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デビル・ジュエリー  作者: かかと
クレオール第2章
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第10話

 円卓にギルドマスターが3人並ぶ。


「臨時定例会議を行う。この会議は秘密裏に進めているものであるため、本来なら公式の記録として残すものであるが今回は不問とする。この宣言を毎回言うのは嫌だな。」

「言わないと規則違反になりますからね。これだけは言い続けないと。」


 公式でない会議はいくらでもあるが、原則ギルドマスターが3人以上会議に出席する場合には議事録をつけなくてはいけないという規則が存在する。これを設けたのはギルドマスターが結託しギルドの名を傷つけるような行為をしないようにするためとある。

 エムスはシーリーの方を向く。いつもなら葉巻は吸っていないが今回はエムスも非公式ということもあり、遠慮なく吸っていた。


「さて、どうだ?シーリー…。リオたちは勝てそうか。」


 エムスは腕組みをしながら不安そうに聞いてくるが、内心ではおそらく決まっているに違いない。シーリーはエムスのこういった性格が好きではなかった。男ならはっきりとものを言えばいいのにと思ってしまう。


「彼らはすぐに行動を移すことはしないようね。彼らは戦後の人材の確保そしてその後にはアリスト城の攻略を考えるはず。その後に帝国軍を迎え撃つ。」

「だとしたら、アリストの先に湿原があったはずだな。そこで迎え撃つというのが一番よい方法だな。しかし、アリスト城の攻略はどうやってするつもりだ?あそこの城主はかなり強いと評判だが。」


 テディーも情報を出すが、実際に調べたものに聞いたところ影武者であることがわかった。影武者が囚人を100人切ったという話が本当なのだから恐ろしい。本当の城主はどれ程のものか…。


「まあ、そこはこれからの動向次第だな。問題にしているのは帝国がどの程度の軍を派遣するかにもよるだろう。彼らの思っているほど簡単に話が進めばいいが。あの兄弟が出てきたらさすがにリオたちは不味いぞ。」


 エムスも話を聞いていたが、例の兄弟が出てくる可能性は高い。リオの評価はかなり高いものだろう。それであるならば帝国は強い2人を派遣することに異論はないはずだ。


「今回はここまでにしよう。テディーは引き続き帝国の情勢を把握。シーリーはリオ軍の情報を細かく調べろ。足りないところがあれば誰を使ってもいい。完璧な状態でリオ軍と帝国軍をぶつけさせる。そして、リオにはアリストの城主になってもらう。それがギルドの目標だ。さて、俺は各国に散っているギルドマスターと調整を行う。他の国に邪魔されたらそれこそ大戦になってしまう。それだけは避けたい。各々、存分に暴れろ。久々にギルドが表舞台に立って戦争を動かす。」


 エムスは解散の合図をした。


 テディーはアウス帝国の首都アウスに着いた。検問はギルドの証明書で十分だった。さすがにマスターと呼ばれる地位の人が表だって動くことはほとんどない。しかし、戦時中は別なのだが、アウス王はこのようなことを認めるような甘い人間ではなかった。本当にアウス王は療養中でもかなり病気の進行が進んでいるのだろうか。

 テディーは周りを歩きながら見て回る。昼間なのにドアが閉まっている店が多い。経済的にも逼迫しているのか。テディーが見ていると看板にある印がついていることがわかる。


「赤い蛇のマーク…。厄介だな。」


 テディーはすぐに思い出す。このマークの組織はスキリングという非合法組織だ。ギルドでも犯罪集団として指名手配をされている。名前の由来は命の駆け引きが好きでつけた名前だが、1人1人の能力が非常に高い。ギルドでは中級と呼ばれるランクの人が一番下だ。幹部になれば上級中でもギルドマスターしか対応できないような強者がいる。


「スキリングは一体何を企んでいる?」


 テディーの情報でもこの戦争に絡んでいるというのは聞いたことがない。


「目的は違うところにあるのか?まあ、今はこの組織を相手にしているほど余力はないな。報告はしない方がいいだろう。ここは目標が達成してからだ。」


 テディーは店のほとんどにこのマークが入っており驚きを隠せなかった。その中でも1つの店にはそのマークが入っていなかったので、店に入ってみる。中に入ってみるとたくさんの豆がならんである。


「いらっしゃい。」


 中の雰囲気は賑やかなものだった。冒険者風に見える人から主婦まで幅広い層に人気があるらしい。内装には木を使っており、シックな印象を受ける。机やキッチン等も木を使用しているので、木の臭いでテディーはリラックスすることができた。

 メニューには軽い軽食とコーヒーしかおいていないようだ。


「注文は決まりましたか?」


 テディーはサンドイッチとコーヒーを頼んで夜を待つ。待っている間にも巡回兵が通りすぎた。彼らは皆、仕事をこなしている。しかし、その仕事内容は単純でいつもの光景だ。


「思ったよりも統制がとれているな。ここまでスキリングが絡んでいると国の乗っ取りを狙っているのかと思ってしまう。それにしても彼らもリオがアリストの当主になってしまったら困るはず。なにか狙っているのか」


 テディーは夜まで待ったが、全く軍隊が通る気配すら感じなかった。普通であればすぐにでも軍をアリストに派兵するはずだが。ここまで来る間に軍が通っている形跡はなかったとテディーは踏んでいた。そうなると一番簡単な方法は1つ。


