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デビル・ジュエリー  作者: かかと
赤眼のレリク篇(外伝)
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第1章第2話

~砂漠にて~


思ったよりも足がとられる。それに合わせて靴の中に砂が入ってくる。

砂に足がめり込む。踏み出すたび、靴に入った砂が重く感じる。

雪よりも格段に進みにくい。

どんなに雪が積もったとしても地面はある。


しかし、この砂漠は地面までも砂らしい。探査してすぐにわかったことだ。

かなり下の方には違う地層があるのかもしれない。だが、そこまで水が枯渇している訳でもないし、やる必要もないだろう。それにすべてが砂ではないはずだ。

でなければ、足どころではなく体も沈むだろう。


「あの店主が言ったことは正しかったのかもしれないな。」


彼はそう愚痴った。

言うことを聞けばよかったのだろうか…。しかし、決めたのは自分自身だ。誰かのせいになるわけではない。それに1人の旅は慣れているのだ。


だが、彼はある親父を思い出した。

彼はよい人だと思う。俺にはおせっかいが過ぎるように思う。

それが彼のいいところだろうが、俺にかまける時間があるなら、婚約者探しを真剣にやったほうがいいのではないかと思う。

俺もおせっかいか。

しかし…。


「あいつに邪魔されるは真っ平だ。」


歩こう。靴に入った砂をだし、履き替えた。

体は汗臭くなっているし、水浴びでもしたいところだが、そんな水たまりはない。聞いてはいたが、もう少し事前準備をしておくべきではなかったかと思う。今となっては遅いが…。


