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デビル・ジュエリー  作者: かかと
クレオール第2章
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第8話

クレオールが目を開けるとテディーは腰に手を当てて俺を見ている。ソフィーは俺のほうを見てため息をついた。そういえば訓練の時も治療されていたのを思い出す。そう考えれば彼女が心配するのも当然である。クレオールは自分がどうなったのか全くわからなかった。それにしてもあの夢はなんだったのだろうか。

 テディーが厳しい顔をして言う。クレオールは暴走が起きたことはわかった。


「クレオール、今は何が起きたかわかっているか?」

「はい、おそらく暴走したのではないかと…。」

「そうだ。そこに横たわっている竜はお前が倒した。すごい力を発揮しているわけではなかったが、お前の術が特殊な上に木の術であったために俺たちは対処に困ったぞ。」


 クレオールはどう答えていいのかわからなかった。クレオールは先程のことを全く覚えていないのだ。答えようがない。


「おそらく覚えていないのだろう。それが暴走の特徴でもあるからな。今回のことは不問にする。しかし、クレオール、お前には特別訓練を課す。もちろん、2人も同様にな。クレオールの暴走はこれからクレオールが強くなるたびに激しさを増す。だが、俺もいつも危険な橋をいつまでもわたるわけにはいかない。」

「しかし、俺自身がどんな術を使ったのか分からないのに対処もできないかと思いますが…。」

「そのための修行でもある。新しい術を作るとしても基本ができていなくては新しい術を作ることはできない。特に術の力を制御する能力は非常に重要だ。例えばだ。」


 テディーは手のひらに火を出す。大きさは手のひらにちょうど乗るくらいの大きさだ。テディーはその火を小さくしたり大きくしたり変化をつける。その上で火の大きさを上へと伸ばしていく。


「俺は雷系統が得意としているが、火の系統でもこのぐらいの制御をすることはできる。この制御ができるようになると無駄にエネルギーを消費しなくてもすむようになる。」


 クレオールにはテディーの話を理解することができなかった。


「なぜかと言うと少ない術を多用することでモンスターを倒せるようになれば、それだけでエネルギーを少なくすむようになる。体内のエネルギーを外に出すことが簡単になる。そうすればエネルギーをそのまま術を出すことができるようになる。」

 

 ラスは少し考えた後頷いていた。


「要するに変換効率がよくなれば大きな術もできるようになり、適切な術をできるということですか?」

「まあ、そういうことだな。制御は一番重要な項目だけどな。みんな、強くなることに必死だが、実際に術エネルギーの保有量には限界値があるからエネルギーの消費量を減らすしかないだろうが、気がついた時には遅いことが多い。お前たちは今からやっておくべきだな。」


 クレオールはその言葉を聞きながら違うことを考えていた。クレオール自身、能力が把握できない状態でどう訓練をするのだろうか。


「クレオール、不安なことも多いかもしれないが、実際にお前が暴走したのは身の危険によるものと思われる。訓練施設でも今回の探索でも同様だ。だからこそ、クレオールは今まで以上に訓練をしなくてはいけない。敵を倒してもらうのはよいが、後で自分が討伐対象となってしまうのは笑えない話だからな。」


 テディーは微笑を浮かべている。彼の実績をよく知らないが、マスターになっているぐらいだから相当なものなのだろう。テディーに言われると妙に説得感がある。


「僕たちもしっかりと訓練を受ける。今の僕たちでは暴走する君を抑えることはおろか触れることもできない。実際にクレオールに気絶させられたし。さすがに今回のような事態は起きないと思うけど自分自身もう少し強くなりたいと思っている。」


ラスは真剣な表情でクレオールに話しかける。ラスの戦績はないもののかなり高い能力を持っていることはすぐにわかっていた。それでも、クレオールのことを押さえることができなかったのか。実際に自分が何をして、どのように戦ったのか聞く必要があると思った。それ以上に、あの夢が本当にある出来事なのかどうかも確かめる必要がある。


ソフィーはもっと落ち込んでいた。気丈にも顔には出していないが、落ち込み度合いはよくわかった。


「クレオールを守れるようにと訓練をしていたけど、少し甘かったみたい。あなたの才能は私が思っていたよりもはるかに上をいっているわ。私は正直、戦いのレベルが違いすぎて参加すらできなかったけど回復の援護はできた。次は戦いのなかでもみんなを援護できるぐらいに強くなる。」