「暗殺を画策しているのか?」


 それでもある種の緊張感が回りには漂ってもおかしくはない。すでに動いていることは十分に考えられる。


 テディーはコーヒー3杯分の代金と10個のサンドイッチの代金を支払った。

 店を出ると昼間とは一変した街になっていた。あらゆるところがランタンで照らされており人が集まっている。テディーが少し歩いていると女の姿が見えた。普通の身なりではなく肌着を着崩しているようだ。もう1つ気になるのがなにも考えておらず、目線が宙に向いている人が多いことだ。薬物と売春が平気で行われているのか…。

 衛兵等も巡回しておらず、妙な気配を感じる。

犯罪組織の割りには権力に執着がないのもこの組織の関わったところである。


「知った顔がいる。相手も知っている可能性があるな。ドラッグ、売春なんでもありか…。恐ろしい首都だな。」

 

 しかし、スキリングはあくまで元締めをしているだけであって、ドラッグなどには手を染めていないはずだ。スキリングは圧倒的な武力で制圧しているのだから。その上、犯罪組織の割りには権力に執着がないのもこの組織の変わったところである。

 リオへの軍の派兵の可能性が少ないことと暗殺計画が行われる可能性があることがわかったテディーはすぐにこの町を立ち去ろうと正門に向かう。現在もリオの回りには警護として数名をつけているがスキリング相手には荷が重いだろう。

ふと、テディーは後ろからつけている2人がいるのに気がつく。足の音もさせず姿さえも見せていないのであれば帝国としてはかなりの手練れをつけていることだろう。


「これはすぐに終わりそうにもないな。一応、これでもギルドマスターなのだが、2人で足りると思っているのか…。舐められたものだ。」


 ギルドマスターには試験が実施されていないがその分経歴が求められる。テディーは戦争での功績が大きかったと聞いていた。


「さて、ここら辺でいいか。」


 テディーは門を出た。2人が姿を現した。


「ギルドマスターのテディーさんですね。」

「いかにも。なにか用事ですかね。急いでいるのですが?」


 彼らはレザーアーマーを着用しそのレザーアーマーには帝国の印が刻まれている。


「そうですか…。何に急いでいるかはわかっていますが、少し話をしましょう。私たちはあなたがたと手を組むことも視野に入れております。」

「今さらですか?正気とは思えませんな。アウス王が即位して以来アウス王ご自身が決められた法律を違えるのかな?」

「そういうわけではありません。あなた方に依頼をするという方向で調整をしております。」


 テディーはこの2人が何を考えているのかあまり理解できなかった。普通に考えて帝国が本腰をいれれば反乱なんて簡単に潰すことができる。兵の練度はあまりよくないだろうが。


「すまないが、その事に関しては俺1人で決めることができる訳ではない。権限はあるが多用すると不味いのでね。この話は持ち帰らせてもらうよ。」

「構いません。こちらも順序よく話を進めるべきだったのですが、予定が空かず困っていた次第でしてこうして話をしていただけただけでも光栄です。」


 テディーはその場を辞したが、予定が空かないということに疑問を持った。どう考えてあの2人は文官だろう。体つきからそれはよくわかった。


「エムスがなにかを考えていたのか、いや、それはないな。だとするとスキリングの方か。ややこしいことになりそうだ。」


 テディーはスキリングの警戒のため、帰るのが遅くなるのを見越していた。



 クレオール、ソフィー、ラスはシーリーとミランダと共にアリストの郊外に身を寄せていた。


「どうしてこんなところにいるのですか?あまり意味がないように思えます。」

「ソフィーは知らないだろうがね、ここが戦場になる予定なのさ。」

「さすがにここでは帝国軍に押しきられて終わりと思いますが…。」

「ふん、ラスも甘いね。ここは騎馬兵にとっては厄介な場所なのさ。」


 タマラコス平原はれんこんの栽培で有名だった平原である。湿地帯でありながら日当たりもよくよいれんこんができたのだったが、アリストの街の郊外にスラムができたため、kの平原は盗賊が出現するようになってしまった。


「盗賊は基本的に馬なんて飼っていないからここがよかったのさ。いざとなれば逃げればいい。帝国の兵は基本的に騎馬隊が主力だからここでの戦闘は皆嫌がった。そのためにこの平原は荒れ果ててしまったのさ。」


 しかし、そういう風に言っていながらウサギの丸焼きを食べているシーリーの姿もまた盗賊に勝る姿だった。


「しかし、妙ね。こんな感じは久しぶり。」

「あんたも感じたかい。なんか嫌な感じがするね。こんな僻地に強いやつなんてそうそう居ないだろうから安心していたけど、どうも勝手が違うようだ。」


 2人以外の3人は気配すら感じないので回りに目を凝らして見ていた。


「あんたたちねえ、敵の姿なんて見えるわけがないだろう。戦争の気配がするのさ。経験の無いものに感じろというのも難しい話だろうけどね。」


 シーリーの様子を見てラスが質問をする。


「そもそも僕たちを選んだ理由は何だったですか?言ってはいけないことかもしれませんが、うちのメンバーは新参な上に連携も練習をしていない。素人に潜入の真似事など…。」


 ミランダは首を横に振った。


「違うよ。私たちが決めたことでもないのよ。」

「ミランダの言う通り。これは私とテディーで決めたのさ。他の部隊よりも遥かに弱いが使い物になる3人だと言うところがね。まあ、それは後、説明する。今日のところは撤収だ。さすがにここ何日で通れる距離にも位置していない。今回は軽い運動のつもりさ。明日からは不在のテディーに代わって私が修行するよ。覚悟しておきな。」


 クレオールはミランダの不安そうな顔を見てますます不安になってしまった。


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