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デビル・ジュエリー  作者: かかと
赤眼のレリク篇(外伝)
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第1章第4話

ドラゴンは羽を羽ばたかせた。彼に砂が舞う。

それだけで彼は視界を遮れさせた。

威嚇のつもりだろう。


「人間は少なくとも我々などよりも遥かに寿命が短く、そして弱い。故に群れて数で我々を圧倒しようと試みている。確かに翼竜などは人間に使えているというのも聞いたことがある。しかしながら、彼らと我々は似たように扱われているかもしれないが、実際の能力には大きく差がある。」


彼は凛とした口調で答えた。


「それは人間も同じ。個々の能力には差がある。」


ドラゴンは咆哮を上げた。

怒っている様子は感じ取れる。そのせいか、心に響いてくる声も若干、興奮気味に思える。


「種族の差だ。これは能力とは根本的に違う。我々も何かを食べずには生きてはいけない。それも我が種族は肉食動物である。ただ近くに住む生き物を食していただけだ。」


ドラゴンが言っていることは自然の摂理であり、至極当然なことなのかもしれない。ただ、レリクにはそれが本当によいかどうかの判断は常に自分の考えにあると思った。


「だからと言って、人間だけを襲って良いことはない。いずれ、報復に来るであろうことにあんたは気づいていながら、人間を襲い続けた。」


ドラゴンは淡々と心の中に話かけてくる。


「それは近くに人間が住んでいるからだ。私に食われたくなければ、移動すればいいのだ。」


この言葉に彼は怒った。それでは弱者は常に移動し続け、結局は強者に捕まり食われてしまうことだろう。いずれは戦わなくてはならないのだ。それが早いか遅いかの話。それに人間には理性や情熱というものがある。もし、ドラゴンが言うように弱者としての生活を送っていくのであれば、人間に未来はない。


「あんたには分からないだろう。苦しみや悲しみ、そして、愛着というものが…。人間とモンスターが違うところは考え方の違いではなく、強きものに巻かれるという精神だ。それが有る限り、あんたは滅ぶことになる。人間には向上心がある。それがモンスターであるあなたにはわかってはいない。俺が負けたとしても、違う人間があんたを倒す。」


ドラゴンは翼を大きく羽ばたかせ、宙に上がった。

彼は上を見上げた。高度はそれほど高くはない。おそらく、俺との会話をする際には距離が関係してくるのであろう。ドラゴンは俺に話し続ける。


「それは人間の価値観だ。殆どの同族はそれを理解している。しかし、私は人間の不甲斐なさに飽き飽きした。やっていることは我々と変わらぬはずであるにも関わらず、正当性ばかりを主張する。貴様の言っていることは間違ってはいないだろう。そして、貴様は人間の中でもそれを忠実に守ってきている。そう思える。だが、私はもう決めた。人間を獣とみなすことに。」


彼は哀しみの眼でドラゴンを見ている。

人間がドラゴンを変えてしまった可能性があると今更ながら思った。

これ程の会話が成り立つのであれば、冷静に考えて人間と同じような考え方を持っているとも考えられる。

ドラゴンは少し興奮気味だった会話を直したようだ。


「貴様とは話せてよかったと思う。しかし、考えは変わらぬ。」



ドラゴンは彼に向けて突撃した。



彼はそれを間一髪で避けた。

あのドラゴンは体が赤いことから炎龍だろう。

まさか、いきなり特行を仕掛けてくるとは思いもよらなかったに違いない。


彼はゴロゴロと地面を転がり、陥没した所に眼を向けた。

隕石でも落ちてきたようなクレーターとなっている。

直撃すれば潰れている。


ドラゴンが地面に当たる振動で地面も揺れる。

大きい頑丈な建物も同時に揺れた。


建物の窓のようなものが割れる音が聞こえる。それは先ほど見た固く透明な物質であった。やはり、あの鉱物は割れやすいものだったらしい。


ドラゴンが地面から出てくることに備え、彼は剣を抜いていた。

もう、考えて倒せるような相手ではない。本能の赴くまま、戦うしかないだろう。

彼はそう直感した。


「しかし、戦うにしても、相手が悪すぎるような気もするが。」


彼は両足を開き、振動に耐えるように体勢を整えた。地中で生活する生物は土に入っている微生物から栄養を取っている。




彼の地面の下が盛り上がってくる。


「下か。」


口から呪文のような分からない言葉を発していた。この詠唱はどんな術なのかはある程度分かる。しかし、今、失われた詠唱をどのようにして習得したのかドラゴンにはわからなかった。