テディーは彼らの表情を見ていた。この3人には先がある。3人ともに才能が豊かであり、個々にそれぞれの特性を伸ばしていけばさらに高みへと成長を遂げることは間違いないと思っている。また、そこにクレオールの不可思議な能力とその暴力が制御できるようになれば世界でも注目を集めるチームになるであろう。それを支援していくのが自分の役目であると思っている。もうそろそろ引退の年でもあると思っていたが、また新しい楽しみが増えたようだ。これで、ギルドの報告もやり易くなる。


 最後にクレオールが発言する。彼はなんとか体を起こし、3人を見ながら話をする。


「俺はこの能力を必ず手なずける。それまではみんなに迷惑をかけるかもしれない。それでも自分の力を信じ、制御できるように努力をする。そして、この槍も使えるようになる。」


クレオールは槍を擦りながら言う。彼の槍は緑色に輝いている。


テディーは笑顔を見せた。


「各々の気持ちはよくわかった。では、このダンジョンは任務達成。俺はギルドへの報告業務が残っている。お前たちは今日の宿で休んでいろ。明日からはこの土地で訓練だ。戦争がはじまりそうになればお前たちも加わることになるだろう。ギルドには年齢を問うことはほとんどない。緊急事態に限りな。正直、この戦争は厳しい戦いになるだろう。だからこそ、お前たちには生半可な修行をさせない。しっかりと血を吐くような厳しい修行にする。みんな脱落するなよ。」


「はい。」


3人はこのダンジョンを後にする。今回のダンジョンは短いものであったが得たものは大きい。竜の遺体は選別しより品質のよい鱗をたくさん袋に詰めて、牙などとは別の袋に詰める。そうしないと鱗が傷つく可能性があるからだ。おそらく、この鱗だけで十分な資金が手に入る。服は成長するにつれて大きさが合わなくなるため高価なものは買わないが武器はそれこそ一生ものになる。特に最初に買った武器などはテディーでさえいまだに持っている。まずはそこから始めようとテディーは考えた。


 しかし、彼らには修行に当てる時間は少なかった。アウス帝国の実質的な嫡男であるリオ・リチャードがアウス帝国・アリストにて挙兵の知らせが入ってきた。




アウス帝国・アリスト郊外にギルドの支部が建っている。外れも外れにあり、ギルドに来る人は当然少なくなる。なぜこのようなところに建てたのか。アウス帝国はギルドの設置を認めていない国の1つでアリストはアウス帝国で唯一の無法地帯だ。そこでは帝国の支配も及ばない。以前、国際的犯罪者レリク・アクアが住んでいたとされているタキーもアリストにある。様々な国の人が集まっている街でも異質と言えるだろう。


その小さなアリスト支部にギルドマスターの3人が顔を合わせている。本来、一部の街に3人ものマスターがいることはない。ましてや支部に集まることは皆無だ。だが、例外というものもある。例外というのは新たな国が立ち上がる場合、この時にはギルドの方針を決めなければならないからだ。新しい国につくのかそれとも旧政権につくのか。非常時にはギルドマスター3人の権限で方針を決めることができるとの規定がある。今回はほとんど方針は決まっているが。


「さて、俺も歳をとっているからこのような事態は起こらないと思っていたが、世界を見渡せば何が起こるかはわからないものだ。あの最大の繁栄を誇ったアウス帝国も少し内部から揺らぎ始めているようだ。」

「確かにそうですね。ただ、アウス王も人の子であったということですな。嫡男とはいえ、自分のお家騒動になりそうな案件は処分を自分の意思で決定するものだとは思いましたが。」

「それだけ嫡男に期待していたということ。噂では術の行使が少しでもできたらすぐに連れ戻すよう御触れが出ていたみたい。」


3者3様に答える。ここに揃っているのはギルドマスターの長・エムス。マスターのテディー。そして新たに任命をされたシーリー。全員が正装で会議を行っている。こんな会議はギルドの会議でもやはり異常な事態だ。それほど緊迫し、差し迫った懸案事項があると言うことだ。


