赤眼のレリク 第89話
~イクト山脈 レリク視点~
暑いな。
これでは気温が40度を超えているだろう。
この子には相当しんどいに違いない。しかし、彼女は俺にあきもせずについてきている。だが、体力は限界のようだ。
彼女の体がふらつく。
俺がその体を支えた。これからいくところにいくにはこの山脈を越える必要がある。俺は水系統があまり使うことができない。だから、彼女自身がこの山脈を越えるしかない。俺も何とか手伝ってやりたいが、彼女自身の体力を向上させることはできない。
「大丈夫です…。」
「大丈夫ではない。一人でまともに歩くこともできないやつが強がるな。」
彼女の目はどこか虚空を見ているようだ。この様子だと、脱水症か、熱中症になったのかもしれない。ここでは少しまずい。休む場所は確かにあるが、いつ、モンスターが出てもおかしくない。
「仕方ない。俺の背中に乗れ。おぶってやる。」
「しかし、ここまでしてもらって、迷惑をかけるわけには…。」
かえって、俺の計画が遅れること自体が迷惑だ。だが、彼女はどうしてそこまでして俺についてこようとする。
「このままいけば、俺の予定が狂ってしまう。すまないが、乗ってもらう。それとも、お姫様抱っこのほうがよかったか?」
「いえ、背中に乗ります。」
そういって彼女は俺の背中に乗ってきた。とはいえ、彼女も女に変わりない。俺の背中にやわらかいものが当たっているのがわかった。
「重たくないですか?」
ここで、重たいっていったら殴ってくるに違いないだろうに…。俺は答えた。
「重たくない。むしろ、気持ちいいぞ。」
「……。」
彼女は黙ってしまった。もしかしたら、顔を赤くしていたりするのかもしれない。彼女は見た目よりも純情だ。
ザッザッ
俺たちは道とはいえないような山道を歩いている。だが、歩いているのは俺一人だが…。どうやら、彼女は疲れて眠ってしまったらしい。当然だ。冒険者や傭兵もこういった道は避ける。それは、モンスターが出ることと、何しかしらの伝染病を恐れているからだ。ここは山脈とはいっても、ジャングルといったほうが普通だ。蛇なんかも当然出てくるし、何よりもアリなどの小さな昆虫が怖かったりする。しかも、ゴキブリが普通のところよりも大きくてなんか不気味だ。
何とか思いながらも気分はいつもよりも高揚しているようだ。こういう風にジャングルを探検したりするのは何年ぶりだろうか?もう3年ぐらいになるのか?正確にはわからない。しかし、女が一緒にいるとは思わなかったが…。
俺はその後も順調に歩いていった。ここは歩いたことがあるとはいえ、モンスターのレベルが強い。彼女を守りながら、戦っていたら少し手間取る。
少しいったところに俺は洞窟を発見した。俺は迷わず、その洞窟に迷わずに入った。ここはかつて俺が寝泊りしたことがある場所だ。安全なのは確かだろう。もし、何もいなければだが…。
俺はリュックからランプを出した。これはメラル製の新技術だ。火の属性を持っているものは術エネルギーを少し入れて入れるだけで、たいまつのように光ってくれる。俺はエネルギー自体が多いので、助かっている。金額もかなりのものだったことは確かかだったが…。まさか、売る人にまで帳簿をつけているとは思ってもいなかったので、裏ギルドに頼んで手に入れた。先日受け取ったものはこれだった。本来は闇市なんかでは売られていないものだ。
俺は彼女を下ろし、状態を確かめた。どうやら、命に別状はないようだ。しかし、通ってきた場所が場所なので、少しの間は見てやる必要があるだろう。
俺はランプを彼女の隣に置いた。
しかし、俺が彼女の顔をじっくり見たのはこのときが始めてだった。髪は短く、切っている。完全に僕っこ的な感じかもしれないが、よく見てみると顔立ちは整っている。体の線も悪くない。というよりも俺のタイプそのものだ。だが、誰かに似ているような気がする。いったい誰に似ている。俺はそう考えながら、彼女の顔を見つめ続けた。
そうすると彼女が目を覚ました。
「どうかしましたか…?」
彼女は冷静を装っているが、声は明らかに上ずっている。
「いや、俺の知り合いの誰かに似ていると思っていてな。すまない。少し見つめすぎた。」
俺は正直謝った。これから少しの間はともに旅を続けるのだ。気まずいままだとやりにくい。
彼女は顔を下に向けた。顔が少し赤くなっている。照れているらしい。
「いえ、そんなことないです。むしろ、レリクさんは私に良くしてくださっています。記憶喪失な人をそばに置いておく人なんてそうはいると思いません。しかし、なぜ、私を連れていってくれるのですか?レリクさんの行程だと私は明らかに足手まといです。」
そう。それが俺にもよくわからなかった。どうして彼女を連れていこうと思ったのか?
「それが俺にもよくわからない。でも、君をほっておけなかったのは事実だ。それだけは信じてほしい。」
俺は彼女の目を見つめた。
彼女も俺を見つめた。
「もちろん、信じます。」
そういってもらえば、安心だ。
「ありがとう。ここは安心な場所だ。昔、ここを旅したことがあってな。ここはそのときに使った休憩場所だ。」
「そうだったのですか…。」
「ああ、俺は少し狩りに出かけてくる。もう少しで食べ物が尽きてしまう。」
「すみません。私のせいで…。」
そういって彼女はまた顔を伏せてしまった。
「いや、そんなことはないさ。君に俺の計画につき合わせることが間違っているから…。」
俺はそういって出て行った。