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デビル・ジュエリー  作者: かかと
クレオール第2章
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第11話

 クレオール、ソフィー、ラスの3名は平原から遠く離れ、アリスト近くにあるタキー山を目指していた。ミランダはこの山の特性をよく知っていた。この山には代々伝わっている伝説があった。


「タキーの山中にて巨大なマラリスを発見する。山中より運ぼうとするも重すぎて下山することができない。山中にて目印をつけながら下山し、軍を率いて目印を頼りに進むと敵軍と遭遇する。壮絶な戦いの末、勝利するもマラリスは目印のところになかった。軍が必死に捜索したが見つけることができず、モンスターの大軍勢に巻き込まれ大半を失った。失った兵の多さに王は嘆いた。これよりも王はマラリスを探そうとはしなかった。というのが伝説よ。」

「さすがにそれは我々も耳にしたことがありますが、史実なのですか?もしかして何らかの陰謀があったとか?」

「それももちろん考えられるよ。ただ、当時記されていた失った兵はおおよそ2万。他に伝わっている国の戸籍謄本などにも約2万の兵が死んだとされる記述が見つかっているから誇張はあるかもしれないけど、間違ってはいないし改編したところも見られない。現在、その国は滅亡しているけど言い伝えにもマラリスを探すことを禁ずる書物が発見されているから史実だと考えるのが普通だよ。」

「それにしてもどんな大きさでしょうか?」


 伝説によれば人の背の半分はあったと記されていたことから高さは80センチ以上の三角柱の形をしていたと伝えられている。色は紫色であり、通常では考えられないほどの禍々しい殺気を感じたと記されている。


「そんなものがあったら、恐らく国同士の戦いになるだろうね。」

「ソフィーの言う通り、他の国もそのマラリスの発見を聞き付け、ここに兵を派兵してきた。そのためにその王国は滅亡したらしい。こっちの方が少し誇張しているかもしれないけどね。そもそも2万の兵を失ったら小さな国は滅亡するか従属するかどちらかの判断をしなければならないのにその王はしなかったのだから滅亡するだろうね。」


 ミランダの言う通り、街の規模にもよるが2万と言う軍勢は大きい。ほとんどが男で構成されて軍勢のために一時的に軍も国も衰えてしまう。そのための戦争ではあるが、自国にもその被害が出てしまえば他国から攻められるきっかけを作らせてしまう。


「まあ、ある程度は事実だとは思うけどね。」

「それよりもここで僕たちは何をするのですか?」

「割りと重要な任務よ。この山中にて見張りをする。」


 ラスは一見すると簡単そうに思えたが、クレオールとソフィーの表情の暗さを見たら言葉にならなかった。


「2人ともわかっているようだね。ただ、ラスは少し感じてはいないのかな?」


 以前の時代にあった物見という斥候の役割を担う軍や部隊があったが、それは時を経るに従い減少する。それはどうしてだったか?モンスターの台頭であった。モンスターはいまだに発生の頻度や原因が特定されていない言わば天災に近い。大型竜種などもこの自然発生的に生まれてくるものだ。普通の人間であれば天災以外に考えられないだろう。

 このことをソフィーとクレオールはよく知っていた。タキーの街ではほとんどの村や街で廃れてしまった風習がある。それは山中の山籠りだ。これは単純な山籠りではなくモンスターを100体以上狩ってきたものに与えられる村での永住権となる。ソフィーとクレオールはこの試練を見事合格した。しかし、合格したのは2名だけで他の参加者はすべて棄権していた。合格した2人も全治6週間の大怪我を負っている。その上、復帰するまでさらに2週間かかった。

 モンスターというのはなぜか人間しか襲わないという特殊な性質を持っている。その特殊な部分が人間をかぎ分ける嗅覚に備わっている。基本的に臭いというものは消すことができないために山中に篭ってしまえばモンスターの餌食になってしまう。だからこそ、4人で入ることが義務付けられているのもそのためだ。