テディーが答える。


「今すぐに決めなくてはいけないのは新興国になりそうなリオ・リチャードに参加を表明するかどうか。こちらの返答は保留にしています。しかし、リオ・リチャードは少し厄介な存在です。アリストをまとめた手腕も目を見張るところはありますが、今回の革命についてはあまり関係ないとみるべきです。それよりも実績を見ていただきたい。特に術の使い手にとっては少々難儀な相手でしょう。おそらく、普通の術者では太刀打ちできない。それほどの才能があります。」

 

 エムスがテディーを見つめる。


「お前がそこまで誉めたのはレリク以来か…。レリクは違う意味で異質だったが、今回の相手はもっと苦戦しそうだな。」


テディーは自分の手元にある資料をエムス、シーリーの順に渡す。その資料はもはや本にできそうなほど分厚かった。


「なるほど、これでは支援を完全に拒否するのは難しいな。アリストの治安がよくなったのも頷けるほどの功績だな。ギルドに加入していれば、ギルドの直轄地にできたろうにな。一応、勧誘はしたのか?」


エムスは資料を見て勧誘をかけたのかを確認する。安定的な情報収集とギルドの安定的な力の供給を第一優先に考えている。そしてギルドの直轄地を作ることもエムスの夢であったが、それは実現していない。ギルドに集まる人材のほとんどは単独行動をしたい者が多いため人がついてくるような人望を備える人材は来ない。


エムスはテディーからもらった資料に目を通す。確かにリオ・リチャードがアリストのギルド支部で任務をした実績は全くない。しかし、彼はギルドに申請された任務を合計100ほどやっていた。それも無償で行っている。任務の数も多いかもしれないが問題なのはギルドよりも先に任務を完遂してしまっているものがあるのも事実だった。エムスにとってはこれが一番怖いと思っている。ギルドは一定の地位を得ている理由として住民たちの要望の沿った任務の遂行率が高いからに他ならない。

ここ最近のアリスト支部の状況を見てみると任務は出したもののリオ・リチャードにて解決され申請自体が取り下げられてしまっている。そのため、アリスト支部での第5級の任務はほとんど申請されていない。5級の任務の多くは雑用と呼ばれる仕事だ。冒険者や傭兵がこのような雑用を受けることは少ないのでありがたいと思うこともできるのだが、モンスターの討伐などは一部の住民にしか関係しないことが多い。その点では思っているよりも接点が多いのは雑用の仕事だ。

 

ギルドの創設の大前提としてどこの国にも所属せず平等を貫くというのがある。アリストに支部が設置されない時には平等は完全に崩れてしまう。ギルドには国境がないことも事実なのだ。国に属していない分、自由に動けるところも多い。エムスはアリストにギルドが設置されないことも危惧していた。

エムスの言葉にシーリーは反論する。


「だから言ったはずよね。この支部の危うさを。」

「わかっているさ。だからこそ、テディーをわざわざ徴集し緊急決定を下すようにしている。」


ここまでシーリーがいうのも理由がある。彼女がギルドマスターに任命されたときに一番に最初に出した議題がこの話だった。その上、彼女はリオ・リチャードにあったこともあり、人物や生い立ちまでを調べ上げ、過去に任務を手伝ってもらっている実績まで示したのだ。その時にはどの支部にも相手にされず、リオ・リチャードと戦ったということまでもここに記してある。


「シーリーも言葉に気を付けろ。」

「そうは言っても今回の責任は私にはないよ。むしろ私はこの革命を手伝わなくてはいけない立場にある。ギルドマスターとして任務を果たせなかった責任も大きいと思っているよ。あなたたちにはそのこともしっかりと考えてほしいね。事前のレオンの理解がなければこのギルド自体も襲撃されていたはずよ。リオにとってはギルドを歯牙にもかけていないけどレオンにとっては厄介なもののひとつでしかないからね。レオンがいなかったら、リオの説得もできなかった。」


シーリーが話をしたのはリオ・リチャードではなくレオン・リヴァイアだった。彼はリヴァイア家の嫡男ではなく、養子である。しかし、リヴァイア家当主から資質を見出され、当主候補に名が挙がっている。おまけに当主には子供がおらず、レオンが実質の嫡男であったが、最近、男の子生まれお家騒動の最中だ。家臣にはレオンを押す声も多く、家臣はまとまっていない。このタイミングでの革命とは彼もかなり苦悩していることだろう。しかも、当主はレオンを排斥したのではなく、義理の弟の摂政との立場をとってほしいと言っているはず。実質の当主といっても過言ではない。正直、自分の息子はレオンには劣ると考えている様だ。しかし、まだ嫡男は2才。そのような才能を見いだすことさえも難しい。しかし、彼は家に固執するような人間でないとテディー・シーリーは考えている。現状、能力また実績でもこのような形で問題はないんだが、未来には絶対にお家騒動になる案件ともいえる。要するの先伸ばしをしているだけである。