下から重力が大きくかかるのをレリクは感じた。

彼は重力から避けるため横に回避しようとしたが、足場が揺れ思うように動けない。


その瞬間、後ろで何かが飛び出したような音が聞こえた。


レリクが後ろを振り替えると、口を開けたドラゴンの頭があった。

口の奥には光が見える。彼にはそれが何かすぐに分かった。


「くそ。」


彼はドラゴンがやることに気づき、浮き上がった地面から飛び降りようとした。


だが、彼は体を動かそう彼の体に凄まじい圧力がかかる。

ドラゴンが体を無理矢理地面から出したのだ。ドラゴンの体の全体像が見える。体長は10メートルを超えるだろうか。


その圧力により、レリクの周りの地面が沈み彼に重力がかかる。


「…うっ。」


レリクは体をくの字に折った。

彼は吐きそうになっていた。内臓に負荷がかかったらしい。しかし、その隙をドラゴンが見過ごすはずもない。


大量の光がレリクの視界を遮る。


それと同時にドラゴンの口から大量の炎が発射される。

その炎により建物に亀裂が生じ、彼の方へと傾いていく。


「炎玉」


彼は詠唱を終え、何とか炎に炎をあてた。

少し下方に当てることにより軌道を変えた。

軌道を変えたことによってさらに建物が壊れる。


だが、彼の方に向かってくる建物は防ぐことができない。


レリクは建物の崩壊に飲まれていった。



ドラゴンはその様子を見ていた。

あの人間は強い。

軌道を変えるようなことをしたのは彼が始めてだ。


だからこそ、早めに終わらせた方がいい。

20を越えていることはないだろうから、10代後半だろうか。

恐ろしい才能だ。

ドラゴンは生まれたときから外敵から身を守るために、生体の位置を確認することができる。


生体の反応は感じられない。

ドラゴンはこの地を後にしようとした。

既に子が巣立った今、この地には興味がない。

翼を広げた瞬間、ドラゴンに悪寒がした。

瞬時に首を右に反らす。


飛んできたのは人間では投げることができないような大きな岩だった。

後ろを見ると立っているのが分かる。

しかし、彼は既にボロボロだった。

服は破け、傷はかなり深いものもある。

立っているのがやっとだろう。

どうやら、前に来た人間とは強さのレベルが違うらしい。


「貴様、気配を魔法で絶つことができたのか。」


彼は無言だった。


「どうして貴様は闘う。そこまで希望のない戦いを。」

「お前にはわからないことだ。」


ドラゴンはこの人間を敵と認めた。

ドラゴンにとって、人間を敵と認めるのは始めてのことだった。



彼は考えていた。

一体どうやればドラゴンを倒すことができる?

圧倒的な力、そして体格差。

何より此処の地理が分からないために罠も張れそうにない。

それに隙を見せるようなモンスターではおそらくないだろう。


ドラゴンの攻撃を利用するしか手は無さそうだ。

しかし、肝心の魔法も詠唱が終わらなくては攻撃すらできない。

そもそもどういう攻撃が効くのかさえ不明だ。


「貴様から来ぬのなら我から行くぞ。」


そういうが直ぐにドラゴンは翼を広げ、上空へと上がった。

上空に上がられてしまえばこちらは攻撃すらできない。

とりあえずは試してみなくては分からないだろう。


彼は詠唱を始めた。



ドラゴンは上空に上がり、人間が何をするのか、よく観察していた。

どうやら彼奴には策は余り無いように思える。

しかし、彼の詠唱は今まで人間が使ったことがないように聴こえた。


長い詠唱からして強大なものか…。

ドラゴンは翼を傾け、前傾姿勢にした。


「人間よ、矮小さを知るがよい。」


その言葉と同時にドラゴンは急降下した。



彼には少し分からないことがあった。

もし、ドラゴンがいう通り、人間よりも優れているのだとしたら、どうして上空から攻めてこないのだろうか?

来れない理由は何なのか?


来る!


