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デビル・ジュエリー  作者: かかと
リオ・リチャード篇~第Ⅱ章~
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第2話

その決議がアリストで行われた時、13か国会議はいまだにまとめることが難しい。それはアリストというところが大きい。確かに治安が悪いとはいえ、山、海にも恵まれ、道も整備されている。街としての体裁は整っている。本当に統治ができるのであればという話だが。あの無法地帯を…。

それを成し得たのはリオ王であり、彼個人の能力がかなり強いということが証明されている。


「アリストの領土は私の国が実効支配を行う。あの領地はもともと私共がアウス王によって奪われた土地だ。何度か軍隊を派遣したこともある。」


アンテ王は言った。

彼の代になって以降、アンテ国はアウスによって半分の領地になった。国自体がつぶされてしまうよりはいいかもしれないが心中は穏やかではないだろう。おそらく、重臣の中にもアウスに恨みを抱いているものは多いはずだ。その経験を活かし、今のリオ王を破ることは可能かもしれない。これもあくまで仮定の話ではあるが…。だが、アンテ王にあの土地を支配できるような器ではないというのが12か国の反応ではある。


しかし、アンテ王の発言はそれを許さないのが集団の心理であって…


「だからどうしたというのだ。結局は負けた。それだけだ。敗戦国は口出しをすることは出来ないだろう。」

「そうだ。それにそれほど貴君の軍隊の兵力も練度があるとは言えないはずだ。」


次々に各国の王が口を開く。

こうなってくると収拾するのが難しくなる。

議長は何か言おうとしたが、おもむろにロードス王が立ち上がった。


「では、こうしよう。ロードスから10000、アンテから10000の総勢20000兵で攻めることにする。地理の面からも少し考える部分があるかもしれないが、ロードスでは派遣の準備が整っている。各国の王も然りだが、アンテ王も一理ある。しかし、こうして平和な状態を保つためにこの会議もしくは反アウス王国同盟が作られたのだ。今更、領土のことでもめるのは滑稽としか言いようがない。」


アンテ王はいち早く反論した。


「じゃ、若輩者に何がわかる。お前はアウス王を見たことがないのであろう。戦場での彼の姿を見た時には戦慄が走った。」


ロードスは続けた。


「だから何だというのだ。戦う前から弱腰でどうする。しかも相手は俺より下の王であり、新興国だぞ。負けるわけがあるまい。それに領土に関しては考えてある。」

「ロードス王、簡単に言うことではない。すく…」


議長の静止を振り切り、ロードスは発言を続けた。




リオを含めた3人は旅支度をしていた。もちろん、学者に会いに行くためだが恰好があまりにも目立ちすぎた。

リオは簡単な携帯食に彼の身長ほどもある剣を背負っている。服は旅に着るようなローブを着ている。

レオンも同じくローブを着ているが、帽子が大きく何か場違いな雰囲気を出している。

将軍は盾とリオの持っている剣の半分ぐらいの長さのものを腰に差している。しかし、着ている服が軍事用のものであり、傭兵の感じに仕上がっている。


ルヴェルはその恰好を見て不安になった。

真っ先にこの3人が金を持っている、もしくはカツアゲでもしようかと思ってしまうからだ。


「それで、この格好でその学者とやらを説得に行くわけ。」


ルヴェルは若干頭に血が上っているようだ。


「おう。」

「ああ。」

「はい。」


ルヴェルは頭に手を置いた。頭が痛くなったのだ。そして、会議室に戻っていった。業務は山ほどあるのだ。特に書類がだが…。


ティルは微塵も心配はしていないようだ。

表情は満面の笑みといったところか。


「じゃあ、3人とも気を付けて。何かあった際には必ず早馬で伝えるから。道順だけはしっかりと守ってね。早馬が意味なくなるから。」


3人とも同時に頷く。

軍の主力がいなくなるのは情勢よくないのだが、リオを守るためにはリオと同等の実力に近いものを持っていないといけない。

それが2人しかいない。それほど、アリストは人材に恵まれていない。



リオがティルに向けて言った。


「すまんが、留守を頼む。いざとなればルヴェルよりもティルのほうが軍を動かすのは向いている。お前が前線に出て、ルヴェルには後方支援をしてもらえ。いざとなればギルドを動かさざるをえないかもしれないが、それは最終手段だ。あくまで、俺たちは他国やギルドの力を完全に頼るつもりはない。」