「今回はまだ楽なほうかな。以前はかなり疲れたし、今でも夢に見るほど大変だった。」

「そうだね。」


 クレオールとソフィーは遠くを見るように2人でならんでいた。ラスはとても2人に声をかける気持ちにならなかった。


「落ちてこんでいるところ悪いけど今回の物見の内容を説明するね。」

「物見ですか?見張りではなくて?」

「今回はリオ軍が主戦場になりそうなダマラカス平原を見張るためだからということもあるけど、帝国軍もここを通過する可能性がある。」

「なるほど。アリスト城を攻略できなかった場合には帝国軍がここを通過する可能性があるということですか?」

「ソフィー、よくわかったわね。その通り。今回の任務はここに伏兵をおけるかどうかとモンスターの有無、帝国軍の監視と地形の整理よ。特に一番最後は重要だと思われないかもしれないけど、調べるに越したことはないわ。じゃあ、ソフィーに地図を渡すわね。私はあなたたちの監視役ではないから、ここで離れましょう。私にも任務があるから。1週間後に迎えに来るからよろしくね。場所はここで落ち合いましょう。」


 すぐに森の中に消えたミランダを3人は見守るしかなかった。


 3人はしばし呆然としていたがすぐに意識を戻す。やることはたくさんあるが特に地形の確認は骨が折れそうだ。


「さて、今回はソフィーをリーダーにしようか。」


ラスは提案をする。特にクレオールも反対はない。


「どうして私が?」

「単純に地図を描けるのが君だけだからだよ。僕たち2人ではかけないだろうから。どちらにしてもソフィーが全体を見渡すのに長けているだろうね。クレオールの暴走を止めるのも力じゃダメだから、ソフィーが頼みの綱になる。さて、僕たちも行こうか。山の中へ。」


 3人は歩き始めた。3人とも気配を殺しつつ警戒をしながら山沿いを歩いていく。地形の確認と平原の監視も兼ねているため、どうしても崖の近くを歩くようになる。3人ともに足を踏み外さないように南へ進んでいった。


 3時間ほど歩いたあとすでに日は落ちつつあった。


「さて、じゃあ今日はここで野宿をしようか。」

「少し早くない?まだ時間はあると思うよ。」


 ラスはやはり傭兵上がりのため、知っていることに限りがある。基本傭兵は戦争の際に傭兵団を結成する。ギルドに入っており、戦争に参加するものには義務付けられている。人数が少ないと1人の役割が少なく見落としてしまうところが出てくる。それにクレオールはラスに気づいた。


「下ばかり見ているの危ないですよ。」


クレオールは木の上にいるモンスターに向けて槍を伸ばす。この蛇は攻撃力や俊敏性はないが噛まれると一瞬に毒が回り動けなくなり死んでしまう。この蛇の特徴は木に隠れているため体の色が茶色なのと舌の色が青色なところ。


「ラスさんの言う通り夕日が沈んでいない今はまだ行動することができますが、どのようなモンスターがいるかわからない状況で動くのは危険です。」

「それに帝国軍の動きも気になる。単純に兵を出すとは限らないからね。アリストとは違い彼らは兵にも余裕がある。」


 ラスは2人の会話を聞いていた。テディーに聞いたときには情報として与えられたことは非常に少なく、彼らの出身がタキーであること。クレオールが暴走する可能性があり、護衛役をするのも兼ねていると聞いていた。しかし、彼らはタキーの風習で十分な訓練を積んでいる。話を聞く限りでは普通、12才そこらの子供が為せることは思えない。ラスも帝国では神童と呼ばれたが、彼らはその上をいく存在なのかも知れない。


