赤眼のレリク 第40話
「久しぶりだな。レリク。」
「ああ。お前だったのか?今はウルゲイと名乗っていたのか。道理で馴染みがないわけだ。さて、これがどういう状況なのか説明してもらおう。そして、あのあとのことを説明してもらいたい。そして、ここにはテディーはいないのか?」
その椅子に座っていたのは親父の友達の男だった。
「質問が多すぎる。すべてに答えるのは混乱してしまうだろう。とりあえず、テディーのことから説明しようか?」
「ああ。いいだろう。」
「その前に…。」
「「何だ?」」
俺とウルゲイと名乗っている彼の声が重なった。
「僕はあなたたちの関係を知らないのですが、説明してもらっても?」
俺はこの前の出来事を説明した。そして、俺と父の関係も話した。その中に彼が出てくるのは普通だ。
「分かりました。ありがとうございます。」
ロスも一応納得したらしい。おそらく俺が推測するにこいつが殺されかけたのはこの男の指示だったのだろう。
しかし、今、ここにいるのは謎が多すぎる。説明してもらう必要があるだろう。
「テディーは今はこことは違うところで守りについている。君が彼を心配する理由が少しわからないが、まあ、いいこととしよう。しかし、彼はちゃんとこの町に滞在している。それは後々説明する。順番が違うが、今度はこちらが聞きたい。アクアは逃げたのだな?」
「ああ。油断していたのは事実だ。それに彼女はもう止まらないだろうからな。あそこでしとめるべきだったのかもしれん。」
「まあ、いい。何があったのか、知らないが逃がしたのは事実だろう。ということで、我々は国を挙げて、アクアの探索を開始した。もちろん、君が殺したという可能性も否定できなかったが、しかし、あのときの状況から考えて、彼女を殺したとは到底考えにくかった。それから、探し回ったが、彼女は一向に見つけられなかった。君たちにも動いてもらいたかったが、それは無理な体だったな。」
「そうだな。ロスはともかく、俺は無理だった。」
「僕も完全に動けるような状態ではなかったです。」
彼は少し息を吸った。
どうやら、思ったよりもまずい状況というのは本当らしい。しかし、この男が心を乱すとは…。それほど何かあるのか?
「それから、私は彼女についての調べを続けた。探していくうちにここの存在が浮き上がってきた。彼女は自分の情報なんか漏らすわけない。しかし、上はそれを全く聞かなかった。とりあえず、今が、彼女を殺すチャンスということしか伝わらなかったらしい。」
彼はため息を吐いた。
「罠の可能性が強いとは私は踏んでいた。もちろん、極秘とはいえ、これは誰かに相談することでもない。仕方なく、私が信用できる腕利きの騎士と傭兵を雇った。しかし、問題なのはそこではなかった。それを説明をするには今の状況を説明しなくてはいけない。」
「わかった。」
「さて、今の状況を説明しよう。簡単にいえば、私は命を狙われている。どうやら私があの鉱山の爆破計画を立てたことがばれたらしい。とはいってもあくまでも提案したのは全く別人なのだが…。彼女は今、この首都にはいない。それは確かだ。しかし、私はここ何日か襲撃されている。ここの人間ではないとは思っているが、それは今も調査中だ。とらえたものの尋問を行おうにも彼らは強い。周りを固めていたのはメラルでも指折りの騎士だったのだが。」
「彼らは何か言葉を発していたか?」
「いや、そんなことは言ってなかったと思うが…。私の考えではダーク・デビルの特性が解放された可能性がある。」
「特性?何ですか?それは?」
「マラリスの特性だよ。俺のマラリスも特性があるだろう。毒に対する耐性と火の耐性。そして、火系統の強化。マラリスにはそれぞれ特性があることが確認されている。まあ、今のところ、確認されているのは少しだけだが…。」
しかし、どうも妙だ…。
「ということは…、あの状態でも解放されていなかったということか?」
「あくまで推論だがな。しかし、今まで彼女に変わった特徴はなかった。そうお前みたいに特徴があることはなかった。確かに術エネルギー量は半端なく大きかったが…。」
