第11話
タミルは椅子に座った。
「確かに言っても始まらないか。兵の割り振りも重要だな。今回は大変な戦になるな。俺たちにとって。」
バーナードは短く頷いた。
会議とは言っても愚痴の言い合いに過ぎない。
「兵を分散するというのはいかがなものか。」
「そもそもおかしい。各個撃破という考え方であれば奇襲で本隊をつくのが手っ取り早い。」
「だが、それは一昔前の話だ。今では術によってある程度、生物探査ができるようになっている。そのようなことをするためには綿密な計画と術の行使を抑制するものが必要となってくる。」
「それができるのは一部の人間だろう。今更バカくさい話をするな。時間の無駄だ。」
「何だと、もう一度言ってみろ。お前もそこまで賢くないだろうが。」
その話が永遠と続いている。
バーナードが静かにつぶやく。
「黙れ。」
その場が冷えた。
普段、発言が少ない分、その思いが彼らに伝わるのだろう。
ここは昔、会議の場として使われたらしい。
ティル殿に話を聞いたところ、ここは以前、リオ王とその母君の住まいであったと聞いている。その割には一つの部屋は広い。それが改築されたものか以前から部屋が広かったのか分からない。
「そもそも貴様らは策をもっているわけでもあるまい。策もないやつがこの会議で発言することもあり得ない。」
タミルは頭を抱えてしまった。
こういった言い方をするとまとまるものもまとまらない。
「バーナード殿。貴殿こそ新参者だろう。あなたは前の戦で敗戦をしたはず。そのような人がここで発言するのもおかしな話だ。」
タミルが発言する。
「リオ王が直々にお許しになったのだ。そのことに関して何か言うのもおかしいだろう。」
全員が黙る。
王がいる以上、その命令に逆らうのは難しい。権限があるとすれば軍部ではなく、政治の権限が大きい。
「そうですな。それは考えずにおきましょう。」
100騎隊長が言った。
気にしているのは正直、よくわかる。しかし、今回の戦いではそのような隙があれば十中八九負けることになる。
タミルは相手を刺激しないように発言する。
「さて、今回議論しているのはどのように撃退するのではなく、撃破するのかに重きを置く。それはリオ王の命令ではないが、状況的にはそれがこの国における最良の選択ではないかと思う。リオ王にもすでに返答が来ている。その旨には賛成をいただいているが、ロードスは据え置けとのことだ。それがどういう意味があるのか不透明だが。」
タミルはある程度、リオ王の過去を知っているのでこの作戦には反対している。後々、面倒なことになりそうな事案は処理すべきだと思っている。
「そうだな。その真意は読めない。しかし、ロードス軍はそう簡単にはいかない。それを加味したうえでの決断だろうと思ったが、何か引っかかる。」
バーナードは机に肘を置いた。
行儀は悪いが、彼が物事を考えるときにはこの体勢で考えることが多い。
「では、方策を考えていく。それぞれ発言をしてもらおう。」
タミルがそう言って会議は進んでいく。
レオンは支部の中にいた。
今時、珍しく木製の建物だが、何らかのコーティングがされているのがわかる。普通の家であれば、ある程度傷が残っている。
受付の後ろからシーリーが顔を出した。
「レオン、こっちに来てくれ。話がある。」
レオンはその声を聞き、受付の脇にある小さな戸を外した。
だが、そこから何やら殺気を感じた。
視線の先には受付に座っている男がいた。
レオンはその男に何かしら違和感がする。
「ふむ。レオンは気が付いているようだ。我々にも反対勢力は存在する。」
そう言って彼女は受付にいる男を見てドアにレオンを誘導した。
「そうですか。なかなか一つにはなりませんね。」
レオンは今までのギルドの経緯を知っているためその発言をした。
「こちらも一枚岩ではないでしょう。今回の戦いの初戦で敗れるようなことがあれば瓦解するでしょうね。だからこそあなたたちの力が必要です。」
部屋に入るなり、シーリーは丁寧語をやめる。レオンとしても、それが楽だ。彼女もアリストの建国に助力しており、リオからもそれなりの地位に登用しようとしたが、彼女は首を縦に振ることはなかった。
彼女は縛られるのが嫌いらしい。地位にもお金にも、そして親しき友にも。
そんな彼女の姿勢にレオンは好意を持っている。リオにもそういった面がある。根本的なところは彼と似ているのだろう。
「分かっている。今回は特例かもしれないが、支部でそれぞれの見解を出すようにしている。」
そういうと大きな男が入ってきた。
いかにも体つきがよく経験も豊富そうに見ることが出来る。
しかし、年は隠せないらしく、腕の生傷や顔のしわを見るとそれが分かる。
「彼はテディー。名前は知っているはず。彼はかのレリクの師匠でもあるのさ。彼もギルドマスターの一人。今回のこの支部の決定に賛成をしてくれた。」
シーリーは少し顔をしかめながら、紹介した。彼女してみれば、親の仇のような感情を持っているのだろう。レリクは彼女に何をしたのだろうか。
彼はそんなことには気を配ることもなく、挨拶もせずにソファーに座る。
彼の重みでソファーが沈む。
雰囲気からして、かなりの実力者のはず。レオンも鍛練を積んできているが、彼の気配を感じることはなかった。
「遅くなってしまいすまない。ギルドマスターの一人、テディーという。シーリーが言ったレリクの師匠というのは気にしないでくれ。奴はすぐに俺を超えていったから正直、あまり師匠という感覚がない。」
彼の声は心地のよい声だった。あまり似合わないが。
彼は気にするなと言っているが、気にしない方がおかしい。かつての大戦では名を売ったうちの一人であることぐらいはレオンでさえも知っている。確かレリクとともに軍を率いていたはず。
「名前は存じ上げていました。このような大物が出てくるとは思いもしませんでした。しかし、我々に味方するというのであれば心強い。」
だが、二人の口から出てきたのはため息だった。
「簡単にいけば楽なのだが。そう容易く物事は進んでいない。」
シーリーがその言葉に合わせて、レオンに資料を出した。
「これがギルド内の調査だ。正直、今回の戦いは不明確な点が多すぎる。」
レオンはその資料を見て驚いた。