赤眼のレリク 第33話
~宿にて~
~二日後~
「どうでした?」
「俺のほうは全然だ。」
「僕のほうは少しだけ気になる情報が…。」
「どんな情報だ?」
「彼女が逃げたとレリクさんが言った方向に女が2人通ったそうです。」
「女が二人か…。」
「ええ、なんとなく怪しい情報ですが…。」
しかし、このような情報が入っているだけで十分だと思った。これ以上の情報ももしかしたらあるかもしれないが、手に入れたころにはもう違うところにいるだろう。経験上ここからが潮時だ。ナルミの家で1週間休んで、ここで1週間働いた。移動時間も考えるともうすぐ3週間。これ以上同じところにとどまっているとは思えない。確かにかなりあいまいで、危険なにおいがしてならないが、ここにいてもこれ以上の情報は入らないだろう。しかし、そこに行くにはここからは一週間はかかるかもしれないが…。
「行きますか?」
「ああ、いくよ。」
「そうですね。明日には行きますか?」
「いや、少し準備してから行こう。明後日に出発する。それまでは自由行動だ。」
「分かりました。」
ロスが出て行ったあと、俺はこれからどうするか考えていた。
~首都メラルから20キロ先~
ここは首都メラルから1日ほど歩いたところだ。野宿をしているが今回はいつもよりも楽だった。1人見張ればよいので眠る時間が多く取れる。1人だとどうしても浅い眠りになってしまい、疲れてしまう。1週間もすれば疲労が溜まってしまい、どこかで休まなくてはならない。
「まさか旧首都のウルゲイにいるとは…。お前にあの後聞いてびっくりしたぞ。さすがにあそこに出入りする人間は少ない。今回はあたりかもしれないな。」
「しかし、かなり不確かな情報ですよ。大体、何の裏も取れてない情報ですからね。聞き込みでもまったく、空振りでした。」
「そこが気になるところだ。ここまで姿を隠すにはかなりの技術がいるはずだ。それにどんなことをするにしても、検問などで引っかかる。俺たちのようにわざわざ変なものを仕入れない限りは…。」
普通、都市に入るにはそれになりの身分が必要となってくる。しかし、それを可能とするが、ギルドのマークカードだ。
それは個人情報がぎっしりと詰まっている。どんな任務を受けてきた、生まれや生年月日、血液型はもちろん、家族構成やその所在までもが完全に記入されている。
それは傭兵が間違った道に行かないようにするために作られたという、あまりよくない歴史が作り出したものだ。それがある限り、どんな都市でも自由に出入りできるが、その分制約されることはもちろんのことだ。
今回はギルドの紹介で裏の業者からマークカードの提供を受けている。普通の人には知られていないが、ここのギルドにはちゃんと話を通している。
俺たちの向かっている旧首都のウルゲイは不吉な街として知られている。3代前の皇帝が即位した折には大規模な飢饉に見舞われ、餓死者が続出した。それが収まった3年後には近くにあるウルゲイ山が大噴火をおこし、街の4分の一がマグマによって壊された。もちろん火山灰の影響もあって次の年にはまたもや飢饉が起こってしまった。その4年後には皇帝が病によってなくなり、次の皇帝が即位したときには反乱がおきてしまった。首都がたびたび壊れてしまったために、国民に重税をかけざるを得なくなってしまったのだ。その反乱が収まった2年後には伝染病が大流行し、10万人の人が命を落とした。これだけのことがあったので皇帝は遷都を宣言し、今のメラルに遷都した。それ以後全く不吉なことは起きなかったため、ウルゲイは呪われているとか不幸の町、皇帝の住めない首都などと言われている。何か胡散臭い話でもあるが…。しかし、それからというものほとんど人が寄り付かなくなったために、スラム化し、治安が非常に悪い町としてもよく知られている。もし、彼女が隠れるとしたらいい場所かもしれないと思い、今回はロスと一緒に向かうことにした。だが、ここではそれなりの人が集まっているため、俺たちのことも機が付かれてしまうだろう。
「そうですね。もう100年も前の話ですし、尾びれがついていてもおかしくないです。」
「ああ。すべてが本当ではないだろう。こんなことがあったら、国として雲行きが怪しくなる。国の運営にもある程度、運というものが必要だな。」
確かに長い年月の間には飢饉や伝染病など流行、災害というのは起こってくるものだ。それが続けて起こるか、一定期間を開けて起こるかで国民の印象は随分違う。国民もなんとなくその時になったら備えをし始める。しかし、たいていの場合は気づくことが遅い場合が多く、それに何回も立て続けに起こってしまうと準備どころかその場しのぎで精いっぱいになる。その影響が国自体の存亡へと向かっていくのだ。文献上、いったいどうやって反乱を鎮めたのかわからないところに何かありそうだが…。
「レリクさんは任務などでウルゲイに行ったことはありますか?」
「聞くのが遅い気もするが…、行ったことはないよ。近くまでは行ったことはあるが…。それに治安が悪いところでは俺は狙われすぎる。行くのは今回限りになるかもしれないな。」
「まあ、そうですね…。そういえば裏のブラックリストにレリクさんが載っていて驚きました。それにしても、こんな遠くに訪れたことがあるなんて、近くに何かあるのですか?」
「いや、叔父が鍛冶をしているからそこに行っただけだ。」
「そうなのですか。その槍を作った方ですか?」
「ああ。そうだ。今回は彼のところには行かない。全く関係ないことでもないからな。帰って心配かけるのはよくないだろう。それに彼はめんどくさいことにはかかわらないようにしている。」
「しかし、何か情報を持っているかもしれませんよ?」
「彼のもとに来る人は少ない。知っていることも少ないだろう。俺の噂も知っているかどうか分からないぞ。」
「まるで仙人みたいな生活をしているのですね。」
「そういう人だからな。起こらせると怖いぞ。お前はなよなよしているから会わないほうがいいだろう。いきなり殴られるのがオチだ。」
「そんなにはっきり言わないでくださいよ。落ち込みます。僕そんなに弱そうに見えますか?」
「見たそのままを言っただけだ。戦うと違うのだからいいだろう?見た目は関係ない。」
「まあ、いいです。レリクさんのことが少しわかった気がします。」
そんなこんなで俺たちは1週間、歩いてウルゲイへ向かった。