名前を賭けるということは人間にとってはとても大事なこと。
簡単にあしらっては駄目よ。
名前を賭けるのは命を賭けると同じ事。
確かに私たちには価値のないものだけれど、それほどの意味があるということだけは分かってあげてね」
う~ん、なるほどね。あんまり軽んじては失礼だね。
「そうだったのか……ごめんなさい。」
2人に向かって頭を下げる。
慌てて2人もまた頭を下げてくれる。
それから少しだけ雑談をして、2人は帰って行った。何度も何度もお礼を言って、恐縮するほどに。




