第12話
「なんか妙ですね。」
クレオール・ラス・ソフィーはアリストの山の見える部分、ダマラカス平原を見渡すことができる崖の位置を地図に記し、モンスターの分布、裏道までを確認した。裏道については長く使われてせいもあり獣道になっていた。
現在はミランダの到着を待つばかりであった。
「ああ、ここまで遅くなるとはどういうことだろうか。」
「ミランダさんはそんな人ではないはずだけど…。もしかしたらなにか本国であったのかな?」
クレオールはソフィーの言葉に希望が含まれていることがわかった。
「戦いに変化は付き物ですが、この時期の変化はあり得ないと思いますね。さすがにこの期間に変化があるとすればこちらの兵が負ける場合の変化になる。」
ソフィーは変化に戸惑っていた。実際に戦うのでないかもしれないが、ここでの調査を行う必要があったと言うことは普通に考えると伏兵を置く準備をする必要があると判断されると思ったからだ。しかし、ミランダがいまだに帰ってこないと言うことはそれ以上に不味い状態、もしくは対応に迫られる事態が起こっていると言うことになる。
「すまないな。少し遅れたようだ。」
声が聞こえた方に目をやるとそこにはテディーがたっていた。彼は少し目に隈があり、少々疲れているようだ。
「ここでの任務はとりあえず後回しだ。少し後ろを見てみろ。」
「?」
3人はアリスト城の方向を見るが、なにも変わっていないように見える。
「まあ、わからんだろうな。とりあえず、アリスト城は落ちた。リオが落としたんだ。」
「あのアリストをですか?しかし、あそこには軍も待機しているように見えていました。いったいどうやって?」
テディーは首を横に振る。彼がわからないとなるとリオ軍はある程度骨を断つ覚悟で作戦を実行したのだろう。それもギルドにも情報を流さないように注意をして。
「詳細はわからんが落ちたのは事実だ。そして、アリスト城は破壊される。」
ソフィーは壊すにしても時期が早いという印象を受ける。
「少し壊すのが早くありませんか?」
「これはリオ王の英断だ。理由はかっこよくはない。もし自分達が負けた場合、どうなると思う?今までと同じようにアリスト城を拠点として制圧軍を本格的に派兵するだろう。しかし、城がなくては万以上の軍勢を長期に渡って運用するのは難しくなる。それを考えれば居城を壊すことで自分達の再起をかけての戦いに備えたということだ。」
クレオールは納得したが、負ける前提ではないように思っていた。なんとなくではあるが。
「さて、ここからの説明をするが、俺の予想ではロードス軍が動き出す兆候が見られる。これを阻止することはできないが、我々で牽制をすることができる。幹部候補は戦場に同行することになりそうだが、お前たちはタキーに帰還しろ。そして、休みつつも訓練をしておけ。ソフィーはここの地図を渡してくれ。お前たちならできると信じていたからな。勿論、後日支払いは行う。しかし、秘密裏になってしまうがな。まだ、リオ軍とは正式に契約を交わしたわけではないかな。じゃあ、行ってよし。」
こうして3人は強制的にタキーに帰還されることになった。
しかし、彼らに徴集がかかることはなかった。なぜなら戦いは1日で終わってしまったからだ。彼らがようやくタキーにつく頃にはすでに戦いは終わっており、戦後処理へと話がまとまっていた時だった。3人は少し残念がっていた。
「僕たちも頑張っていたのだけどね。」
「仕方ないね、こんなに早く決着がつくとは思わなかったから。もしかしたら、私たちの出番もあったかもしれないと準備をしようと覚悟はしていたけどね。でも、徴兵がかからなくてよかったのかも。」
クレオールはソフィーの言葉の意味がわからなかった。クレオールから見れば戦いに参加することが悪いこととは思えなかったのだ、確かにすべてがいい方に転ぶことはないだろうが、経験は予想以上に自分達への糧になる。
「クレオール、あなたが考えていることは分かっているわ。でも、違うのよ。私が思っていることはそっちではなくてタキーから迎撃をする。ロードス軍のこと。彼らは必ず動いてような気がするわ。恐らく、私たちが思ったよりも早くね。」
クレオールは半信半疑だったが、ラスは反論することはなかった。
翌日、ロードス軍の派兵が決まったとの報告が入ったのだった。
混乱をしていたのはなにも前線の傭兵や兵士だけではなかった。
「なぜ、今この時期に軍を出す必要がある?軍の再編成の最中とはいえ、彼らが思っているほど簡単にいかないと思うのだが。」
疑問を口にしたのはエムスだった。彼が考えていたのは連合軍の編成についてだった。大国がないものの13か国はすでに連合として合同戦線をアウス帝国に牙を向いている。一番攻めそうだと思っていた13か国連合ではなく、攻めてくるのは2か国、メジス国とロードス王国だった。
「しかも両軍とも万を越えているみたいですね。いったい、何を考えているのやら。」
テディーも突然の軍の派兵には驚いていた。
「ただ、ロードス王には一部情報があります。」
ミランダは席を立った。ミランダは先の戦いにて武功をあげているため、今回の会議にも参加している。
「ロードス王とリオ王は親戚関係にあります。」
エムス以外のテディーとシーリーは驚いていた。
「あり得ないことはないか。帝国は最近きな臭い話ばかりを聞くから不思議ではない。」
4名ともに考えているとことは同じであった。今回のリオ王の挙兵によりどうして帝国を攻めないのか。それは帝国が自滅することを予測しているからだ。いまだに帝国の国土は広い。無駄に攻めて帝国の人々の不安を煽り、帝国としての機能を復活させてはいけないと思っている。どちらかと言えば、アリスト軍とアウス帝国の潰し合いを期待している節すらある。
「この際、帝国は期待できないだろう。2か国の暴走と考えた方がいいな。タキーにはあらかじめ防衛戦として傭兵たちを徴集していた。」
「では、これより防衛に入ると?」
「すまないが、ギルドの決議に出している。帝国を落とす可能性があるのはリオ王が濃厚だからな。彼の機嫌はうかがっておかないとね。」
エムスが言った。
「反対することはしないだろうね。しかし、その後を考えなければならない。」
シーリーはすでに決まっていた。テディーは女性が反対することはないとわかっていた。勿論、テディーも反対をするわけではない。ただ、情報が現時点で少ないことが分かっている。
その瞬間、扉の近くから気配がする。4人が扉を注目する。下から紙を入れられる。扉を開けることはしない。機密が漏れることを嫌うギルドではこのような形式をとっている。シーリーは中身を見るとそこには驚く内容が書いてある。
リオ王、タキーへ到着。