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デビル・ジュエリー  作者: かかと
赤眼のレリク篇
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赤眼のレリク 第25話

俺は休んでいた。フェニックスの能力で様々な攻撃を無効にできるとはいっても限界があるのは唯一の欠点だ。フェニックスと同化する術も考案したが、完全にフェニックスと同化してしまうと人間性が失われ、フェニックスになってしまう。それを防ぐため、人間としての感覚と、体の一部を残さなくてはならない。俺の場合は失った右目と痛覚を残している。右目はもう失っているのでこれ以上失うこともないだろうし、治療をしなくてもいいのが楽だから。痛覚を残しているのは攻撃を受けたということを分かるようにするためだ。安心してしまうと限界にも気がつかずに死ぬことなんてざらにあることだ。アンデット系のモンスターがそのよい例だ。それに緊張感を感じることで人間性を保つのにも役に立つ。そうはいっても体は酷使されているため、十分な休息が必要だ。しかも、かなりの術エネルギーを使ってしまった。回復までには1週間から10日はかかる。それまではここで休むつもりだ。幸いにも任務は成功したので、十分な額が支払われた。騎士があんなに死んだのは想定がいだと思っているだろうと俺は思っていたが、俺のところに騎士が誰も来ないということはそういった事態も考えられたということだ。しかも、あいつは消えた。一応死体はある程度確認しているから俺に分かる。彼が何を考えているかは分からないが、事の顛末はあいつが報告したのだろう。それよりも彼女の行方が気になる。破壊神バハムート。あれは俺が召喚した不死鳥フェニックスと対をなす召喚獣だ。本来召喚獣というのは、存在しないものだが、まれに召喚師はこのような実在しない生き物を召喚することができるスキルを持つ奴がいる。それは創造が豊かとかそういう問題ではなく自身の性格等の性質によって分かれる。俺はたまたま不死鳥フェニックスだったし、彼女は破壊神バハムートだった。この二つの召喚獣は対をなっている。フェニックスはどの攻撃を受けても倒れず、そして生き物を復活させる能力を持つ。反対にバハムートは絶対的な攻撃力を持ち、何かも壊すことができる。これも偶然かもしれないが、運命を感じられずにはいられない。しかし、彼女をどうするかが、これからの課題だ。どうやって、あの宝石から目を離すか?


「どうしたの?怖い顔しちゃって。」

「何でもないよ。ナルミ。」


そう、今、俺はナルミの家で厄介になっている。彼女はアクアの姉に当たる。義理だが。彼女は役所に勤務していて、若いながらもここら辺を警備する役職に就いている。性格は真面目で慎重な性格だ。昔から、俺とアクアが遊びすぎて時間を守らなかったとき、遠くまで行くのをよく怒ったものだ。俺も姉のように接していた。いつも俺たちを見ているから、俺たちのことをよく理解しているのかもしれない。俺がいつもここに来るのは何かアクアに対するすべが見つかるのではないかと思っているからだ。本当はそうでもない理由もあるだが…。2人ともここで育ったのだから、みんなには帰ってくるのは普通だ。親父の家は広すぎて息が詰まる。


ナルミの部屋はナルミが就いている役職からしたら、かなり質素なものだ。女の癖に服はあまりないし、着飾ることも少ない。


部屋自体も、台所と1つ部屋があるだけで、家具も最低限しか置いていない。唯一、多いのは本だけだ。ナルミは案外、読書好きだ。ここではかなり高価なものだから、本にお金を使っているのかもしれない。


