第14話
「大方、予想通りにいっているようだな。」
レオンはそういった。確かに予断は許さない状況に変わりはないが、こちらに有利に展開をしている。その通りに運んでいるようなら、こちらにも勝機が見えてくる。しかし、この作戦の肝はこちらにあるかもしれない。
「レオン将軍、準備は整いました。あとは将軍の声をかけてもらえればすぐに発動をすることが出来ます。」
タミルが言った。正直、こちらにはあまり兵が割けない。アンテ軍は最悪、こちらがすべて片付けないといけないのだ。
「だが、そう簡単にはいかないだろうな。」
「ええ、おっしゃる通りかと。しかし、援軍が来る可能性も残されています。現存兵力で対応するのが確実です。無理に突っ込めばこちらが不利になるのは明確でしょう。こちらは地の利を活かして、戦線の維持に努めるのが最優先です。」
ルヴェルもそれに賛同する。
「タミルの言う通りだと思うわ。だからこそ、救護兵を多くして、できるだけ兵の損失を抑えたうえで戦っていくのが最善の策かもしれないわね。でも、先は見えないわ。私たちは常に状況判断をしていく必要がある。ここからは体力勝負ね。」
レオンもその言葉に同調する。
「確かに圧倒的な兵力差だな。俺でも逃げ出したくなる。」
レオンは黙って目を閉じた。あの時のリオの言葉。そして、決断の時間をくれた友。それを支える仲間たち。これらは俺に今までなかったものだと感じることが出来た。だからこそ、守りたい。リオが創ったこの国を守りたい。
「だが、俺にも守りたいものが出来たよな。」
俺はルヴェル、タミル、そして兵たちを見た。これまで苦楽を共に分かち合った仲間だ。
「必ず、ここを死守し、アンテ軍を撃破する。皆の者、奮起せよ。この国のために戦うのだ。」
短い言葉だった。
だが、兵たちは皆、レオンに向かって敬礼をした。
短い言葉でも思いは伝わる。
「あちらはうまくいきそうかな。」
リオはロードス軍を見ながら、軍の隊列、行動に至るまですべての情報を本部に集約をしていた。
「彼らは我々の策にかかっているとまでは言えないでしょう。今は、餌にかじりついているという程度。油断はされないよう。」
バーナードも敵兵の動きを見ながら言う。彼も状況には常に気を配っている。しかし、聞くのと見るのでは大きく異なる可能性がある。そういった場合に備えるためにあえて、ヘッセ山に本陣を構えている。とはいっても、ヘッセ山は標高が300メートルしかなく、小さな山というイメージがあるが、ヘッセの森が迷いやすい森であるために人の出入りは極端に少ない。
8000人の兵はここに集約することは出来ない。なんとか散開してヘッセの森の裏側に隠してあるが、それがいつばれるかどうかは分からない。早く策を成功させて撃破しなくてはアンテ軍を撃退することは出来ないだろう。
2000人ではアンテ軍を長くは持ちこたえることが出来るとは思えない。
「ティル、バーナード、それにシーリーやテディーがいる。しかし、この状態ではなかなか簡単に倒せる可能性は少ない。」
リオは楽観視出来ないため、あえて口に出す。今回はこちらよりもロードス軍がどの程度動いて来るかによるだろう。
「それを我々の前で言うかね。」
テディーは思わず顔をしかめた。彼も不利であることはわかっているはず。
「それに私を忘れていますね。」
テミール将軍は言った。どんなに不利でも生き残ってきた人の言葉には重みが
ある。
「まあ、人材はそろっているにしても、練度が低いのはしょうがない。すべておいて準備ができるわけではない。しかし、これからは時間がないのも事実。こちらも兵糧が長く持つわけでもない。」
準備のために時間がかかった分、兵糧など少なくなってしまった。ただ、士気はこちらのほうが断然高い。
「バーナード、首尾はすべてうまくいっているのか。」
リオは言った。
「一応はうまくいっている。しかし、何か隠しているところが分かってしまったらまずいことになるかもしれない。それはこちらというよりもあちらが気づくかどうか。」
「ふむ、確かにな。俺があちらであってもこちらの考えまで読めるほど気が回るとは限らない。」
テミール将軍は言う。
リオは本陣からロードス軍を見ていた。
「いったい何がどうなっている。夜襲でも今回はあまり突発的なものではないし、兵も少ない。それに撤退も早すぎる。計画的ではあるが、どこか決定打に欠けてしまう。こんな戦いを単発でしても意味がない気がする。」
頭をかきむしりながら、エラムスは言った。
「だが、本当に何を考えているのかはわからないが、少なくとも俺が思っているよりもいい方向には向いていないような気もする。」
ロードスにしてはあまり断定できないような言い方をした。彼が戦場というものを棄権していないからかもしれないが。
「私は騒ぎを収拾してまいります。王はここを動かないようにお願いします。」
「ふん。まあ、いい。」
彼らはリオ軍の本当の意図に気づくことはなかった。
1週間が経過し、ロードス軍はまだヘッセの森の前で立ち往生をしていた。
ロードスはそれを見ていて、正直なところ苛立ちを隠すことは出来なかった。
伝令はエラムスを呼んでいた。
「エラムス総帥。ロードス陛下がお呼びです。」
エラムスはため息をついた。この5日間で何回目のことか。しかし、陛下が考えていることも分かる気がした。結局、5日間では何も進むことが出来なかった。それは過剰反応が過ぎる俺のせいかもしれない。ただ、警戒しすぎるということの決断について間違っているとは思っていない。
エラムスは兵の間を歩いている。その間に兵を見ていたが、兵には色濃く疲労が見える。それもそのはず、彼らは夜中も夜襲に備え門番を立たせその中で昼には哨戒を行い、休むことなく働いているのだ。そう考えてしまえばこちらの士気が高くないのもしょうがないこと。このままでは…。
ふと、前を見ると陛下のテントの前に立っていた。
「さて、そろそろ俺も首を括る時が来ただろうか…。」
エラムスはそういってテントの中に入っていった。
「さて、頃合いか。」
バーナードは本陣から彼らの様子を見ていた。
「どうするの~。リオ様~。」
ティルが言った。顔も心なしかへらへらしているようにみえるのは自分だけか。
「ティル、気を引き締めろ。これからが正念場になる。」
ティルは顔を引き締める。こいつは自分の言うことだけはしっかりと聞くらしい。
リオはロードスのテントを凝視していた。
ここで彼を打ち取ることが出来なかったら、今後の展開が悪化することになる。彼が義兄であるからこそ、討ち取らなければならない。
そして、リオはレオンとの会話を思い出していた。