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デビル・ジュエリー  作者: かかと
クレオール第2章
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第2話

マーサはソフィーの話を詳しく聞いていた。

 ソフィーとしては異例なギルドの対応に驚いていたが、マーサはそうでもないらしい。


「確かにレリクと比べるとほとんどの人が異例と思うよ。しかしね、クレオールが暴走する可能性があるのであれば、ギルドにとっては必要な措置よ。もし、派遣先で何か起こしたらどうするわけ?その時にはギルドが全責任を負うことになる。それを考えれば不思議ではないよ。」


それが不思議に思ってしまうのは私だけだろうか?このことが伝われば興味本位で近づいてくる人も多くなる。ギルドはお世辞を言ってもまとまって行動しているとは言えない。事実、統率が執りにくい組織ではあるのだ。

軍隊に所属しないような人でも実力があれば採用されるのだから。特に今は各国の緊張状態が続いていることから傭兵になりそうな人材を多く登用しているらしい。

今の時代に冒険者になろうとする人は正直あまりいない。傭兵もしくは討伐隊、後は後方部隊。この3つに分類されるだろう。


「まあ、レリクは悪い意味でいろいろと大変だったけど、今は人手もそこまで不足はしていないみたいだし、大丈夫でしょ。それに冒険者になれば、各国を渡り歩くことにもなるわけだから指示する人がいたほうがやりやすい。あなたたちでは入国審査が厳しいはずよ。」


 言われてみればそうかもしれない。母が活躍した時代とは違い、よっぽど辺鄙な場所であるダンジョンでなければ攻略されている。それを考えれば「冒険者なので」という言い訳は通用しない。


「この機会に教えてもらいなさい。テディーも少し怖い顔をしているけど面倒見はいいわ。私は直接しゃべったことはないけど、みんな言うのだし本当でしょう。少なくとも他の人よりはずっといいわ。正式には二日後だね。それまではゆっくりとしなさい。あと、クレオールを呼んできてくれる?彼に話しておきたいことがあるの。」


マーサはソフィーの頭をなでた。しかし、咄嗟に腕を見たが少しやせているようにも見える。もう少し太っていた気がするのだけど。


「うん。分かった。」


マーサは階段へと上がるソフィーをずっと見ていた…。



クレオールはすぐに降りてきた。ソフィーは自分の部屋で休むのだろう。

そのクレオールの顔には僅かに困惑の思いが見て取れる。


「ごめんね。こんな時間に少し外に出て話しましょう。」

「はい。」


少しぎこちない敬語で返事をした。クレオールは何とか直そうと努力しているらしい。

私は外に出て少し寒さを感じる。今は秋ぐらいだろうか。そんなに寒いわけではないのだが、影響が出始めている可能性もある。後ろから来たクレオールは私のことを観察しているらしい。何を話すのか気になるのだろうね。


「わざわざ悪いわね。」

「いや…いえ、そんなことは…。」

「いいわよ、今は敬語を使わなくても。敬語はこれから必要だから学ぶだけよ。」


 クレオールの緊張が和らぐのが分かる。そんなに厳しいことを言っているつもりはないけど。


「それは助かる。で、話というのは?」

 

 正直にわからないみたい。それもそうか、こんな話普通はしないからね。


「私、病気になったみたいの。」

「そうか。なら、医者に診てもらえばいい。おそらく、テディーにでも相談すればきっと腕のいい医者を教えてくれる。」

「クレオール、あなたのことだから分かっているとは思うけどもう治らないのよ。だから今ここで話をしているの。それが分からないあなたではないでしょ。」


「そうか…。それは大体どのくらい死ぬことになる?」

「薬が最近は進歩しているから10年が最長と聞いているわ。その3年前には体に障害がみられるそうね。だから実際に生きているのは7年ぐらいかな。」

「状況は分かった。病名は聞かないでおこう。今更、俺にできることはないからな。」


クレオールはすぐに表情を変える。その表情は寂寥感がある。


「だが、俺に話すのかわからない。始めにソフィーに話すべきことではないのか?」


 マーサはその表情とは違う冷静な声に驚いた。彼は普通の人間とは違うのだろう。しかし、彼は一体何を感じて生きているのだろうか。もしかしたら、私たちとはもっと違ったものを求めているのかもしれない。

