第5話
前回の投稿から少し期間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
病院はきれいなところという印象が強かったが、ここに置いても同じようだ。建物は白い塗装で覆われており、質素なイメージを持つことが出来る。庭も患者が安心して療養ができるよう緑を多くしており噴水も設けられている。しかし、この病院はどこか暗い。
病院の規模はアウス帝国と同じくらいあると思われるが、患者数の比に対して見舞客が少なすぎる。本来なら同じくらい日によっては大勢の見舞いが訪れるはずだが、今見ても来る気配すら感じることが出来ない。
それに気が付いたのか、レオンが少し意外そうな顔をしている。
「病院は静かなものだが、ここまで静かだとかえって気持ちが悪い。ここの病棟に入った時から病にかかってもおかしくない。」
それを聞いたタキーが答える。こちらも面白くなさそうな顔をしていた。
「分かってもらおうとは思いませんが、ここには精神的に臥せっておるものが大半を占めております。シャンはここで妻と暮らしております。それまでは村の監査をおこなってもらっていました。彼のように政治を経験し、なおそれを活かそうとする者はおりませんでした。今までの彼であれば、今回の話はうまくまとめることが出来たのでしょうが、そううまくはいきませぬ。」
将軍が横やりを入れた。
「それでは王の来訪を望んでいなかったという趣旨にもとることが出来るな。お前はここに居を構える村長かもしれないが、リオ王は国を治めておられるのだ。あなたと比べるのは少し如何なものかと思うがな。」
リオはそんな3人を無視し病棟に入った。中は清潔に保たれており掃除もいきわたっているようだ。それに俺たちが来たことにも驚いてはいない。むしろ、しきりにこちらを見る様子もない。それよりも患者を見ている時間のほうが長い。病院では普通のことだが、時の権力者が来ると態度を変えるところもある。ここは良い病院のようだ。
タキーが受付に行く。
「お久しぶりです。タキー様、村のほうはお変わりありませんか。」
タキーは破顔し、言った。
「大丈夫だ。若い者が頑張っておるからの。今は、楽が出来ておる。レリクの時はいろいろあって苦労もしたが、彼のおかげで居場所を見つけたもの居る。お前のように。」
「はい。あの時はお礼も言うことは出来ませんでした。彼はまだ…。」
「ああ。まだ姿を見たのものはいない。見つけたら騒ぎになるからわかるだろう。少し話がそれたな。」
レオンの顔をちらりと見てからそういった。
実際、時間がない中でこちらに足を運んでいるのは事実だ。
「こちらの3方がシャンに面会に来ておられる。何とか会うことは出来ないだろうか。」
受付のお姉さんはこちらを見て、少し困った顔をした。俺たちが親戚ではないということはすぐにわかったのだろう。
「本来ならば担当の先生の許可がいりますが、シャン様に限りは例外で対応がとられております。トガスという先生がご同行されますが構いませんか。」
これは俺たちに聞いていることだろう。
「もちろんだ。こちらも急な訪問で申し訳なく思っている。担当の先生は都合がよいのであれば今すぐにでも会いたいとリオが申していると伝えてくれ。」
トガス…。どこかで聞いたことのある名前だ。
「ええ。分かりました。今すぐに手配をいたします。」
彼女の表情は少しこわばっていたが、すぐに平静を装った。そして、手を横に振る。
わずかな風が院内を通っていく。
「あの風で届くのか。」
将軍は術に興味を持ったようだ。
「ええ。ここの院内は常に風の向きを一定に保っています。その向きが変わればすぐに先生が受付まで来るようになっています。精神を患っている患者様は時折幻覚を見ることもあります。だからこそ、伝達術は簡素でわかりやすくそして担当の先生にすぐに確認が取れるようにしております。それ故、ここでは女性の看護士だけでなく男性の看護士も多く在中しています。」
リオはそれを理解した。確かに精神を病むのは繊細なものが多くそれが女性に限ったものではないことも分かる。いざというときには力で抑えることも大切なのだろう。
「なるほど。ここは特殊な病院だな。リオ王にはここでの病院の申請許可を出しては如何かと。これ程、兵などに対応できる病院はないでしょう。」
俺は自然と笑顔になった。
「もちろんだ。俺のようなものがここにもいるかもしれん。使えるようであれば、すぐに働き口も見つかるはずだ。ここでは昔ながらのコネが重要視されていたからな。もう、そんなこともないだろう。レオン。」
レオンは俺を見た。少しほっとした様子だった。それは俺が命を狙われていたからか、それともまた違ったことなのか。
「ああ。ルヴェルからも通達が行き渡っているようだ。今のところ、あまり変わりがないのは事実だが、これから国の重要な施設では偏見を持つことがないよう、徹底していくつもりだ。これからアリストを支える人材になってもらいたいからな。さて、来たようだな。」
レオンが言ったように受付から病棟へと続く廊下から人が見える。
「来られたようですね。あちらに進んで下さい。話はおそらく病室になるでしょう。」
「すまんな。また、後でここでの話を聞くとしよう。リオ様、私が案内いたしましょう。」
タキーは言った。ここでの運営も彼は任されているのだろうか。それが正しければ、彼はかなり忙しいだろう。
「久しぶりだね。リオ君、いや、リオ王。」
そこには昔、お世話になった先生また教授のトガス・マーティンが歩いてきた。