赤眼のレリク 第60話
~ロス視点~
「これはひどい状況ですね。」
「さすがにここまでの状況を体験するのは久しぶり。」
至る所に家の残骸が転がっている。もちろん、ほとんどが焼失してしまっていて、それがどのようなものなのか、確認できるほうが少なかった。死体も焼けているものが多い。人が焼けているにおいはいつまでたっても慣れることのない匂いだ。
「吐かないなんてすごいわね。もやし。」
「僕もそれなりの経験をしてきましたから。」
「そうね。まずは生きている人を助けることにしようか?」
「ええ。しかし、この状況で生きている人は少ないと思います。」
「それは…。でも、ほっとけないでしょ?」
「ですね。しかし、どうします?僕たちはレリクさんみたいな能力は持ち合わせていません。しかも、この町は旧首都だけあって、範囲が広すぎます。それに…。」
ズゥゥゥゥゥン
「どうやら、あちらのほうには行けないですし…。」
そういって、僕は砂煙が上がっているほうを見た。
「そうね。あの戦いに巻き込まれたらどうにもならない。私たちは死ぬ。私の能力も限られているし…。」
「ん?あれは…。」
足を引きずって歩いてきている人たちを見つけた。
「生存者はいるようね。」
「ええ。あの人たちから話を聞きましょう。」
僕たちはその人たちのほうへ走っていた。
「兄さん!」
「ラス、どうしてここに…。」
俺には少しは年の離れた弟がいた。
名前はラス。しかし、彼が5歳のとき、僕は軍から追われることになったので、それ以後彼には会ってはいないが、小柄だった彼もこの3年ぐらいの間にずいぶんと大きくなったらしい、10代と間違われるぐらいに大きくなっている。
「兄弟がいたの?もやし。」
「ええ。」
「その話は後でしてください。ウルゲイ様が足を怪我しています。何とか、ここまでたどり着いたようですが…。」
彼の周りにいる人たちも、どうやら無傷ではないようだ。しかし、致命傷になるような傷は負っていないらしい。どうして、
「分かった。ここで応急処置を行う。その間に今の状況を説明して。」
彼らはウルゲイを降ろした。どうやら、太ももに大きな傷がある。出血が多いのは動脈を切ってしまったのだろう。
「それ…よりも…先に…言うことがある…。」
ウルゲイがか細い声で言っているのが、分かった。
「ロス。これでは間に合わない。あなたも手伝って。」
「分かりました。」
どんなに憎い相手でも人間は人間だ。彼は彼なりにここの住人をそして、国を守ろうとしている。
「先に…聞け。」
「ウルゲイ様、もうしゃべらないでください。」
ラスがうっすらと涙を浮かべながら言っている。
「そのとおりよ。今は、私たちに任せて。」
そういって、ラリアは傷の手当を術で始めた。僕もそれに付与しなくてはならない。
だが、彼の言葉は僕たちに絶望を与えることだった。
「ここの…町に…アクアがいる。」
僕たち二人は思わず、ウルゲイの声に耳を傾けた。
「うわさは本当だったのね。しかし、彼女はいったいどこに?」
ラリアが言った後にラスが言った。
「どこにいるのか、分かっていないのです。テディーさんから情報が来ました。ここまで、くるのに僕たちはアクアの気配を気にしなければならなかったために、少しくるのが遅くなってしまいました。」
この人数で勝てるものか…。そういいたいのを堪えて、僕は続けた。
「だから、あんなに僕たちに対して殺気を放っていたのか…。」
「「「すみません」」」
複数の人間が頭を下げる。
「いや、気にしなくてもいい。」
僕らはウルゲイを治療しながらも続けた。
「おっちゃんの術はおそらく、伝達のできる者にだけ送ったのね。だから、私たちには聞こえなかった…。この中では弟の君が連絡役だったということね。」
「ラスがそこまでの能力を持っていたのか?」
俺は正直、驚いてしまった。彼は人一倍体の弱い子供で、風邪をこじらせて、肺炎になることも多かった。
「兄さん。昔の僕とは違います。それよりもレリクさんはここに残って戦うことを選びました。後、アクアのことも伝えているそうです。」
それはそうだろう。あの怪物に対抗できるのは彼しかいない。
「それから、生存者のことですか、レリクさんの…。」
ラスの意味することは十分に理解することができた。ラリアも同じだったらしい。
「言わなくていい。あなたたちのせいではない。」
ラリアがラスの言葉を遮った。
「よくがんばった。ラス。」
僕はそういった。本当にこの若さでここに残ることを決意した。それだけでも、勇気の要ることだ。
「まだ、言うことがある。私は…アクアのいる場所を知っている…。」
何だって。どうしてそれを早く言わない。
「どういうことですか?」
「君たちは…知らなくてもいい…。レリクにこう伝えてくれ…。アンガスが…アクアの相手をしている…。」
彼はそういって、力尽きた。
「ウルゲイ様!」
ラスや周りの人たちが異変に気づいたらしく、近寄ってきた。
「大丈夫よ。気絶しているだけ。もうこれ以上の処置はここでは無理だわ。それよりも早くその情報を赤眼に伝えなさい。」
ラリアがそういった。
どうして、ここに師匠が来ている?僕はそう思った。