「傷はどう?」

「ああ。だいぶ良くなったようだ。助かった。」


アクアと戦ったときの傷はそれほど深いものはなかった。

体力さえ回復すれば、動くことぐらいはできる。

テディーとロスに病院に運び込まれて、1日で退院した。二人は無理をするなといってくれたが、入院とは言っても、俺の治療は休むだけだ。それなら、ここのほうが落ち着く。


「まだ、アクアのこと追っているの?」

「ああ。俺にはそれしかないから。それにアクアがああいう風になったのは俺のせいだ。」


その瞬間、彼女の目に涙が浮かんできた。


「お願い。もうやめて。あなたが行くような必要はないでしょ。それにあなただけの責任ではないと思う。私もそばにいながら、気がつかなかったのだから。」

「あいつは俺の幼馴染だ。俺が助けなくて誰が助ける?」

「嘘ばっかり。そんなことで追っているわけではないでしょう?いつもあなたは自分に嘘をついてばっかり。少しは素直になったらどうなの?」


俺はその言葉にカチンと来た。それは図星だったからに他ならない。つい、語気を強く言ってしまった。


「お前に何が分かる?」

「分かるわけないでしょう?あなたの考えていることなんて…。」

「じゃあ、何もいうな。」

「反対に聞くけど、あなたに私の気持ちが分かるの?犯罪者として生きたものとずっと長い間過ごしていたのよ。差別だって当たり前だったし、働くところ探すのもずいぶん苦労したのよ。アクアのことを個人的に探している時もあったわ。それでも私の気持ちは変わらなかった。周りの反応も変わらなかった。でも、努力して努力してようやくここの生活に溶け込めるようになってきた。あなたはずっと1人ではなかったのに、1人の道を歩んでしまった。くしくもそれはアクアとの決別と戦いの日々だったわね。そばに居ながら、2人も救えない私の気持ちを考えてよ。彼女は病気を持っていること知っているはずよ。遠からずアクアは死ぬことになる。どんな力を持っていたにしても病気に勝つことはできない。だから、あなたにはもう普通の生活を送ってほしい。もう十分に稼いでいるじゃない。この金額ならもう一生生活していけるし、2人でも何とかなるわ。初めは少し慣れないかもしれないけど…。」


俺は目を瞑った。そう出来たら、そんな風に考えられたらどんなに楽か…。

ふと、俺はここでの生活を思い浮かべてみた。しかし、そこにいるのはナルミではなく…。


「ナルミ。俺はもう決めたんだ。彼女を連れ戻すと。そして彼女が持っているダーク・デビルを壊すことにしたんだ。そうすれば、きっと彼女を救うことができる。」


彼女は涙を流しながら俺に訴えた。


「だから…それを…止めてって…言ってるの。今の様子だと、相打ちになることも十分にある。もうあなたしかいないのよ。私には…。アクアの代わりでもいいの…。2番目でもいいから…。」


本当にうれしいと思う。ここに帰ってくると人間に戻ったような気分になる。しかし、それはもう、とっくに捨ててしまった感情だ。

俺は顔を伏せ、言った。


「すまない…。」


わずかな沈黙が二人の間に漂った。


「ううん…。気にしないで。少し疲れていただけだから。」

「……少し外を歩いてくるよ。」

「ええ…、気をつけてね。行ってらっしゃい。」



ナルミと関係を持ったのは俺が片目を失った時だった。たまたま通りかかった彼女に救われた形になった。少し年が離れていたため、二人きりになることは少なかった。それにたいていはアクアと遊んでいたから、彼女が邪魔に来ることは少なかった。そうはいっても、お互いにあった時には気がつくことはなかった。当然だ。彼女に最後にあったのは10年以上前だ。風貌も変わってしまっているから分かるはずもない。特に俺のほうはひどい変わりようだったから。彼女のことは気がつかなかった俺もあまり言える口ではないが…。そのときの傷は思いのほか深く、それに国にちょっとしたことで揉め事になっていたから、普通の病院は通えなかった。だから、彼女がわざわざ俺を家にかくまってくれた。そのときには彼女は今の役職になっていた。彼女自身国に仕える身。しかし、やはり、彼女の性格がそれを拒否したのか、黙っていてくれた。本能的には俺だと気がついていたのかもしれない。そして、療養も兼ねて俺は狩りによく出ていた。彼女の収入は決して低くないが、それでも貴族みたいに肉を毎日買って食べるような余裕はない。俺は居候という形だし、料理や洗濯もあまり上手にできないために食料ぐらいは自分で賄おうと思っただけだった。一方で不思議にも思っていた。休みの日には全くと言っていいほど出かけないし、定時には必ず帰ってくる。どちらかというと内向的かもしれないが、彼女はきれいだし、言葉も訛ってはいない。問題があるとすればそれ以外の何かではないかと思っていた。しかしながら、そんなことを聞いたところで意味もないし、いずれはここを出ていく。そう思って俺はあえて聞かないことにした。ただ、少しあとに事件が起きた。いつも定時に帰ってくるはずの彼女がその日は帰ってこなかった。俺に対して遠慮があったのかと思って少し待っていたが、それでも帰ってこなかった。彼女のことだから何か用事があるなら俺に一言言っていただろうことぐらいは分かる。いつも定時に帰ってくるのだから…。俺は槍を持って外に出て行った。