彼は詠唱を続けながら、剣を抜いた。

これはタイミングだ。

ドラゴンが近づいてくるのが見える。

彼の額から汗が垂れる。


ドラゴンが200メートルの位置に入ったとき、


彼は叫んだ。


「ダークブラスト」


彼の回りから黒い地面が突如として現れる。


何かしらを感じたドラゴンは上空へ再度上がろうとするが、それがなにかによって阻まれる。

ドラゴンはバランスを崩し、地面へ落下した。


彼が使ったのは重力を応用した範囲限定のものだった。

昔からこの手の魔法はあったが、使い道が少なく、範囲も限定される上に戦争では味方を巻き込んでしまうため、衰退していた。


すごい衝撃と共に砂が舞う。


「行くぞ。」


震える足を叩き、彼はドラゴンへと向かっていった。



「重力の魔法か…。遥か彼方になくなったと聞いていたが…。」


ドラゴンは体を起こそうとした。しかし、それは微々たるものでしかなかった。立ち上がるのが精一杯。


「我の過信だな。」


これで彼と同等に戦わなくてはならなくなった。

だが、


「この魔法も永久には続くまい。」


ドラゴンは彼がこちらに来るのを感じ取った。



彼もまたドラゴンがたっていることを確信した。

砂を抜けた先には、ドラゴンが立っていた。

体長は10メートルにもなるだろう。

彼は剣を握りしめ、ドラゴンへ向かっていく。


ドラゴンはそれに対応すべく翼を振るった。

翼が大きいためにその動作はよく見ることができたが、避けるには跳ぶことしかできない。

彼は翼を跳んでかわした。

しかし、その時にはドラゴンが炎を吐こうとしている。

ここで彼の中で確信したものがあった。

重力の影響を受けてからか、翼の速度が鈍っている。

彼はその翼に乗り、かけていった。


ゴオオオオオオオ


その瞬間に翼から跳び、炎をかわし、その頭に剣を叩きつけた。



キィィィン


彼の剣が弾かれて、宙を舞う。


これほどまでに硬いとは彼は予想をしていなかった。

少し剣が欠けた。


そこに隙が生まれ、反対の翼が彼を襲い、地面へと叩きつけられた。



「末恐ろしい人間だ。あの反射、そして体の丈夫さは類を見ない。」



ドラゴンは翼で叩きつけてなお、たっている人間を見つめた。





彼は迷っていた。どうすれば勝てる。

剣さえも通すことができないほどの硬さ、そして何より彼の体にも限界が来ていた。先程の攻撃だけでなく前の攻撃で肋骨、肩甲骨がやられている。それが左側でまだ助かってはいるが、もし右側であったら彼は逃げていただろう。


勝てる方法はある。


しかし、これは運任せでしかない。

今の体力を考えると自分自身が死ぬ可能性もある。


彼は決断した。



ドラゴンは人間が唱えている詠唱を聞いて、背筋が凍った。


これは人間ができるような芸当ではない。

奴は分かっているのだろうか。いや、分かっていないだろう。

この範囲を巻き込む最大の魔法をやるつもりだ。



懐かしい姿がドラゴンの頭に過った。

あれはどういう名前の人間だったか?


「させない。」




ドラゴンが此方へ迫ってくる。

やることに気がついているのか?

いや、有り得ないだろう。

これは人間が使っていた古代の魔法だ。

知っているはずがない。



そう考えている間にもドラゴンは迫ってくる。

まだ、時間が足りない。


俺は咄嗟に避けた。



「甘いな。」



俺の左腕が飛んでいく。

鮮血が俺の目の前を濡らしていく。


「避けきれなかった…。」


詠唱は続けてはいたが、意識が朦朧としてくる。


「なぜ、そこまで私に立ち向かう?その魔法はお前をも巻き添えにする。死ぬ気か?」


彼は此方を真っ直ぐ見てきた。


「勝つつもりだ。」


どうやら本気らしい。




「メテオ」



太陽から何かが降ってきた。

それはドラゴンは何かを知っている。彼も知っている。


「本当にやったのか。人間ごときが…。」





彼が片膝をついた。

額には汗が滲んでいる。

顔も青く、満身創痍といった姿だった。



「俺もギルドの端くれ。お前を生かすわけにはいかない。」




その声と同時に空から大きな物体を確認することができた。

それが隕石だと分かったのはかなり近くに隕石が接近していたときだった。

その上、隕石の量は100を超えている。


「シールド」


ドラゴンは体に透明なバリアを張った。そんなもので防げるとも思えないだろう。

だが、ファーストコンタクトでの衝撃を吸収することができる。なぜこの術の防ぎ方を知っている。彼には書物で読み、試した経験があるので理解しているがドラゴンにはその経験はないはず。


