赤眼のレリク 第48話
「間に合ったな。」
「ええ。もう少しでラリアが死ぬところでしたね。」
アクアの術は途中で解除されたらしく、ラリアが目を覚ますことはなかった。
「どうします?」
「連れていくしかないだろう?」
「しかし、」
「また、操られる…か?」
「ええ、言いたくはありませんが…。」
「そう都合はよくないだろう。実際には何かしらの制約があるはずだ。たとえば、今回のように気絶したら、呪縛から解放されるみたいな…。」
「そのほうが都合がよいと思いますが…。」
「ここに置いて行くわけにもいかないし、もし、解放されていたとしたら手掛かりが見つかるかもしれない。本当に彼女がそのような力を持っているのか?それとも、俺たちが思っているような能力ではないかもしれないし…。」
「レリクさんって優しいですね。」
「俺がか?まさか…。」
「普通の傭兵や冒険者は見捨てて行きます。命狙われて、しかも敵に操られているかもしれない人を助けることなんてしません。まして、これから帰ることも考えるとどう考えても足手でまといですし、何より運ぶのが面倒だ。別にあなたのことを攻めているわけではありません。それはきっとあなたが強すぎたからでしょうね。」
「何の話だ。」
「分かっていないのならそれで結構です。しかし、これだけは覚えておいてください。アクアは助けても助けられるような人ではないということを知っておいてください。あなたが殺さなくても他の誰かがアクアを殺します。それだけは確実です。」
「分かっている。分かっているよ。」
ロスの言うとおりだ。傭兵なる時の心得の1つを思い出していた。それは「常に背中に気を配れ」。いかなる時も気を抜くな。後ろに敵がいると思え。そういった言葉だ。俺たち傭兵は前にも言ったように汚い仕事が多い。人に狙われることなんて多い。よくいうよな。あの人は戦争で死にました。どういった死に際か、あまり言わない。もちろん、分からないことが多いのは事実だ。その隊が覚えていたとしてもその隊の全員が死んでしまったら、全く分からなくなる。死体がどうなるかなんて分かっている。本当に悪い敵だったら、とらえておとりに使うこともある。というより、よく使う手だ。そういった中でいちいち味方の確認なんてできないかもしれない。それが災いするのが戦争だ。戦争は不幸か幸福なのかわからないが、人殺しの英雄ができてしまう。そういった人たちは上にいって指揮するようになる。しかし、政治は苦手なことが多い。戦争が終わったらどうなるか。そんなものすぐにわかる。邪魔になってしょうがない。だから、ある程度活躍して死んでもらったほうがいいのだ。直接、兵を指揮するのは彼かもしれないが、状況を把握して作戦を練るのはもっと上の人間だ。考えたくはないが、その先はもうお分かりだと思う。だから、傭兵は傭兵の指揮に従うのはここからきている。戦争後のやっかみを受けないからだ。あくまで自分の経験論からだが…。
そういったことが多かったからか、戦争のときには傭兵は敏感になる。死んだ、その事実は変わらなくても、味方に後ろから刺された。そういったこともなくはない。戦争に行くのは若いものが多い。手っ取り早く金が稼げるからだ。俺やロスみたいにいつの戦争にも参加するような奴は珍しいのだ。
それにしても、今、ラリアが目を覚ましてしまうと厄介だ。俺も止めはしたが、さすがに服は焼けてしまったらしい。ということで、今、彼女は丸裸の状態だ。
「結構、胸あったんですね。ラリア。」
「ああ、そうだな。普段は見られたくないから、何かで押さえつけていたのだろう。」
「ちょっと、触っても。」
「やめておけ、厄介なことになるぞ。」
とはいいつつも俺も、彼女の体を凝視していた。
「おい。」
俺の注意もむなしく、ロスが彼女の胸へと手を伸ばしたとき、彼女の目が開いた。
………
「う、う~ん…。」
「いうことが逆のような気がします。ラリア。早く助けてくださいよ。レリクさん。」
「俺は知らん。」
ロスは手を伸ばしたところで顔面に拳がめり込んだ。彼は盛大に後ろへ吹き飛んでいったところへ、彼女は得意の土系統の術でロスを拘束してしまった。
「ここは?なぜ、ここに赤眼がいるの?もやしっ子までここにいるじゃない?一体どういうこと?」
俺たちは顔を見合わせた。彼女は俺たちのことをあだ名で呼ぶらしい。それはよく知っていた。女がいること自体が珍しいからな。うわさはよく聞いていた。しかし、ロスは変な呼び方をされているな。
「どうやら、戻ったらしいな。」
「そうですね。気絶したら解放されるみたいですね。少しでも能力が分かってよかったです。しかし、この状況を無視しないでください。」
俺はあえて無視し、話を続けた。
「そうだな。対策を練ることもできそうだ。」
「それより、なんでこんなところに連れてきたのでしょう?早くしてください。股にまで砂が入ってきます。このままでは男性として機能できなくなります。」
それでも、俺は無視し続けた。
「つれてきた理由はよく分からない。しかし、彼女はウルゲイを狙っていることは間違いないように思うぞ。だが、これは彼女がおそらくかけた罠にしてはあまりに陳腐だ。ラリアは弱くない。それでも俺たち2人に勝てるような力はなかったはず。もし、戦うにしても多くの傭兵が必要。電撃のルイ等がいれば、別かもしれないが…。どちらにしても、相手にはあまりメリットがないように思える。ちょっと待て、ロス。俺の中の情報を整理する。俺たちを誘き出す…。傭兵…。各国の情勢…。操る能力…。」
「ちょっと、私を置いていかないで。ここはどこで何をしていたの?」
「そうか、もしかしたら…。」
「何か分かりましたか?それよりも早く解除してください。ラリア。」
「うるさい。もやし。」
「急いで戻らないといけないな。俺の仮説が正しければ…。」
「「?」」
「話が見えないよ。赤眼。」
「それよりも今の自分の体を見たほうがいいと思うぞ。スースーしないか?」
「えっ……キャアアアアアアア。」
俺たちがラリアの女らしい一面を見たときだった。
無事でいろよ。ウルゲイ。