「確かに君たちの言う通りだ。僕は従軍の経験はあっても単独行動は少なかったからね。まあ、目的の違いもあると思うけど。ソフィーは今後、どのように進む予定?」


 ソフィーは地図を指差す。


「最終地点はアリスト山の2号目まででいいと思う。この先の崖からダマラカス平原はよく見える上に崖には3人分ぐらいの広さしかないように見えるからモンスターの対処もできる。問題はここまでたどり着けるかどうかだね。」

「時間的に厳しいね。後、2日あれば充分に時間があるのだけど。」


 ソフィーは地図を見ていた。アリストの山は基本的に背の高くそして広葉樹ではなく針葉樹が生えており、一年中枯れることはない。それを考えるとここに伏せ兵を置くにはいい場所だが、他に候補地がないために敵にも警戒されるだろう。ここに伏せ兵を置くのであればなにかに注意を向けておく必要がある。


「まあ、話はそれぐらいにして今日はここで夜営の準備をしよう。クレオール、ラスはお願いね。私は今日歩いてきたルートとモンスターの数、後は地図の修正を行うから。準備ができたら声をかけてね。」


 ソフィーは少し日の当たるところで地図を広げている。


「すごいな彼女は。」

「ラス?」

「ああ、ごめん。僕もあの年で頭の回転は早くなかったから驚いていて。」

「タキーにいたら嫌でも鍛えられるよ。」


 ラスはクレオールの悲しそうな目を見逃さなかった。


「タキーで何かあったのかい?」

「いや、何でもないよ。あそこはなにもない人なんていない場所だったから。それよりも手ディーの帰還が遅いのが気になる。彼に限って失敗するとは思えないけど。」

「そうだね。」


 クレオールとラスは夜営の準備に取りかかった。


 3人はテントの中に入ってご飯を食べていた。携帯していたのは干肉と水だけ。今回の修行の内容すら聞かされていなかったのだ。普通であればもう少し考えて準備をする。


「この様子では明日からが難しいわね。私は地図の方で手一杯だし、ラスは傭兵と言うことも考慮してできれば平原の監視と伏せ兵の場所を見つけてもらいたいわね。」

 

 クレオールはソフィーの話を聞いて自分に遠慮しているとわかってしまった。クレオール自身、意識がなかったのでわからないが暴走の時のわずかな感情が残っている。凍りついていく心、かけ離れていく体、それらはクレオールを怖さに結びつけるのは簡単だった。


「ソフィー、僕のことは心配しなくても大丈夫。制御はできないけど僕は1人でもやっていけることを自分に納得させたい。」

「クレオール、厳しいことを言うようだが、僕も傭兵を長くやっている身だ。いろんな人を見ていたが根拠のない自信はないに等しい。ましては経験がない人の意見を誰が信じる?すまないが君にはじっとしていてもらいたい。最悪、君が暴走したとしても2人が一緒にいれば君からは逃げることができる。」


 クレオールはラスの話を聞いた。論理的には間違っていないだろう。しかし、彼の意見としてはかなり消極的だった。


「ここはクレオールに任せます。食料の確保、モンスターの有無。これらはクレオールあなたがやりなさい。間違っても暴走は起こさないように。起こしたら私たちでも止めることはできないわ。」

「ソフィー、しかし」

「これが今できる最善の手よ。ラスにモンスターの方を任せてもいいけど、食料にできるかどうかわかる?対処の仕方は?すべてにおいてクレオールに劣っている状況で反論しても効果がないわ。今回はこれでいきます。うまくいかなかったらまた考えましょう。とりあえずはやってみることが大事。もう時間がないからね。でも、クレオールあなたは遠くへいかないように気をつけて。もし、軍勢が早く来た場合に対処ができないから。」

「話はここまでで休もうか。ラスと一緒に見張りをしておくよ。」

「わかったわ。」


 ラスとクレオールは外に出た。


「大変ね。僕はあまり少数で動くことが少なかったからこういったことは少なくてね。」

「大丈夫だよ。慣れが緊張を解消してくれるさ。」


 1日目は何事もなく1日が終わる。


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