暴漢か強盗か何かに襲われているのではないかと思い、彼女を探しに出かけた。探していると路地裏に人が集まっているのが見えた。ここら辺はあまり治安が良いほうとはいえないので自警団がいるはずなのだが、自警団はただ見ているだけだった。今思えば、彼女の早すぎる出世に嫉妬していたのだろう。しかし、彼女はこの国に仕えているはずだ。立場的には彼女が圧倒的に上のはず。これは状況が少しおかしいと思い、少しのぞいてみると彼女が公衆の面前で罵声を浴びせられていたのだ。声があまりに多数聞こえるのでうまく聞き取れなかったのだが、殺人者の姉とか言われているらしい。俺は話についていけなかったが、とりあえず彼女を助け出し、手をかけようとした輩をボコボコにしてその場を強制的に終わらせた。そういった場はこういう風にやってしまうのが、一番楽だった。それに俺がやってしまえば、彼女には責任はないだろうと思ったのだ。他のギャラリーもあまりいいようには思ってなかったらしくボコボコにした彼らをどこかに連れて行った。家に帰って彼女に事情を聞いたが、彼女は全く話そうとしなかった。俺はそれもしょうがないと思って、そっとしておくことにした。誰にも話したくない秘密があるのは普通のことだ。俺もアクアについてのことを話したことはない。親父にもだ。だから彼女にもそういった過去があるのだろうと決め付けた。その日、彼女がベッドに入ってきた。目が充血している。今までずっと泣いてきたのだろう。俺は彼女を抱きしめた。これで収まればそれでいい。俺ができる唯一の慰め方だった…。そして彼女は俺の顔を見つめ、接吻をした…。

ある行為が終わり、彼女がポツリポツリと語りだした。それは俺とは違った人生を歩んだことだった。そして、アクアに対しての思いも語っていた。その時俺はようやく分かった。この人はナルミでアクアの姉であるということを。ここまで調べたのは彼女を止めようとしてのことだろう。しかし、彼女には力がなかった。勉強や理論は人一倍できた彼女だったが、残念ながら身体能力や術エネルギー量は劣っていた。彼女ができることは限られていた。彼女には俺からも話をした。彼女がどうなってしまったか、俺とどういう関係にあるのか、そして彼女が何をしているのか。俺が知っているすべてを話した。話が終わるときには彼女も俺のことをわかっていたようだ。村からアクアが去った2日後に行方をくらました俺のことを。村の皆は俺らのことを悪くは思っていないらしい。あのダーク・デビルを手にしてからアクアが豹変したことを知っていたからだ。俺がその日を境に変わったことも皆知っている。だからと言って許されるかと言えばそうではないのだが。残酷なことにもうその村はない。彼女の話によるとアクアが滅ぼしてしまったそうだ。その中で生き残ったものたちだけで、ここに移住してきたのだということを聞いた。


俺はそのときのことを一度も後悔したことはない。彼女も後悔していないようだ。


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