だが、その思考を隕石が遮った。


ドラゴンの視界がゆがむ。これはドラゴンの目に変調があったわけではなく、地面自体が揺れているのだ。




「やってくれる。」


苦々しくドラゴンは口にした。隕石の衝撃は軽減することはできたが、完全に防ぐとはできていない。

ドラゴンは周りを見渡したが、巣の回りにあったたくさんのビルがなくなっていた。

完全に廃墟になっていた。いや、何百年も前から廃墟には違いないのだが。


これではもう此処に巣を作ることはできないだろう。

まあ、もう作る必要もないのかもしれない。


「炎射」


その魔法はドラゴンの肩を貫いた。




彼は岩をどけて立ち上がった。


「やはりそうか。」




ドラゴンは彼の方を振り返った。

どうして生きている?


彼の姿は酷いものだった。

全身は既に真っ赤に染まっている。

それがなにかはもうわかる。

だが、その傷でなぜ立っていられる?なぜ魔法が使うことができる?


「弱点に気がついたのか…。」


ドラゴンはそう言った。彼は普通の人間と違うとは思っていた。

しかし、ドラゴンは天才といや、本物の天才がたっているのがわかる。



「あんたが火しか使わないというのがよく分かった。体内で火を溜めているのなら、ある仮説が成り立った。溜めているはもしかしたら、体内だけではなく体外からも熱を吸収しているのではないかと考えた。」


よくそこまで分かったな。


「だが、それだけでは分からないだろう。」

「あんたは直ぐに火を使わなかった。いや、使えなかったのだろう。溜めるのには時間がかかる。」


もう聞くことはない。


「その状態でまだ私に勝てるということにはならないだろう。」




彼はドラゴンを見ていた。

しかし、眼が殆ど見えていない。いや、左目が見えないのか。


「だが、あり得ないということはないだろう。」


彼は走り出していた。

翼さえもぎ取ってしまえば、此方に傾く。





ドラゴンは彼の姿を見ていた。

誰だったか、どうしても思い出せない。

私が生きてきたのは1000年を越える。

しかし、それでも覚えているということは何か大切な…。


彼の剣が前に迫っていた。





青い血が出てきた。

彼の全身を血が洗う。

赤が青に変わっていく。



彼は驚いていた。

今のはドラゴンが反応できないような攻撃ではなかったはずだ。

何が奴のことを止めた。



「……。」



ようやく分かった。

いや、思い出した。

私が此処にいる意味をそして、待つことの意味を…。



彼は呟いた。


「なぜ避けなかった?」




彼の言葉はよく分かる。避けれた。


「なぜだろうな?」


彼は首を傾げていた。

似ているな。いや、あの男に…。


「楽しいな。」


彼は斬りかかってきた。

容赦はない。それはそうだ。

当然だ。

この世界は人間の世界だからな。私は先に逝くよ。

そして、彼はもしかしたら、何らかの鍵を持っているのかもしれないな。



彼は呟いた。

「なぜ、よけなかった。」


おかしな点は多々あったが、倒せてよかったとは思う。

だが、最後の言葉が気になる。




黒い霧が彼を包んでいく。

それは徐々に彼の体を侵食していくが、彼にはもうそれをはね除けるほどの力もなかった。


「くそ、これは一体…」



彼の頭に言葉が響いた。



「済まないが、君に頼みたいことがあってね。」


その声から彼は先程のドラゴンだと分かった。


「あんたは死んだはずじゃなかったのか。」

「厳密には死んだのだが、少し事情があって、彼を倒してほしい。というよりも彼がそもそもの原因なんだ。」

「どういうことか分からない。」

「私は使役されていたのだよ。」

「使役?それは召喚師のことか?」


召喚師はかつての大戦で絶滅したと聞いていたが、いや、そもそもこのドラゴンは意志を持っていたように思える。そう考えると使役はされておらず、作られたという方が正しいか…。だが、少なくとも作ったのは人間のはずだ。


