表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デビル・ジュエリー  作者: かかと
クレオール第2章
191/194

第14話

 村長のタキーはリオ王の言葉に素直に頷くことができない。シャンとという名はアウス帝を支えた側近としてその周辺国では有名だった。年も若く才能に溢れた秀才として迎え入れていた。そのすべては過去形なのだ。彼がアウス帝国を離れてすでに5年もの月日が経過している。それに今の彼の精神状態を考えるとあまり役にたてるとも思えなかった。


「シャンに会うというのは少し考えられたほうがいいと思います。」


 レオンはその言葉に違和感を覚えているようだ。こちらにシャンがいることは別段隠しているわけではないが、一戦を退いている彼に声をかけようとする国は現れなかった。それも当然だ。アウス帝が正気であった時代とは違い、現在は戦争はすでに行われていない。13か国とアウス帝国の密約が結ばれている以上、過度な軍拡に力をいれることはせず、周辺国は自国の産業や戦争での傷を癒しているのだ。それでなくても10年以上の月日が立っている今、建て直しはそう簡単ではない。


 レオンはこちらの思惑など関係なく話を進める。


「こちらはシャンに会いにはるばるここに来たのだ。会わないほうがよいとはどういうことだ。少しは説明をいただきたい。」


 テミール将軍は話を少し聞いたことがあるのだろう。シャンに起きた悲劇も聞いているのかも知れない。ただ、彼としてもアリストに身を寄せてほしいと思っているはずだ。彼らは新興のために人材が揃っていない。だからこそ、一緒に同行したのだろう。


「流石に理由もなくてはおめおめと帰ることはできぬ。確かに事情はあろうが、レオン殿が言っているように少し説明をしてもらいたい。しかも、今回は無理に士官を頼むわけではないのだ。むしろ、人となりを見に来たと言ってもいい。」


 ソフィーはテミール将軍の話に眉を潜めていた。タキーにもそれがわかる。母のこともあり、政治にたいしていい感情を持っていない。タキーはソフィーがいうのを止めはしなかった。タキーもまた、政治家に国を追われた人間であるからだ。


「これだからいつも国の役人は嫌われるのよ。」


 リオ王はソフィーの言葉にも反応を見せることはなく、タキーのほうに向き直る。彼は想像以上に厳しい現実を見続けたのかもしれない。


「おそらくだが、役人が嫌われているというのはアウス帝国のことだろうと想像ができる。しかし、彼がおかしくなっているのかもしれないのはそれだけが原因ではないような気がしている。ここに来る前に変わったのではなく、ここ最近変わったのではないのか?彼の動向を調べていたが、彼が会わないほうがいいほどなにかがあったという報告は受けていない。彼にはいったい何があったのだ?俺の記憶の中では彼がそこまで変わっていると報告をうけていないように思う。」


 リオ王の話は当然のことだった。タキー自身が箝口令を引いていたからであった。シャンがそれを望んでいないことはわかっていたが、箝口令を敷かなくてはタキーに来る人間が後を絶たないこともありうる。しかし、リオ王や側近には隠すことができない。リオ王はアリストを首都にする計画をたてているとギルドを通じて話があった。さすがにその国を無視して生活をすることはできないだろう。


「ここ最近の事件について知っているかの。」


クレオールとソフィーは驚いてタキーのほうを見ている。彼がこの状況を話すとは思ってもいなかったのだ。タキーの顔色はあまりにもよくない。あの事件を思い出しているからなのだろうか。

 リオ王の表情が少しくもる。それはアリストが近いからだろうか。


「犯人は捕まっておらん。しかし、死体の横には赤い血で書かれた蛇の形をしたタトゥーがあるのだ。これは知らないとは思うが、反政府組織のイラーの犯行だということができる。もちろん確証はないが、各国のギルドからもこういった犯行はこの組織が絡んでいるのではないかと思っているのだ。タキーでの被害者はまだ、5人と少ないが、傭兵の中では名を売ったものもおった。しかし、殺されておる。それも丁寧に痕跡を消している。調べた結果現場からの証拠もない。完全犯罪になっている。」