ティルは犬が尻尾を振るように頷いていた。


「リオ様大丈夫だよ。」

「ティル、無理はするな。少なくとも将軍だけはその早馬に乗せて戻らせる。それから、俺とリオが合流する。もう一度言うが無理はするな。」


レオンはリオのことばかりを考えている、ティルが不安だった。もう少し自分の考えというものを持っていてもよいのではないかと思う。それにリオのことを思うばかり、冷静に判断を下せなくなる場合がある。仮とはいえ実質の最高指揮官が冷静でなくては軍もまともに機能することはない。


テミール将軍も頷いた。


「何かあれば私がすぐに戻る。それまでは前線の維持だけを考えておくのだ。アウス帝国は動く気配がないことを部下が確認している。しかし、北のロードス、西のアンテは兵糧を集めているとのうわさを耳にした。今すぐにとは考えにくいが、ある程度の準備はしている。私の副官もいる。彼を頼るのだ。彼であれば時間稼ぎをしてくれるだろう。」


経験があるのだろう。彼はティルのことを真剣に見ている。副官であるタミルのことも信頼しているようだ。


「そろそろ行くぞ。タキーに着くには2日かかる。13か国会議をしているのであれば、動く可能性があるのは2つの国だな。両方ともに国境が近い。できるだけ早く戻るようにしよう。さて、こんな状況に行くほどの人物かどうか見物だな。」


3人は出発しようとしたが、リオが急に立ち止まった。

リオがすぐさま塀を見ていた。

レオンはそれに気づき、風の術で探査を行ったが誰もいる気配がない。


「どうした、誰もいないはずだぞ。」


将軍もそれに続く。


「殺気も感じることはありません。リオ王、体調が優れないとか…。」

「いや、何でもないさ。どうやら気のせいだったみたいだ。足を止めてすまなかった。行こう。」


リオは歩調を速めた。おそらく、今の感触は間違いない。


腕利きの殺人鬼でも取りつかれたようだ。

来るのであれば来ればいい。俺はもう逃げることができない立場なのだ。

彼はタキーに行くべく気持ちを切り替えた。




3人が首都アリストを立つ頃、13か国会議は詰めの段階まで話が進んでいた。


「経済制裁を加えるのはここにいる首脳が署名をする必要がある。しかし、これは限定的なものであることを議長のバージェフの名にかけて誓ってもらいたい。過去の国であまりに多くの経済制裁を加えたせいで自暴自棄となった国もある。」


一斉に首脳が頷く。

それはメジス帝国を指している。

かの国は軍備増強をしたせいでイクト、アクトから経済制裁を受けた。メジス帝国には鉱物の産出量が少なく、すべてを輸入に頼っていた。だからこそ、この経済制裁で軍事機能が麻痺してしまった。今でこそ、術が主体の戦いにはなっているがいまだに歩兵には術が使えないものが多い。そのため鉄の輸出制限はメジス帝国で波紋を呼び、ついには紛争へと発展した。今でも紛争は続いている。


ペンの音が聞こえる。最近では使われなくなった油性のものも術を使うことにより、劣化を防ぐことができる。高価なものだが、こういった公式の場ではよく使われるものだ。


ロードスが議長のバージェフに紙を渡す。

そこには13か国首脳の名前があった。


「では、この議決には原則従ってもらおう。さて、次の議題が厄介だな。」


バージェフはロードスを見る。


「派兵はどの国にも共通に言えることだが、認めている。だが、今までで他国への派兵を認めたことは一度もない。それは戦争になることが分かっているからだ。本来ならアウス王国がアリストへ軍を派遣し、鎮圧する。それが現在の常識である。しかし、現状ではアウス王国は指導力の低下がみられ、またアウス王自身も病であることは分かっている。それを前提にしているということを踏まえて、これからの行動には責任を持ってくれ。ロードス王、アンテ王。それに先ほどの口約束を確実に履行してもらいたいものだ。さて、これで長く続いた会議を終えることにしよう。」



バージェフは鐘を鳴らした。



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