赤眼のレリク 第31話
~レリク視点~
昼飯は焼き飯と野菜、そして焼肉だ。さすがに金額が安いだけあって料理もそう手の込んだ料理ではない。だが、量がたくさんある。これならこの金額でも納得というものだ。しかし、ここでの仕事を受けたのはそれだけではない。情報を集めるために受けているのだ。
「少し聞きたいことがあるのだが…。」
「んっ、何だ?」
俺はここの現場を仕切っている、棟梁に聞いた。この人はこの球場の修理のほうをメインに監督しているらしい。
こっちはある程度、時間たたないと分からないから当然だが。信頼されていると思っていいだろう。
「見てみると最近ここは使われてないみたいだな。何かあったのか?」
「ああ…。そうだ。もしかして、君は他所から来たのか…。最近の情勢は知っているだろう?」
「聞いた。」
彼は少し声を潜めるように話をした。
クトルとイクトが少しくすぶっているらしいということを聞いた。いつも戦争した国だ。公約が切れればまた戦争が始まるだろうことは誰が見ても明らかだった。しかし、まだあの大戦から2年しか経っていない。どう考えても戦争の傷跡が大きく、これから十年の間、戦争は起きないのではないかと思っていた。あくまで戦争だ。少しの衝突ぐらいはあるのはしょうがない。いつも憎み合っていたのだ。歴史というのは人類の過去の栄光や発展の経過を示したものだが、それと同時に負の財産である、憎しみや怨念を残してしまうものがある。それが戦争というものだ。
各国には大きな会場や闘技場、球戯場がある。それは時には友好の証として大会などが開かれるためだ。さすがに相手の国ばかりだけにお世話になるわけにはいかない。しかし、一時期みたいな本格的な戦争やくすぶっているときなどは使われないことが多い。それは各国のトップたちが集まるため襲撃やテロなどが起こってしまうからだ。それでも、戦争が起こっていたとしても大会が開催されたこともある。球技や闘技などと戦争は別の話だ。あのときは各国の傭兵が集められ、お互いに牽制し合ったらしい。有名な話だ。
「その中でも怪しい情報が流れていてな…。」
「それは…?」
「ここだけの話だ。メラル・ガジスが同盟を結んだらしい。」
それは無視できない話だろう。特にクトル、そしてイクトにとっては…。今から戦争を始めようというのにメラルとガジスが同盟を組んでいるとしたら、それなりの防衛隊は残していかないといけない。
「本当か?」
「疑惑の枠を超えないのだが、確かに思い当たる節もある。先週、トップが顔合わせをしたという噂が流れていてな。普通はこういう話題は消されることが多いのだが、いや、この国ではだが。」
「分かっている。続けてくれ。」
「同盟の内容はこうらしい。1つ目はお互いに侵略行為をしないこと。二つ目はお互いの国が第三国に侵略または攻撃されたときに援護・救援を送ること。三つ目はお互いの国が第三国に侵略または攻撃をしたときに傍観すること。もし、その国が他の国と同盟を結ぶ等の行為に出た場合、お互いを助け合うこと。これぐらいだな。」
「えらく詳しい情報だな。」
「だから疑惑の枠を出ないんだ。」
本来噂というのは個人的な見解がある場合多く、不確定的な内容ともいうべき情報がついて回る。それは単純に言えば、拡大解釈だ。たとえば、婚約間近のイケメンが1人と付き合っているのに大人数と付き合っていると言われるなどだ。今回の噂は詳しすぎるし、同盟という内容にも違いない。だからこそ“誰か”が故意に流して戦争を起こそうとしている。そう考えるのが自然だろう。国とも考えるから“個人”が流したかどうかは分からないところだが…。しかし、今戦争起こして何の得があるというのだ?