 その考えが表情に出ないように努めて声を出す。


「そうね。クレオール、あなたみたいに精神が強い人はいないのよ。ソフィーはそんなに強くない。あなたがいるから強く振る舞っているだけなの。もし、彼女が知ったら…。」

「それはマーサのほうがよくわかるだろう。しかし、いずれは分かることだ。彼女がどういう選択をするにしても知らせておくべきだ。俺たちが冒険者としてギルドに行くようになれば、不幸がいつ起こっても不思議ではない。もちろん、俺たちにもだ。それを考えるとやはり伝えておくべきだろう。」


 マーサはその言葉に表情がこわばるのが分かった。クレオールの言うことは理解できる。私自身もギルドの一員として働いていたのだ。それを思うと反対に伝えることが出来ないのだ。もし、自分の母は健在であった場合、私は本当に冒険者として活躍することが出来だろうか。いや、そう思うことが出来ない。おそらく、近親者に何かあったらやめていたに違いない。冒険者は潜伏期間が長く、3か月も帰還しないこともよくあった。それほどダンジョンが大きなこともある。それが冒険者の減少の要因の一つでもあるのだが。その割には何も取れないこともありリスクも高い。

 クレオールはそのことも十分に理解してはいるだろう。体験はしていなくとも冒険者がどんなに苛酷かも。


「確かにそれが出来ればつらいこともないよ。でも、ソフィーなら冒険者になることもあきらめるかもしれない。違う道がないわけではないのだから。」


 クレオールはマーサの表情を見ながら考えていた。あのソフィーが冒険者を辞めるというだろうか。俺はそう思うことはないが彼女の表情を見る限り、その可能性もあるということだ。しかし、どういう決断になったとしてもソフィーには伝えなければならないだろう。


「それに冒険者は戦いに参加をしなくてよいわけではないのよ。強い人、経験豊富な人は徴兵対象になってしまうの。私も参加させられて大変だった。その時に旦那に出会ったからそんなに悪いこともなかったけど、私の村は私がいないために潰されたのよ。その時の気持ちは表現できないよ。」


 マーサは下を向いてしまう。地面に水が落ちる。それは僅かな量だったがしっかりと地面を濡らす。

 クレオールは彼女の姿を見て世代の違いを感じてしまった。世間に疎い俺だけどそれぐらいは分かる。戦争というのはそれ程、辛いものなのか。


「済まない。辛いことを思い出させてしまったようだ。」

「いいのよ。」

「だからこそ、もう一度俺から言わせてもらう。本当に伝えなくていいのか。もし、ソフィーに同じことが起きた場合、どうするつもりだ?彼女がその苦しみを背負うことになる。それもソフィーの母は病気だったから戦うことが出来ず負けてしまった。こんなことも考えられる。辛いだろうが、ソフィーはマーサの唯一の家族だ。俺には誰もいないが。」


 マーサはクレオールを見た。彼もきっと今も辛いに違いない。家族自体がいないのだ。そのものを知らないということはもっと怖いことなのかもしれない。

 

「分かったわ。少し考えてみる。」


 クレオールにはマーサの考えが変わらないような気がした。改めて家族が難しいことを実感した。しかし、無情にもすぐに任務が回ってくる。始めは顔合わせだけかもしれないが、結果が出れば任務は舞い込んでくる。仕事を取るかそれとも、家族を取るか。それにはきっと答えがないだろう。だが、俺は自由に生きたい。それが人生の目的であり、人が成長できる糧となる目標だと信じている。マーサには悪いがソフィーは俺に振り回されることになるだろう。俺の心に彼女の言葉が届くことはなかった。


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