私と人間
朝日が昇る、気泡がキラキラ照らされて一つ一つが宝石みたい。
上半身だけ水面に出してスウゥと深呼吸をする。
遠くの方で魚が跳ねる音がする、海の音がポチャポチャとなって気持ちいい。
ここが私の住む場所、私の生きていく場所、私のいる世界。
生前に比べてとても敏感になった私の耳は、遠くの音も聞こえるし。
音感だって良くなった。
「人魚は歌うことが大事だから、みんな耳はいいのよ。」ってこの間ローサさん言っていたなあ。
星の砂が敷き詰められた砂浜を少し行けば森がある。
森に囲まれている場所だけれど、海中からなら森の外の海へ繋がる。
耳の後ろにエラのような小さな裂け目があるから、水中で息出来るしね。
でも外では肺呼吸っぽいし、不思議な身体……。
新月と満月の日に私たちは足を得る。
ルンダさんもローサさんも人間になる。
森に入って木の実を取ってきて交換したり、珍しいものを拾ってきて自慢したり
その日は皆動き回る。
ガサリ。
水平線を眺めていると森の方から足音が聞こえる。
鼻まで潜り足音の方向に体を向ける。
「ここら辺のはずなんだけれど……まだ時間が早いかな。」
若い男の声だ。
「ちょっと宿を早く出すぎたのよ、もっとゆっくりしていてもいいのに。」
今度は若い女の声。
珍しい。
行商人ではない人間が来た。
週に3回くる商人とは私たちの真珠や鱗、海の幸などと交換で木の実や雑貨などをくれる。
けれども商人は昨日来たみたいだし、誰なんだろう……。
あまりこの世界の状態が分からないから無暗に近づくのは怖いなあ。
「ねえ、クック、本当にこんなところに人魚がいるの?」
クックと呼ばれた男はグレーに近い青色の髪を短く整えており、マントを羽織っている。
「もう、僕が嘘ついたことなんてある?マーミリアは疑いすぎだよ」
この女性はブロンドの髪がくるくるふわふわ巻かれている。
ちょっと切れ長の目が怖いけど、それ以上に彼を呼ぶ声はとても心地の良い音だ。
2人ともマントを羽織っているけれど、旅人なのかな……。
ちょっと森のほうを見ると荷物が入った馬車が待機されている。
まさか、人魚を乱獲しにきた?売られる?実験されるの?
どうしよう、静かに潜って逃げるべきだよね……とにかく一度この場を離れよう……としたときだ。




