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デビル・ジュエリー  作者: かかと
クレオール第2章
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第15話

 タキーはクレオールを呼ぶ。わざわざシャンを見舞いに行くのに多数の人間が必要になるとは思えない。シャンよりも気になったのはリオ王が切った人のことだった。あの術を見る限り対応できる人間は限られる。しかし、それを見切ったリオ王とクレオールは倒すことができる可能性がある。リオ王はさすがに討伐に加わることはできない。かなり若いがクレオールの所属するパーティーに依頼するしかない。経験の少ない彼らでは難しいところもある。それを考えるならば、新しい人員を考えるしかない。


「タキー村長、少しいいですか?」

「勿論。何でしょうかな?」

「わかっていらっしゃるとは思うが、先程の人間は普通ではないことはわかりました。対応できるのはリオ王だけかもしれませんが、もう1人のクレオールが気がついていましたね。」

「そうだったかな?私には違和感を感じただけのように思ったがの。」

「冗談は好きではないのですが。今回の件は正式に国からの依頼としてギルドに要請をするつもりです。しかし、国の体面もありますのでさすがに全国民に伝えることもできかねます。報酬についてもしっかりと払わせます。」

「それならよいぞ。レオン、あなたが苦労していることはこちらも把握しておる。儂1人で判断することはできぬから、今はあくまで暫定ということになるの。クレオールが了承すればこの任務を受けることになる。すぐに着手するとは思うが組織を潰すとなれば相応の時間と人材も必要になる。」

「それもわかっております。計画通りにいかないことが多いですから。しかし、現状、リオ王がいなくなればアリストは確実に崩壊に向かうでしょう。今回のような騒動でリオ王を危険な状態にしたくないのです。」


 レオンが言うように現在のアリストはリオ王の求心力によって先導している。彼が倒れれば国の崩壊に繋がるのはわかっている。タキーが思っている以上にレオンが恐れているのが分かった。彼らは以前より誰かに狙われているということがあったのだろうか。

 クレオールとソフィー、そしてラスが歩いてくるのが見えた。彼らは緊張しているのではなく気合いが乗っている、そちらの方がしっくりくる。戦いに参戦していない分、不満がたまっているのかも知れないな。


「レオン、こちらの3人はわかっていますかな?」

「ええ。彼らの顔を見ればわかります。いい顔をしていますね。これなら引き受けてくれそうだ。」


 タキーはクレオールをしっかりと見ていた。彼はテディーの報告によれば、暴走を起こしたことが2回もあるという。普通は1回でも通常の人間として生還するのは難しいとされている。理由は術の過度な行使によって体内での変調が起こるとされているからだ。術は体内で生成されるわけではなく、術エネルギーを外に出すことによって術として成立をさせる。放出をされることが多い術エネルギーを出しすぎても変調が起こる上、溜めすぎても体に負担がかかる。


「クレオールの話は良く耳にしますね。今回の件に関しても君が唯一存在に気がついていた。申し訳ないが、今回の仕事もクレオール君たちに任せたい。すまないが、結構期待をしているぞ。解決はなかなか難しいだろうが気長に頼む。他の任務と平行して進めてくれれば問題ない。」


 クレオールはレオンの言葉に頷く。その上にクレオール自身の評価をされて驚いた。今回の件と合わせて1国の任務を受けるようなことはやっていない。


「あなた方に頼むとしては少し不安が残る部分もあります。」

「経験ですね。」

「ええ。あなたはソフィーさんですか?マーサさんは現役を引退されていますが、何とか軍に入ってほしいですね。特に軍医としてですが。」


 ソフィーはレオンの諜報の高さに舌を巻く。マーサは確かに引退しているとはいえ、ソフィーとクレオールに教えることぐらいにはまだ、動くことができる。しかし、マーサの経歴を見たとしても軍に勤めるほどの力は残っていないだろうと思っていた。


「そちらは私が当たります。マーサさんには昔の伝がありますので、何とか説得してみます。ただ、彼女には昔の…。いや、少しずつ話をしましょう。彼女は本来、こんなところで腐ってはいけない。我々が引き上げましょう。」

「そうだな。彼女の意思は尊重しろ。文官としても十分に勤められる。」


 ラスはこの男たちの周到さに驚いていた。タキーの住人は癖があるものの、案外要職についていた者や力の秀でた者等、一芸を極めたものが多いのも特徴の1つだ。それをまとめるものが現れなかったためにこの村はどこにも属さない変わった村になってしまった。レリクは統治するだけの力があったが、彼は支配下におくことはなく、ここに籍をおいて牽制を続けるだけだった。


「一筋縄ではいかない人が多いですよ。」


 レオンはラスの言葉に頷く。


「もちろん、そんなことはわかっているさ。しかし、こちらも人材が不足している上にアリストを首都に構えるのであればこのタキーは防衛の要所になる。俺たちには時間がないのだ。」


 クレオールはレオンを見る。彼は確かに急いでいる。しかし、それだけ本当に動機なのだろうか。ひっかかるとは思いつつもクレオール達はその場を後にする。あの正体不明な人間を追うためにはそれなりの準備がいることもわかっている。ラスと議論しながら準備にかかる。ソフィーはテディーとの話へ向かった。




「準備は整ったようだな。」


 テディーは彼らの表情を見ていた。彼らは本気でイラーを追う気でいる。


「今回は俺は参加できない。さすがに戦争の発起人の俺が抜けるのは不味いからな。さて、ということで1人の指南役をつける。彼の名前はナール。寡黙な男だが、一騎討ち、特に純粋な剣の腕では俺は確実に負けるだろうな。かなり強い男だ。」