 リオ王は熱心に話を聞いている。しかし、その表情から起こっているのかわかっているのだろうか?クレオールはリオ王を見ていたが表情に変化があったように見えない。隣にいたテミール将軍が反応をする。


「本当に術の行使の跡は見られないのか。傭兵が普通に殺されるとは思えん。彼らの気性から考えても黙って殺されるとは思えない。」


 それはテミール将軍でなくてもわかることだ。タキーはその言葉を聞いて頷く。彼は状況をよく理解していると思っている。事件に証拠がないと自警団も動くことができない。それに傭兵の有力者が殺されているとかなり兵の数で戦いを挑むことになる。それを理解しているのだろう。傭兵と兵であればかなりの違いがある。


「もし、術の行使が分かったなら各国で協議し、対策をしているはずじゃ。各国の要人も多数殺されておる。それに、今回の問題になっているアウス王もその1人ではないかと言われておる。アウス王がそんなへまをするようには思えないのだ。それも彼は病気と言われている。もし、これがイラーという組織の仕業であるならば、私たちには考えも及ばない術者の組織であるとも考えられる。それが噂だから何とも言えん。しかし、早急に対策を講じなくてはならん。そのためには優秀な参謀兼術師がいる。レオン殿とテミール殿が何とかしてくださると…。」


 レオンが顔を歪めているのが分かった。しかし、ソフィーには危ういと思っていた。1国の王に話す言葉ではないだろう。


 クレオールはなにかを感じた。それはなにかわからないが禍々しい気配がする。

 リオ王も同じように剣を引き抜く。クレオールは見た。リオ王がなにかを切ったのを。その剣から発生しているのがわかる。あれは術とは違う何かだ。その切った半透明な物体から血が出ているのがわかる。あれは人間であることは間違いない。


「何だ、あれは…。もしかして…。」


 クレオールはすぐに走ろうとしたが、それをリオ王が止めている。リオ王は強い力で左腕をガッチリと固めている。クレオールは一瞬体が浮いた。クレオールはすぐに走ろうとしていたのでリオ王の行動に驚く。


「どうして止める?今、ここで逃がしてしまってはまた被害が増えていく。それが国のおうとしてわからないのか?」


 クレオールはリオ王に出した言葉に驚いた。そこまで強く言うつもりはなかったが、つい顔を赤くしてしまった。さすがに今の言葉はよくなかったと思う。しかし、組織の者の証拠をつかんだのは初めてである。あの血をたどっていけばなにかわかるかもしれないと思ってしまう。


「相手は1人とは限らないだろう。それに貴様の言う通り、今回たまたま運良く攻撃があっただけのような気がする。それに組織のものであるのであればその血を辿っていくのは罠かもしれない。貴様もわかっているように俺は確実に誰かがそこにいると思って振るった攻撃はそこまで強いものではない。致命傷にはほど遠い。」


 クレオールはリオ王を周りを良く見えているように思えていた。レオンはさらに遠くを見えているはずだ。テミール将軍はリオ王をしっかりと守っている。クレオールはリオ王の言葉には納得することはできなかった。もちろん、相手の強さも気になることであるが、それよりも相手を探ることに重点を置きたかった。


「確かにリオ王の言う通りだが、今回見逃す根拠がない。イラーというのは謎に包まれているが、何かの糸口がつかめることができるかもしれない。組織になっているのか個人で動いているのかそれともギルドのようになっているのか。それがわかる可能性を見逃す理由を教えていただきたい。」


 リオ王はクレオールを見ながら言った。


「確かにお前の言う通りだ。根拠にはならないと思うが、今俺が感じたのは気配だ。俺は術師では感じることができない気配を感じることができる。お前もその1人みたいだな。お前のような人を見たことがないように思えるが、しかし、どこかで会っているような気もする。少し不思議な感じだ。まあ、話が逸れたが、俺がいる限りは密かに俺を狙い続ける。そこで近づくときが必ず来る。だからこそ、今回はやめておけ。」


 クレオールはリオ王の説明に納得する。彼らも万能でないことはわかっている。いずれはこちらに任務が回ってくるのは確実だろう。だからこそ、クレオールは待つことにした。クレオールはなぜ自分がこんなにも高揚しているのかわからなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