第13話
「ついにリオ王がこちらに来ているのか。」
「ええ。」
クレオールは周りの人に話を聞く。その女の人はクレオールを見て驚いていた。クレオールはその姿に反対に驚きつつも女の人の表情に見えるものが気になった。怯えだろうか、いや、それとも違うものであるとも思う。
「すみません。クレオールはまだ新米でして少し人間慣れしていないのです。寛大な気持ちで見ていただけませんか。」
「ラス、何を言っているのか。」
「いえ、とんでもありません。これで私は失礼します。」
クレオールはその逃げていくように走っていく女の人を見ながら首をかしげる。ラスはクレオールに言う。
「俺たちは前回の竜を倒した任務で一時的に有名になったんだ。お前はわからなかったかもしれないが色んな噂が飛び交っている。もちろん、クレオールの能力もな。ここは悪くもギルドの顔が聞くところだ。傭兵やギルド職員からの噂が流れていることだろう。」
「クレオールはもう少し周りを見るべきよ。ラスの言う通り。大変なことになってからでは遅いから。さて、リオ王が何をしに来たのか確かめないといけないわね。しかし、このタイミングで来るなんて運がいい人ね。」
クレオールは話を聞きながら強いと言うのも大変なことだと言うことはよく分かった。その上、強すぎる人は恐れられ孤独になることも理解できた。
「リオ王はなぜこの場所に来ているのだろう?」
「恐らくクレオールが思っているようなことではないわよ。前から話があった人材登用の話。」
「しかし、あの人が素直に頷くとは思えないけど。」
クレオールもあの人についてはかなり卑屈になっているように見えているがそれは過去を聞いていれば仕方ない部分もある。あの人は学術的才能もあり、手練れの術師としても有名でアウス帝国がなぜ彼を手放したのかわからないほどだ。しかし、彼自身は興味ないだろうが。
「しかし、この状況で彼は頷くと思っているのだろうか?」
「わからないね。」
ラスが気配を察してすぐに後ろを見ると村長が立っている。
「さすがはラスじゃの。お兄さんには性格は似ていないが彼よりも強くなりそうじゃ。彼も認めておったから。まあ、それはおいといて、クレオール、ソフィーは仕事じゃ。今回は彼の登用に来るようなことを言っておった。さて、今回は儂の護衛をやってもらう。最近は色々物騒じゃからな。お前たちで守れるとは思っておらんが、お前たちなら応援を呼ぶことぐらいの時間は稼ぐことができるだろう。」
クレオールは少し傷ついたが村長に向き直る。
「それよりも狙われていると言うのは?」
「大変なのじゃ。リオ王は狙われているのは分かっているがの。まさか、タキーも狙われておるとはの。」
「村が?」
「いや、誰かが狙われておるということじゃ。実際にはわかっていない。だから、今はここは戦時中の時ぐらいピリピリしておる。」
「ふーん、そうは見えないけどね。」
「まあ、いつものことじゃからの。」
村長はどこか寂しそうにいった。
「しかし、彼を説得することはできるのですか?」
「あり得ないことはないのだ。今まで彼の経歴を踏まえれば。まあ、彼をあそこから連れ出してもらえるだけでもずいぶんと違うが、だが症状が悪化したら困るからの。今はこの村を守ってくれている。」
その時にエムスから伝書鳩が届く。
「まあ、それは良い。もうリオ王がこちらに来るということだ。儂らで迎えるか。」
タキーが門のほうに急ぐとすでに3人の影が見えた。彼らは怒っているようには見えないが周囲に気を配っている副官が気になる。レオンとテミール将軍。テミール将軍はすでにいくつかの武功をあげているアウス帝の先鋒隊として名が上がっている将軍の1人。レオンは以前のアリスト防衛戦にて後方支援をしていた文官と聞いていたが体から発している風格は文官のものとは思えないほどのものであった。
クレオールも3人の様子を見て気がついたことがある。この3人も自分と同じようになにか異変を感じているのだと。
「こちらは村長のタキーです。私は護衛のソフィーと隣がクレオールになります。この度はこの辺境の地にはるばるお越しいただきありがとうございます。今回の来訪は事前に連絡をされていましたか?さすがに急な敵襲かと思い、少し強い防御結界を張らせていただきました。しかし、何か相殺できるような術をできる人がいたとは思えないのですが…、リオ王におかれましては何か特別な力を持っているとの噂が絶えません。わが、ギルドでもその力を試していただきたく…。」
ソフィーの発言にタキーが注意しているのが聞こえたが、何を言っているのかはすでにわかっていない。ソフィーが目線をこちらに向けてきたので何かあるとクレオールは思っていたが、ここに立っていると異様な殺気を感じる。遠くのほうを見るとわずかに空間にズレがあったような形跡がある。
副官とタキーが話していたがクレオールにはそんな余裕もなく額に汗すら浮かんでいる。相手がどこに潜んでいるかわからないと言う緊張感もあるかもしれないが今回は異常だ。
しかし、その殺気が急激に鳴りを潜めた。クレオールはなぜ相手が隠れる必要があるのかわからなかった。誰1人して気がついていない状況で王を獲ることなど容易いはずだ。クレオールが目の前を見ると副官が立っている。クレオールが短剣から手を離すとすぐさま答える。
「いや、気のせいのようです。すみません。リオ王に切りかかろうとしたわけではありません。何かこう殺気を感じたので…。それで剣に手をかけておりました。この街だけではなく他の街でもこのような殺気が満ちています。私はこの殺気を何とかしようと探っているのですが、なかなか尻尾を捕まえることができません。タキーを始め、有力者がここを守っていますが結果は出ておらず事件はまだ解決に至っていません。これで答えになっていますか。」
全く答えになっていないのは自分でもよく分かった。口から出任せを言っているので正しいわけがない。しかし、何かを感じたのは事実だ。
副官のレオンと言う人が口調を荒げる。
「すまされるわけがないだろう。」
そのあとの話は全く入ってこなかった。断続的に殺気が流れているのを感じているからである。ソフィーはその事に気がついていない。クレオールはリオ王のほうを見ていたが、クレオールよりもまして緊張しているようだ。ギルドの報告では彼は術を使えないと聞いていたが本当なのだろうか。ここまで殺気を消している相手に術なしで対抗できるものなどいないはずだ。
リオ王はみんなの話を聞きながら周りを見ていたのだろう。副官の2人は心配そうに彼を見ている。
「俺はシャンという男に会いに来たのだ。」
リオ王の言葉は不思議とクレオールの頭のなかに残っていた。