「リオにも了承をしてほしかったけど、彼の立場上ギルドが協力を申し出たという形にしたいところでしょうね。私たちを実質的に追い詰めたところまで持っていったこともある。それを考慮した上での援助の申請だね。」


シーリーの言葉に2人は頷いた。


「しかし、アリストの住民も我々のことをそこまで好意的に見ているわけではないというところも悩ましい。たとえ、リオが援助の要請を受けてもよいと判断したとしても周りの者はそういう風にはとらえまい。それを考えればレオンがリオを説得したということのほうがしっくりくるだろう。ただ、このやり取りでもかなり面倒だな。貴族はメンツが全てだからな。さすがにこの手間を惜しんではいけまい。」


エムスはいう。ただ、今回の騒動の難しいところが父親への復讐ととらえられるし、革命ともとらえられるところだ。自己主張的な革命とは違い現状の国のあり方でもない、アリストの街を何とかしたいという純粋な憂いからくるものである。これを父親に対する復讐と決めつけるにはなかなか難しい。13か国では復讐とみなすであろうが。エムスの言葉にテディーも答える。


「確かにこのやり取りは面倒ですが、さすがに省くことはできないでしょうね。ですが、非公式ではありますが言質を取ったということにもなります。」


実際、テディーの言う通りなのだ。非公式ではありながら拘束力を含まれる決議もあるのだ。このギルドの会議もその一種と言える。絶対に表には出ない会議ではあるが。この会議で支援を決めることもできるため慎重に判断をしなくてはいけないが、しかしながら13か国の会議もすでに始まったとの情報も受けている。そこまで時間があるわけではない。それはレオンからも繰り返し使者が来ていることからも明らかである。

13か国も今は会議に入っているだろう。結局のところは何も決まらないのは目に見えている。ただ、ここで問題となってくるのが、13か国会談にアウス帝国を招くという前代未聞の会談となっているのだ。リオ・リチャードをそれだけ評価していると考えるが、同時にアウス帝国の問題は自分たちで解決しろという警告にも思える。今回に限っては異例ともいえる采配だがこれには裏がある。エムスは眉を寄せながらいう。


「やはり、アウス王は危篤もしくは病死の可能性もありか。」

「ええ。やはり、その線を否定できません。むしろ、真実味が増したともいえます。以前なら笑い話だったのですが。これでついに均衡が崩れることになります。ここ十数年安定していましたが、また戦乱期に入るでしょう。変な集団が生まれないといいのですが。」


今は笑い話ではない。当事者としては。


「その予想なら帝国軍にまとまりはなくなるね。士気が高いアリストには負けることもありうると。そうなれば、傭兵の中にも命令離反するものも出てくるね。アウス帝国では優秀な武官が二人いたね。そのうちのどちらかいや、両方が出てくる可能性もあるか。なんかきな臭い状況になりそうだ。」


もちろん、普通であれば命令違反は処罰の対象になる。しかし、戦争に限っては本人の意思が重要視される。それは無理にギルドから命令したとしても出身国の関係で離反したものが相次ぐ可能性があるからだ。ギルドの拘束力は広くそして浅いのだ。


「レリクが身を寄せたタキーがある。あそこの住人はアリストにつくだろう。それを考えれば俺たちはアリストにつかなくてはいけない。」


テディーの言葉にエムスは頷く。理由として挙げられるのはタキーには傭兵や冒険者の数、また帝国や13か国になじめない者が多くいる。タキーの街はもともとギルドの出身者が出資してできた街という理由もあり難民も受け入れる体制にある。それを考えればギルドとしてはアリストにつくのが無難と言える。人との戦いなわけなのでギルド内での不和が起こる可能性がある。ギルドとしては国は全く関係がないのだが、タキーの住民にとってはギルドがどちらにつくのかを判断している節もある。テディーにとっては教え子がタキーの出身であることも頭を悩ます原因の1つだった。


「しかし、いかにギルドが下に出ないとはいえ、一定程度は彼からも要請があるように仕向けたいところだ。アウス王国は黙ってみているわけにはいかないだろう。出てくるのは例の兄弟か。」