「あれはあいつ自身のエネルギー量だ。」
「そうらしいな。全く。困ったものだ。」
「それでその特性は何だ?」
「その前にその襲撃した者たちの話をする。」
「捕まえられなかったのでは?さっきそう言いましたが…。」
「襲撃のときは捕まえることができなかった。しかし、彼らが倒れているのが見つかった。その少し先でな…。」
「それで?」
「記憶がないらしい。」
「記憶が…。」
「記憶喪失ではない。ここに来るまでと俺を襲ったことやここでの生活を覚えていなかった。」
「ということは…。」
「彼女の能力は人を一定期間操ることができる。」
本来そういった術は存在する。しかし、その場合は自分の意識がそのかけた人の意識を支配することによって操ることができる。しかし、この術は雷系統の術でかなりの技術、集中力、また、操る人の抵抗力もないといけない。もしそういった能力がない場合、過度な刺激を与えてしまい、ショック死にいたる。そのせいで脳の中が解けてしまうこともあるらしい。そのためこの術は使われることはない。それに加えて操る側の人間が気絶していないと意味がない。意識がないほうが支配しやすいためだ。昔は尋問に使われたらしい。しかし、凶悪犯や死刑囚などに限ってだが…。
「厄介だな。」
「ああ。特定もできないし、何より無実の人たちが敵になるのは国家としてはあまりよろしくない。今のところ圧力をかけているから事実がばれていないが、もし、ばれたときにはかなりの騒ぎになる。何しろ誰が仲間かわからない状態になってしまうからだ。確かに上は今回の事件を重く見ている。それがどう処理するのかはこちらに任されている。私はお前たちのことも評価しているつもりだ。本来ならここのウルゲイには入れなかったところを特別に許可している。」
「おまえ、あの爆破を俺とテディーになすりつけたな。」
「まさか、テディーにはなすりつけるわけないだろう。お前だけだ。あれほどのことをできるのはお前ぐらいしかいない。とはいっても表向きだ。知っている奴は知っているはずだ。そもそも犯罪者がそう簡単にギルドに出入りできるわけがないだろう?それはお前がよくわかっているはずだ。」
「それはそうなのだが…。お前まさかとは思うが…、ここにわざと俺たちをおびき寄せたな。アクアを出しに使って。」
犯罪者。そう扱われる者は何らかの罪を犯している。騎士が逮捕できるものはすぐに逮捕される。そういった場合は賞金は支払われない。逮捕したのは国ということになるからだ。しかし、ギルドに委託した場合は異なり、すぐに賞金首となる。そういったものたちはギルドには立ち寄ることができない。すぐに逮捕されるし、追われることになるのは目に見えている。だから、それを認可している裏ギルドが暗躍することになる。汚い仕事でもやらなくては食っていけないのはしょうがない。金がなくてはどこでも生活することができない。裏ギルドでは使えなくなったものは消される運命にある。だいたいはそうして破滅していくものが多い。そして、邪魔になったものは裏ギルドが殺す手はずとなっている。しかしながら、例外も多く、裏ギルドでも逃すような奴らはいる。
そうした人たちは一級の賞金首となる。犯罪者にはそれぞれ賞金のレベルがあり、一級ともなると逮捕した場合は30年ぐらいは遊んで暮らせるような大金が手に入る。それを目当てにして討伐隊が組まれたりすることも多くないが、ほとんど全滅して帰ってくる。それほどに強いやつがなる、ある意味、名誉なことなのだ。
一時期、賞金首の奴らが同盟を組んでいたこともある。それがアクアの討伐の時だ。あいつは2年前、力を試すためかたくさんの賞金首の奴らをとらえていた。犯罪者は群れることがあまりできないし、人間不信に陥っていることが多い。裏切りにあって、しかも命を狙われているのだ。そうなるのも無理はない。それが当然だろう。しかし、大勢がつかまっている場合はそうはいかない。自分ひとりの力だけでは自分の命さえもまともに守りことができないからだ。そういった意味でも彼女を逮捕するために多くの賛同者が生まれ、史上初の大同盟へとつながっていった。その結果はわかりきったことではあったが…。