「そう言うことか。分かった。」
「内密にはしなくてもいい。関係者ならだれでも知っていることだ。」
反対に考えれば、皆が信じ始めているということだ。誰でも知っていることはそれが周知の事実だと言っているようなものだ。あとは国がどうするというところにかかっているが…。
「レリクさん。食べないのですか?すごくおいしいですよ。」
こいつ…は全くもって緊張感がない。確かに緊張するところでもないかもしれないがもう少しは緊張しているような顔をしてほしいものだ。だから、こいつは一流になりきれていないのだろう。まあ、性格という部分もあるかもしれないが…。どちらにしてもこれから慎重に情報を集める必要がある。情報が集まるやつには同じように情報を提供する奴が近くにいてその情報を誰が求めていたのかまでが情報になる。俺が聞いていることも情報になるのかもしれない。俺も有名人になってしまったからな。前の任務で俺の噂はかなりに広まった。より慎重に情報を集めるしかない。
「俺が言うのもなんだが…、この連れは大丈夫なのか?」
「ああ。俺が言っても信用してくれないだろうが、信頼してくれてかまわない。それなりに数々の任務をこなしている。弱気なことは言うけど、働くときには働くだろ?」
「まあ、そう言われればそうかもしれないな。ちゃんと働いてくれているし…。」
「こいつも死ぬのような事態になれば死ぬ気で働くさ。」
「う~ん…。そんな性格には見えないのだが…。そう言うことにしておこう。今日は遅くまでやらなくてもいい。明日もやってもらうことにするからな。さすがに2人じゃ難しいだろ?」
「そう言ってもらえると助かる。何せ、芝が少し深いもので探すのが一苦労なんだ。」
「悪いな。切ってしまってからでは遅いからな。種が飛んだりしたら、厄介なことになる。今の倍は時間がかかるだろう。本当にあんたたちには本当に感謝している。こういうことはあまりみんなやりたがらない。それに飯は出るとはいっても金額がかなり安いしな。ああ、あと、夜は少ししか出せないが賄いも出すから食っていってくれ。」
「分かった。助かるよ。」
「いいってことだ。もう少ししたらまた頼むぞ。」
上がしっかりしていると働くのも楽だ。部下が何をしているのかもしっかりと見ているのだろう。破格でギルドの任務を頼むのも信頼があるからこそギルドも受けるのだ。何回も任務受領者とけんかしているような依頼人はこんな金額では頼むことなどできない。それも俺が雑務系の任務を受け出してから気づいたことだ。
「ロス。食べ過ぎるな…。もう言っても駄目か。」
みるとかなりの量を食べていた。傭兵だから仕方ないのかもしれない。はじめて受けていたとも行っていたしな…。明日からは大丈夫だろう。それにしても食いすぎだろうと思ったが、自業自得だ。次からは学習する。俺は食事をやめにして椅子に座って休んでいた。
~作業後20分~
「レリクさん。きついです。」
「あんなに食べるからだ。雑務とはいえ立派な任務だ。任務である以上手抜きでやれるほど甘くない。それを肝に銘じておけ。」
「はい…。すみません。」
「どうせ、吐きそうなんだろう?休んでおけ。」
「どうして分かったのですか?」
「俺も同じことをしたことがあるからだ。腹が一杯の状態でこの作業を何時間もやっていたら、吐きたくもなるだろう。腰をかがめていることだし…。これでお前も二度とやらないだろう。」
「そうですが…、言っていただけるとありがたいのですが…。」
「俺は保護者ではないぞ。自分のことぐらい自分でやれ。自分の体調に合わせて、ベストを尽くせ。」
傭兵は弱肉強食の世界だ。確かに自然の摂理とは少し違うかもしれないが、評判というものが命になることが多い。特に大きな仕事が入ってくるときには名が売れたものの方に依頼が行くことが多い。それだけ値も張るが、その分いい仕事をする。ギルドもそういう傭兵や冒険者は大事にするので下手な任務は受けさせない。下手な任務とは要するに胡散臭いものとか殺しみたいな裏が絡んでいるものだ。1人で知るのには限界があるため、ギルドの情報は貴重だ。ギルドは確実なものしか信用しない。
ロスは俺の忠告したとおり、椅子を並べて横になった。よほどしんどかったらしい。
「さっき聞いた話だが…。」
「ええ。僕も聞きました。こればっかりは信用できるものかどうか怪しいですね。」
「ああ。そうだな。慎重にやるしかない。しかし、時期が早すぎる。戦争が始まってから、秘密裏に同盟を結んでどっちかを叩けばそれでいいと思うのだが。アクアが絡んでいるような気がしてならないのだが…。」
俺も少なからず、彼女の幼馴染なのだ。
「しかし、彼女が絡んでいるかもしれませんが、こんな回りくどいことをやるでしょうか?僕が思うに彼女は社交的で好戦的な性格だと推測できます。情報は違う筋だと考えられると思います。」
「俺もそう思うが…。もし彼女を援助しているような奴がいるとしたら厄介だと思わないか?」
「彼女に仲間ですか?それも考えられなくはないですが…。というよりもありえないような話だとおもいます。仮に前の戦いでレリクさんを倒すのには仲間が必要だと考えたとしても、彼女の仲間になりそうな有能な人間はそうそういるはずもありません。ましてや彼女は犯罪者です。それも指名手配中ですから、そんなに簡単に仲間ができるとは到底思えないです。それになぜこの前の戦いでそれをしてこなかったかという部分も気になります。」
俺もこいつの意見に賛成だ。アクアは強すぎるからか1人で行動している。これは調べているから明らかなことだ。2年前の姿の現わし方といい、このようなことをやるやつではない。もし、仮定を立てるとすれば、それは国の思惑が絡んでいると考えるのが普通だろう。あえて彼女はそれを伝えているのかもしれない。第3勢力が絡んできていると…。そう考えるとあまりいい感じはしない。あくまでアクアと俺の勝負なのだ。邪魔はされたくない。それに戦争が始まってしまえば、彼女を探すどころの話ではない。今回の戦争は前の戦争の比にならないほどの大戦争となる。
「どちらにしても調べなくてはいけませんね。」
「ああ。この仕事が終わったら手分けをして調べよう。そのほうがいいかもしれない。ロス、お前はそこそこに強いから大丈夫かもしれないが、いつ誰が見張っているか分からない。気をつけておけ。気配は常に消していたほうがいいかもしれない。」
「もう僕の能力に気がついたのですか?さすがですね…。そこらへんは分かっています。私もそれなりに経験がありますから、しかし、面倒なことになりそうですね。杞憂で終わればいいですがね…。」
「ああ。」
本当にそうだと思いながら、雑草を摘んでいた。