彼はしっかり体を持ち上げた。体に重みを感じる。少し疲れてきたのだろう。本来なら水系統の術で疲労を軽減することもできるのだが、俺は水を苦手としている。

それならなおさら早くモンスターを退治しなくては。この疲れのまま、戦闘に入るのは少し難しい。それに地の利が相手にある分こちらもそれを考えなくてはならない。


彼はしっかりと歩き始めた。


遥か果ての方に見えている岩を目指して…。





「で…これはどういうモンスターだ?」


彼は前にいるモンスターを見ていた。


大きすぎて全体像が見えない。

しかし、頭の形は蛇の頭のようだ。尾はサソリか。

ともかく、毒は持っているのではないかと思う。

さて、遠距離か、近距離か。


そこに何か軋む音が聞こえる。


「くっ…」


彼は後ろに駆け出した。

その瞬間、前方に在った建物が崩れてきた。何か割れる音が聞こえ、その物体が破片となって落ちてくる。


彼はさらに速度を上げ、建物から離れていった。


建物が崩れる音がこだましている。

彼は建物が壊れてくるのを避けながら、眼を凝らしていた。モンスターに知性があるとは思えない。今回の襲撃は本能的にしたものだろうか。

建物が崩れたせいで砂塵が舞う。彼はよく眼を凝らしていたが、砂塵のせいで前が

よく見えない。その中の一部が彼の眼の中に入ってくる。

彼は手で眼を擦った。すぐにとれるものではないが、何もしないよりはましだ。

あのモンスターは初めから視界を奪うために建物を崩したに違いない。そう考えるのが妥当だろう。彼は背中に背負っている剣を抜いた。


「これで視界が回復するわけもない。」


そう呟き、眼を閉じた。

これが始めてなわけでもない。

彼の心は落ち着いていた。

彼は力を溜め、モンスターを探した。探査の能力はギルドで一番だと自負している。経験ではまだまだだが、修練を積めば強くなれるはずだ。


何かが地面を張って来るのが感じられる。おそらく、先ほどの変わったモンスターだろう。

場所も特定できた。大きければ大きいほど見つけるのはたやすい。

そして、目視で確認ができるぐらいの大きさだ。


「体が大きければ勝てるとは思うなよ。」


彼は冷たい声で言った。彼は自分が思っているほど小さいわけでもない。むしろ、大きい部類に入るのだが、ギルドでは成人がほとんど、彼は小さい部類と認識してしまうのだ。

彼は剣に力を込めた。

その瞬間を待っている。モンスターが出てくる瞬間を。


彼の前に頭が見えた。蛇の頭だ。おそらく、後ろから攻撃が本命のはず。だったら、


彼は蛇が迫っているのを感じ取り、右後方へ下がった。

その瞬間に後ろの尾っぽが姿を現す。

彼は尾を素早く切り落とした。彼の剣は頑丈で術を使わなくとも簡単に切ることが出来る。それが鉄以上の硬度を持っていない限り。


その瞬間に針状のものは落ち、その切り口から緑色の液体が出てくる。

頭のほうは怒り狂って彼のほうに向かっていったが、動揺している相手に負けるような人間ではない。

彼は頭もきれいに落とした。

彼の剣にはモンスターの体液さえもついていなかった。


その液体は砂に滲んでいく。

まるで昔、緑があったかのように。


「この程度ではあいつには勝てない。まだまだ強くなる。そして、俺はあいつを殺す。」



その言葉を吐き、彼は砂塵が収まるとまた歩き出した。

その姿は少年とは思えないほど哀しい姿だった。



彼は岩の前に立っていた。

しかし、それが岩とは到底思えないほどの大きさであることに違いはない。

その岩は少し歪な形になっており、どこか人形のようにも見えなくはない。

それに気づいた彼は少し眉をひそめたが、気にすることもなく言った。


「休めるなら休むか。」


彼は呟き、荷物を置いた。

荷物と言っても彼は必要最低限のものしか準備していないように思える。

剣、そして松明、水筒、食糧ぐらい。


それだけだ。


無謀とも言える状態ではあるが、それが今回の砂漠を越えるに当たって、馬を使わなくてもよかったとも言うことができる。

あまり荷物が多いと反って、体力を消費してしまう。

馬はそれらを運ぶために使うところが大きいと言えるだろう。

それに馬の体調も気にしなくてはならない。彼にとってはそれが一番億劫だったのかもしれない。


彼は身体中の砂を振り払った。

そして、靴を脱ぎ、逆さまにした。

靴の中からも砂が出てくる。

わずかな隙間からも砂が入ってくる。


彼の足には無数の豆ができている。

中には潰れているものもある。また、大きくなっている指もある。これは同じところの肉刺がつぶれ、また出来てはつぶれ、その繰り返しの証だ。彼は相当な距離を歩いていた。

それを見ていたのは彼だったが、包帯を巻くでもなく、当たり前のように足を靴に突っ込んだ。

これぐらいの痛みには慣れているのだろう。

だが、彼は表情を変えるでもなく、足の感触を確認していた。


そして、彼は体を回した。何かしら、服に入っていたのだろうか。

彼は少し顔をしかめ、ボタンを外した。

思ったよりも多くの砂が入っていたのか、一つ上着を脱いだ。


彼が服を払うと細かい砂が舞う。


彼は下着にまで入っているのが分かったのか、やがてもう一つの下着を脱ぐ。


脱いだ彼の体はしっかりと引き締まっていた。

その背中には無数の傷がついていた。

その傷の中には治っているものもあれば、まだ瘡蓋がついたようなものもある。それが彼の今までの人生を表しているようにも思える。

もしかしたら、彼は思ったほど年が若くないのかもいれない。



彼は立ち上がり、そして、荷物を持って歩き出した。

ゆっくりと真っ直ぐ…。




彼は少し前を見た。

その先には砂とは違い砂利になっている。


「一人では越えられないか…。店主は少し心配性だったらしい。」


彼はそう呟いた。

普通の人では越えられえないのを彼は知らなかった。

ここまで来るのが普通でないことを物語っている。


彼は然程気にしたこともないようで、前に進んでいった。


「ここら辺に潜んでいると言うことだったが、さて…。」


彼はなにかしら力を入れた。

彼には全く変化は見られない。


「なんだ。」


彼は端正な眉をひそめた。


「モンスターは普通、能力がないはずなんだが…。」


彼はそう言って首を振った。

これでは奇襲をかけるようなことはできないだろう。

少なくともどんなモンスターかさえ知ってしまえば…。

その思考は無駄だと思ったらしい。

これぐらいのことは先遣隊ができる。

そう考えると思ったより、かなり強いモンスターだと考えられる。


その先遣隊は行方不明だ。

今さらそんなことを考えてもしょうがない。

彼には後悔の雰囲気は感じられなかった。

むしろ、楽しそうにさえ感じられそうだ。


彼は少しばかり感じた生命反応を頼りに進んでいった。


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