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デビル・ジュエリー  作者: かかと
リオ・リチャード篇~第Ⅱ章~
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第7話

彼の部屋の前に着いた。何か声が聞こえる。何かの詠唱型の術だろうか。

レオンは咄嗟にリオの前に出た。しかし、トガス教授は苦笑いになっていた。


それを察してか、テミール将軍がレオンに言った。


「レオン殿、もし術であればこの部屋に入る前に術の発動があったはず。もう間に合いませんし、これは詠唱ではなくただの独り言でしょう。合っていますか。先生。」


トガスは頷く。


「彼の言うとおりだが、半分は正解、もう半分はレオンが言っていることが正解だ。これは術の行使による無限ループの幻覚だ。」


リオはそれを聞いてぞっとした。もし、この術にかかってしまえば半永久的に術者にとらわれることになる。

レオン、テミール将軍もまた同じことを考えていたようだ。


トガスは話を続ける。


「これは僕がシャンにかけた術だ。シャンは妻が寝たきりになってからと自傷行為を繰り返していた。それも術の中でも属性は水だったのを考えると回復を促す術だろう。水系統は圧倒的に回復系の術が多い。彼の体は正常でありながら、術を自分自身にかけ続けていた。皮肉なことに正常な体にあまり負荷をかけすぎる術を浴び続けると体がおかしくなる。シャンの奥さんの外傷は治ったが意識不明だ。シャンは妻を助けるため、新しい術を自分自身で効果を確かめていたのだろう。僕がシャンの家に行った時にはひどいありさまだった。」


トガスもまた、血色の悪い顔になっていた。

その時のことを思い出したのだろう。しかし、彼がそこまでの状態になるとはいったい…。

リオはトガスを冷静に見ていた。

あれはあの時と同じか。


「リオ、少し殺気を押さえろ。」


レオンが額の汗をぬぐいながら言った。

隣にいるテミール将軍もまた剣に手を置いていた。

リオの周りには冷気が漂っている。


「リオ君、君が困ることはしないよ。それにシャンはそんな人物ではないことを約束しよう。今の状態では判断しかねるが。正常の状態では大丈夫なはずだ。」


リオは改めて病室を見た。




「誰がこんなことをした。誰がこんなことをしたんだ。俺は彼女を守りたかっただけだ。それがどうしてこんなことになった。俺はなぜこんな真っ暗な部屋にいるのだ。俺がやってきたことは何一つ間違えたはずがない。」


.

シャンはずっとこの状態であることを知らない。




「見ての通りだ。普通の人間ならこの術は解くことが出来る。それは鍵が簡単だからだ。」


リオは話している内容がよくわからなかった。少なくとも自分自身に術が効きにくいという体質からも知れないが。だが、レオンも難しい顔をしている。おそらくトガスが言っている意味が分からないだろう。彼はそれだけ最先端の能力を持っていることの証だ。


「意味が分かりません。正直、幻術系の術にかかった場合は第3者から、もしくは術者から解かれない限り、本人で解くことは出来ないはずですが。これは相手の力量が自分よりも上回っている場合です。しかし、幻術にかかる場合はその状況が多い。」


テミール将軍は手を組みながら言った。何か昔に経験があるのだろうか。

トガスは考えている。今の説明で足りていると思っていたのだろう。


「君たちは普段、術を使うときには頭の中でイメージしてから発動しているはずだ。それが術の発動条件になっている。ここまでは分かるはずだ。しかし、ここからが今までの術の考え方と違うところだ。」


テミール将軍は真剣な目つきで話を聞いている。おそらく、これから術に導入するのであろう。反対にレオンはメモに取っている。レオンは聞いたことを実行に移すのに時間がかかってしまう。だからこそ、彼はメモをしているのだが、最近では自分だけではなく他のものも見せている。できるだけ優秀な人材を求めていることにもなる。それは単純に勉学する意欲を高めるというだけなのだが。


トガスの説明はまだ続く。どこか目がおかしい。というよりも悦に浸っている感じだ。


「さて、これはある意味では術を限定しているとも言うことが出来る。すべておいて自分の中のイメージだけというものなってしまっている。これには膨大なエネルギーがいる。だからこそ、昔は詠唱という方法をとっていた。それはエネルギーの消費を抑えるという目的もあったが、今では違う見方をされている。」


「なるほど。そういうことか。」


テミール将軍は分かったようだ。

俺には全く分からなかったが。

レオンはテミール将軍に聞いた。


「意味は分かるが、それに術とのかかわりが見えない。どういうことなんだ。」


トガスは言った。


「よく考えてみたまえ。なぜ、術者といわれる多くの人たちは詠唱を行う。それはなぜか。簡単なことだ。元々発動した術に新たな術を付与するのだ。それに必要なのはイメージではない。詠唱の理解があればできる。それには反対に時間がかかってしまう。だからこそ、今のように、術者は後ろにいるというのが普通の戦いになった。確かに、レリクやアンガスなど、またギルドの実力者はそれをやすやすとやっていたが、そんな人はまれだ。」


レオンは完全に理解できたようだ。

トガスにいろいろな質問を投げかけている。

本当にわかっていない人間は質問さえも浮かんでこないものだ。

それに合わせて、テミール将軍も相槌を打っている。

俺がここにいる意味はないかね。


俺は病室の扉を開けた。


そこにはベッドに寝ている年配の女性とその隣で虚空を見ているような男性がいた。彼がシャンだろう。しかし、年配と思われたが、髪はきちっと整髪料で整っており、彼自身の体形も太っていることはない。むしろ痩せているほうだ。彼の身長は分からないが、おそらく170前後か。それにしても髪の色は白髪とかなり苦労はしてきているようだ。さて、どうしたものか。

リオは何となく部屋を見渡した。だが、ただの病室というだけで変わったところはない。花もないことから訪問客も少ないのだろう。しかし、このままの状態で話ができるとは思わない。


リオはシャンの隣に椅子を持っていき座った。

シャンの妻の顔を見る。精気は戻っており今にも起きてきそうだが、それはもう二度とないのかもしれない。少なくともトガスの言うことから推測してもそれは簡単に考えられる。



リオはふとシャンの目を見た。


見てしまったのかもしれない。


リオは意識が遠くのを感じた。



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