シーリーが言う。


「その情報は正しいと思う。今、アウス帝国の軍勢で動くことができるのは彼らだけ。兵数ではかなり少ないけど精鋭が揃っている。両方合わせて1万は軽く超える。士気もかなり高い。たいして、アリストの軍勢は5000を動員できるかどうか、考えても難しいところだろう。その上、アリストは寄せ集めの軍勢であるのも気になるところだ。一番最初から敗北であるならば敗戦する可能性が高くなる。」


軍がうまく機能しなければリオ・リチャードの敗戦は確実になるが、レオンがうまく補佐をしている限り軍はうまく機能するだろう。あとは奇襲をかけるときや数を上回る作戦が肝となる。現在の最大の懸案事項は実際に支配しているのはリオ・リチャードではない。彼はあくまでスラムのアリストの実質的な統治者に過ぎない。名目上のアリストの当主は別にいる。その当主に革命を起こしただけなので結局のところ、当主が死んでしまえば実政権はリオに下る。それを維持するためにも当主は何か策を練ってくるだろう。名前は思い出せないが陰険で引きこもりというのはよく覚えている。アウス軍が援軍に来る前にリオ軍がアリスト城を落とさなくてはいけないということだ。


「だが、アリストの当主はかなり偏った考えの持ち主らしいな。アウス帝国でも有名な変人ぶりだったそうだ。そんな人間がアリストを任されるということは普通あり得ない。それを考えると何かが背後にいるというのが真相だろう。かなりの腕利きかもしくは頭が切れるのかのどちらかだ。とりあえず、それは後にしよう。アリスト城が落とされない限り戦争は起こり得ない。今は両軍の情報を精査する。精査結果をもとに判断をする。見極めが終わり次第、まずはテディーが参戦する。その後、シーリーが参戦。俺は情報を集め、2人に共有をし、後方支援に徹する。シーリーは覚えておけ。この戦い後はもしかしたら、マスターの称号をはく奪される可能性もある。もちろん、俺は援護するが活躍次第では降格もありうる。下手に演技をするなよ。お前は顔に出やすい。」


シーリーは深くため息をつく。


「あまり、能力があるものに貸しを作るのはよくなかったね。もう、あきらめているよ。あと1人昔の仲間も助けられたことだしね。降格はやむ無しとしてもできるだけリオが勝つように努力をしないといけないからね。今回はさすがに気が重いよ。」


エムスは少し笑みを浮かべる。


「ライバルとはいえ仲間か。いい言葉だな。大事にしろよ。それにお前の昔の借りはギルド全体の借りでもある。お前だけが悩むことでもないさ。形上はシーリーが責任を取らなくてはいけないがな。そこら辺はうまくやっておく。安心しろ。」


 テディーもシーリーを気遣っていう。


「俺も参戦しなくてはいけないような状況だからな。教え子の2人もタキーの出身だ。本王は好ましくはないだろうが、2人には才能がある。是非ともギルドに残ってもらいたいからな。俺も最善を尽くさなくてはならない。」


 ギルドの給料は高いが、その分リスクは高く、責任が自分自身が責任を負わなくてはいけない。しかも死ぬ可能性がある。傭兵などは正直なところ、駒でしかないように思っている役人もいる。新しい国ができたときには経験豊富なベテランが引き抜かれる傾向にある。ギルドにとっては大きな痛手だ。だからといって引き留めることもできない。会議はこれで解散となった。各々がギルドマスターであるため、自由に動ける。あとは進捗に合わせて動くしかないのだ。


シーリーはアリスト支部から出る。これから、レオンに会わなくてはいけない。今までとは違った緊張感があることだろう。しかし、お互い立場があるため話し合いは難航するだろう。それとは別に違うギルドの要望もある。それはレオンも承知の上だとは思うが、レオンからの要望もあるだろう。そこを詰めるのが今回はテディーではなくシーリーということだ。あの事件についてはギルドとしても内密に処理をした分、今回の革命で清算しておきたいのだ。


「ただ、あのレオンがこのまま条件を飲むとは思わないね。そうなると私の分だけでも命をかけないとダメかもしれないね。」


シーリーは夕日を見ながら呟いた。夕日は今もアリストを照らしている。シーリーは風で命の息吹を感じていた。



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