「しかし、こちらとしてもこれ以上野放しにはできない。今のところ未定だが、大規模の討伐隊が組まれることになるだろう。その時になったらお前たちにも召集がかかることになる。その時まではアクアを追っておけ。これから言う情報は信憑性に欠けるが、そういう情報でも構わないなら教えてやる。」
「教えてくれ。」
「この国にはいないという情報といるという情報を得ている。これはさっき話したな。しかし、もうひとつ、情報がある。それはこのウルゲイにいるということだ。しかも、アクアはどうも2人で行動している。それは事実という線が強い。複数の目撃情報も得られている。ただ、その1人は傭兵の可能性が高い。そして、前に話したことを考えるに、その傭兵は操られている可能性が高い。完全なる従者として、操られているようだ。それが事実であれば厄介だ。この近くに本拠を構えているとみられている。あいつらがいるダンジョンは断末の谷。そこにいるらしい。普通では考えられないことかもしれないが、今のレリクなら行くことができるだろうし、彼女も行くことはできるだろう。しかし、どうして二人なのか?そこの理由がこちらでは把握できない。確かに人間の考えることなんてたかが知れているかもしれないが、一方で一定の規則性に従って人間はたいてい動いている。今回の行動はどの資料の中にも当てはまらない。もうひとつは少し情報にかけていて、いうことはできない。」
あそこは本来、人が通れるような場所ではない。モンスターのレベルが高いのが大きな特徴だが、ドラゴンが叫ぶ声が聞こえることとその泣き声が人が死ぬときに叫ぶときの声とよく似ているためにその名前が名づけられた。それ以来、そこに行ったものはいない。唯一行ったのは、この国の初代国王らしい。何やらあいさつに行ったとか…。一体誰にあいさつに行ったのか。未だに不明だ。しかし、伝説となっているのは間違いない。普通の人間ならば、あんなところには行くことはないだろう。俺も昔、挑戦してみたが、あまりのモンスターの強さに撤退を余儀なくされた。統制された、そして洗練された動き…。ありえない強さだった。
「そんなところにいるというのは考えにくい。」
「どうしてだ?アクアの実力なら行くことも可能だろう?」
「仮に行けたとしても戦いばかりだ。そんなところに行って何の得もない。特にアクアにとっても…。今、あいつが行くのは困難なことだ。何かがあるとすれば別だがな。」
「何か?何です?」
「さあな。私にはよくわからんが。しかし、マラリスはあるだろう。それは間違いない。それを狙いに行ったのかもしれない。あそこは人がいないところなのは確かだ。いたという文献もない。それを調べたいが、犠牲が計りしれん。それに俺たちは別の仕事でも忙しい。」
「別の仕事?ああ。」
「噂というのは面倒だから。そう簡単に消えないのも分かっている。戦争は消費ばかりだからな。早く消すに限る。もしかしたら、それを見越しての噂かもしれないがな。ともかく、お前たちには別段何を求めるというわけではない。それでもお前たちには調査に行ってほしい。このままでは少しまずいことになる。しかし、目立つような行動は避けてくれよ。何か情報が入ったら伝える。じゃあ、これで話は終わりだ。」
ウルゲイはさっさと席を立とうとした。しかし、それをロスが遮った。
「待ってください。もう1つの情報は…。」
俺は情報から考えていいたいことがわかっていた。襲撃されてもここにいなければならない理由はひとつしかない。テディーがそれに協力しているというのもそれに絡んでいるのだろう。
「おい、余計なことを聞くな。それに察してやれ。」
「えっ?」
ロスはあまり気がつかないらしい。無理もない。こいつには国というものに興味がない。そもそも、傭兵で国に対して詳しいやつなんていない。俺が特殊なのだ。
「すまん。」
「まあ、いいってことだ。情報頼むぞ。」
そう言って俺たちは重い空気を纏った部屋を出て行った。