「まあ、考えるは結構だけど…。」

「なんだ?」

「考えていることは全部分かるよ。」

「マジ?」

「そうそう。マジ。ははははは。久しぶりに聞いたよ。その言葉。死語にはなっていないんだ。」

「何を言っているのかは全く分からないが、あんたは深層心理までは踏み込めないのか?」

「それには凄く力が必要だからしないよ。それに私は奴を止めたいだけだからね。」

「ん?」

「ああ、やっと気がついた?」



腕が、眼が元通りになっている。

水系統の術でも再生まではできない。腕をくっつけることはできるが、腕そのものを作る出すことは不可能だ。


「あんたが?」

「まあね。今から行くところはとんでもないところだから、万全の状態でも結構厳しいと思う。何か巻き込んじゃったけどごめんね。」


何の話だ。

正直、そう思ってしまう。

それよりもあのドラゴンが敵わないような相手に俺が立ち向かわなくてはいけないかというのも…。


「そこら辺はおいおいわかってくるだろうね。」


俺はもう一回体を動かした。

腕の他に足や衣服の状態も調べた。

これから向かうところが危険な所であるならば、モンスターも自分が考えているようなものではないかもしれない。

それに感染症などを持って帰ると大変なことになる。

頭の傷も確認し、ドラゴンが言っていることは間違ってはいないようだ。



戦闘で髪が痛んでいたのか、髪に触ったときに切れたようだ。

さすがに服までは直すことができなかったみたいだが…。

しかし、ふと下を見ると赤い糸があった。


「俺の服は赤だったか?」


上は黒いTシャツ。その上に羽織るようにして白いマント。

下は黒いジーパン。

パンツも黒いものを履いている。

赤の要素は何もないはずだ。


申し訳なさそうに頭の中から声が聴こえた。



「それは…。」

「なるほど、あんたの影響か…。まあ、たしかにあんたは火系統の術が突出していたから仕方ないか。」

「よく分かったね。もう少し体への負担が弱くすることもできたけど、思ったよりも君の体力も限界みたいだったから、影響が出た。」

「能力にも影響は出ている?」


ドラゴンは少し考えていた。


「ないと思う。」

「曖昧だな。1000年近く生きている割には。」

「こういうこと滅多にないし、それに今回は魔法というよりは同化に近いことをしているからね。」

「同化?」


同化と言えば、二人が共鳴するときに限り、何らかの術で一緒になる、いや、一人称になるということをいうのだと思うが…。


「難しく考えなくてもいいよ。取り敢えず、周りを見て。」

「?」


廃墟になった町。

いや、都市なんだろうか。

此処まで発達した文明はどうして滅亡に到ったのか。

実際に歴史の研究家などが調べているらしいが、詳しいことは分かっておらず、900年ほど前に滅亡しただろうと言われている。

だが、このような都市がいくつにも存在し、それが強力なモンスターの住みかとなっているため、具体的な調査は為されていない。


「都市は無くなったけどね。そんな大層なものでもないし…。それよりも前方に山があるでしょう。」


確かに大きな山が見える。

標高はどれくらいになるだろうか。

山の頂上は雪で覆われているようだ。

それよりも雲よりも高いとは恐れ入る。


「で、あそこの頂上を目指せと?」


俺は少し反感を感じた。

ドラゴン討伐したことを先に報告しなくてはならないのだ。

ギルドには俺は余り好かれていない。どちらかと言えば、躾のできていない虎のようなものだ。素行も悪い上に実力も無いと見なされれば、直ぐにお払い箱だ。


その考えをすべて無視し、ドラゴンは話を続けた。


「此処からだと遠くすぎて見えないけど、麓には洞窟がある。その中に住んでいると考えた方がいいかな。」

「どんなモンスターだ?」


情報がなくては此方も対応のしようがない。

ドラゴンは使役されていたのだから、分からないことも多いだろう。

俺はダメもとで聞いてみた。


しかし、ドラゴンから流れた感情は哀しみにも似た驚いた感情だった。

俺は気がついた。ドラゴンが俺の感情や思考を読むことができるなら、俺にも反対にできるはずだ。


「それは無理だね。」

「何故だ。」


俺の理論が間違っているとは思えない。何らかの術にも綻びというか、弱点があるはずだ。


「それは訓練されているからだよ。話が少しずれたね。彼女は人だよ。」

「人?エルフとかではなくてか?」

「何を考えてるかは分かるけど、エルフなんてものは空想上の生き物だよ。彼は君たちと同じ完全なる人だよ。」

「その人があんたを1000年も使役し続けたのか?」

「そこら辺は彼に聞いて。」


そういった瞬間、ドラゴンの声は尻すぼみに小さくなっていった。


「少し力を使いすぎたみたい。じゃあ、そういうことで。」


それっきり、ドラゴンとは会話できなくなった。


「結局は俺一人でいかなくてはならないということか。」


俺は溜め息をついて、建物の崩れた破片に気を付けて、前方にある山に向かっていった。



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