「俺の名前はナールだ。今回は利害が一致しているので任務を受けた。よろしく。」


 風貌は自然、つかみどころがない人間だ。手や腕には多数の傷があり、歴戦を経験していることは分かった。しかし、髪は長く伸ばし顔を隠しているので表情が読みづらい。


「すぐに出発しても意味がないだろう。ということで、今日はここでの連携の確認をする。どんな人間でも数の前に屈する。それを打破するのは個の力ではなく、組だけの力だ。」

「ふん。まあ、お前のやり方に任せる。彼らを頼んだぞ。ナール。」


 そういってテディーは消えた。


「まずは俺1人で十分だ。お前たちに負けるのような経験は積んでいないからな。」


 ラスがこの言葉に怒りを覚えた。クレオールはナールを牽制するように前に出るが、ナールは横目に俺をとらえて笑っている。さすがにこの状態のナールに突っ込んだとしてもまともに対決できるわけがない。しかし、ラスは牽制しているナールがこちらに来ないために焦りが見える。そこでのやり方は…。

 ナールが後ろに下がる。彼は簡単なステップで水柱を避ける。水柱も地面から飛び出す術にも関わらず、見切って見せた。彼の言葉は本当だったらしい。ラスがその表情を見て剣を抜く。クレオールも槍を構える。

 術では一呼吸で行動が遅れる。それは体から出力を行うからだ。普通の行動と違い、術の行使には明確な意思が必要になる。どんな人間であれ、行動をするには一呼吸を置くが、無意識に行動すると思考の割ける行動がなくなる分早くなる。その行動をできるのは得意な武器による近接攻撃しかない。


 ラスは腰を低くし、まっすぐにナールに突撃をする。術での強化をした彼の突きはテディーでも防ぐしかない。彼の行動を見ながら、クレオールはラスの行動に追随してナールの右側へ入る。クレオールの予想ではナールは側面へ避けることを前提にしていた。突きは相手の早さと踏み込みを予測できなければ距離を取ることは難しいからだ。


「温い。」


 ナールは後ろへ下がり、ラスの突きを上へ弾こうとしている。


その剣をクレオールの槍が止める。ナールは少し眉を潜めたものの、ラスに前蹴りを入れる。ラスは反応できたが、強化した体の早さの慣性を制御できず腕に重い一撃を受けた。彼は後ろに弾かれる。クレオールはその場を離れる。その瞬間に大量の水が被さるのが見えたが、同時に壁が出現するのも見えていた。


「クレオール、大丈夫?」

「ああ、ラスは?」

「少ししびれているだけだ。しかし、あれを防がれるとますます可能性が…。」

「さて、来たわよ。私も参加するわ。」


 ソフィーは剣を構える。ラスのまとも受けた打撃はこの戦いで癒えることはないだろう。それを考えれば3人で戦った方がいいのだ。ナールは3人を傍観しておりこちらの出方を待っているようだ。


「ナールを倒すのは難しいだろうが、何とか善戦しないとな。」


 3人はナールへ向かっていく。



 ナールは3人の連携の良さに舌を巻いていた。そんな表情を見せることもしなかったが。ただ、テディーの話を聞いたのを思い出した。クレオール、彼の話を聞いたことがあったが、ギルドの話と全く相違がなかったため驚いたのを思い出した。彼の能力が解放されたのはおそらく追い詰められたときだったらしい。ナールは残りの2人も見たがかなりできる。クレオールよりも遥かに才能があるように見える。しかし、テディーの見立ては正しいはずだ。


「さて、どうするかな?」


 向かってくる3人を見ながらナールは笑っていた。



 クレオール、ラス、ソフィーの3人は槍、剣で戦っているが傷をつけるどころか触れることさえできないでいる。最低限の体捌きで避けながら最短の距離で近づいているナールに恐れを抱いていたが、クレオールはナールに向かっていった。


「ナールは俺たちをしっかりと見ているな。」

「ええ。私たちには難しいようね。1発を入れることも。」


 ラスやソフィーは自分の体の重みを感じていた。空振りをしていた分、体力の消耗が激しい。しかも体力がなくなってからは剣や槍を振り回すため体が動きすぎる。クレオールは体力があるため消耗が激しくない。しかし、これほど振り回すと体力的に厳しくなってくる。


「術に頼るべきところだが、ナールの術を把握している訳ではない。ナールも完全に流しているな。」

「そうね。ラスの本質が分かった気がするわ。」

「なんの話だ?」

「どちらにしても術を使わないと勝つ可能性もないわ。それにクレオールのこともある…。」


 ラスはクレオールの方を見る。彼は身体中に汗をかいている。おそらくそろそろ限界がくるはず。ただ、彼が暴走しないかどうかが気がかりだった。その瞬間にナールと目が合う。彼の表情を見るとわかっていると言うことだろう。


「僕はおそらく気を回しすぎていたかな。」

「そうね、あそこまで強い人間が彼のことを知らないわけがないわね。」


 ソフィーとラスは同時術を放つ。ナールはそれと同時にクレオールの体を捕まえる。彼の体で術を受けきる。


「ぐっ…。」


 クレオールは術を受け体に電流が走る。通常、電撃が体に走ることはない。足元を見れば水溜まりができていた。


「…。」


 練度はそこまで高くはないが術の発動の早さが早い。それはどの戦場でも役にたつことだ。彼らは任務でも濃いものを体験してきたのだろう。クレオールの話を聞いていてもそれは良くわかる。ただ、彼らには経験がないだけ。ナールはクレオールの首元に打撃を放つ。しかし、クレオールは反応した。ナールの拳を受け止めた。クレオールはナールをにらむ。


「なるほど、冷静だな。」

「はじめてしゃべったな。ナールさん。」

「…。」


 彼は冷静だ。


「ここからは俺たちの反撃だ。」


 ソフィーとラスが眼前に迫っていた。


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