赤眼のレリク 第6話
皆、戸惑っている。それは当然だろう。このダンジョンは初心者が入るダンジョンとして有名だ。こんなに大きな作りになっているはずもないはずだった。高さは6メートル、横は20メートルぐらいだったが、今では倍になっている。ダンジョンが変わるというのはこんなにたくさんあることではない。地殻変動みたいなことが原因とされているが、実際のところダンジョンが変わるところを誰も見ていないのだ。そういう目にあった者は例外なく死んでいることだろう。ダンジョンが変わることに対処できるようなやつはいない。もちろん、地震などによることもあるが、それはダンジョンが崩壊したり、一部崩れることを意味しているのであって今回の状況とは全く異なる。何か嫌な予感がするが、皆仕方ないという感じだ。受けてしまった以上破棄すれば違約金がとられることになる。それは報酬の二倍だが、今回はかなり高額な報酬が書いてある。なので、はらうのには一苦労だ。即金で払わなければ利子がつく。ギルドに干されてしまうとそれなりの制裁が待っている。今回のような場合は特別かもしれないが、これだけの人数がダンジョンに入って、失敗したとあってはギルドの面目も丸つぶれだ。
松明を持って歩きながら、テディーがしゃべっていた。本来ならしゃべらないほうがよいのだが、ここまで集団となってしまっては意思疎通を図ることが何よりも重要だと俺は思う。
「ダンジョンはこのとおり様変わりしている。何が起こるかわからない。皆の協力がなくしては今回の任務すら全うできないだろう。班長は常に連絡するように…。なんか先が妙に明るい。皆、戦闘の準備をしろ。」
さすがにここら辺は皆心得ている。このようなダンジョンではが明るいということは全くない。普通の人が入らないから冒険者が行くのだ。各々武器を構えて前へ進んでいく。テディーの合図で皆、明るくなっている広場に出た。
「何だ?ここは…。」
「鉱山自体が光っているのか…?こんなダンジョンは初めてだ。」
ここは鉱山系のダンジョンだ。森林みたいなところとは違う。光は全くといってもいいぐらい入ってこないはずだし、ここまで広い広場あること自体がありえない。明らかに人為的なものだと推測は出来る。しかし、ここまでとなると、一個人が出来るようなことではない。まさに国家がやるようなことだ。そこで何か不祥事があったということなのだろうか。それとも、何かしらモンスターが現れたか…、盗賊にでも襲われたか、そのどちらかのように思われる。
テディーが周りを見渡しながら言う。
「何か罠が仕掛けられている可能性もある。警戒態勢を崩すな。レリク。生態感知はできそうか?」
「できるが、時間がかかる。その間、お前たちが保護してくれよ。」
「わかった。すぐにやれ。みんなはレリクを守れ。第1班は俺と一緒にあたりを見回る。」
宝石が妙に光っている。こんなダンジョンは経験したことがない。人為的なものとは考えにくいが、さて、術に集中するか…。
「ん?これは…。」
「どうした?レリク。」
「まずい。すごい量だ。しかもこんなモンスターは感じたことがない。」
「全員隊形を維持…。」
「「「「「「キシャーーーーー」」」」」」
まずいことになった。
「全員、班で固まって対処しろ。」
「これは何系統のモンスターだ?レリクさん見たことないか?」
ロスが言う。
何かよくわからないモンスターだ。なんとなく風系統の格好には違いないが、羽も生えているし、何より体が小さく手足も短い。あまり強いようには見えないが動きは素早そうだ。
「俺も見たことがない。一応風系統だと思って戦おう。」
テディーがすばやく判断した。
「レリクの意見を採用する。みな、気をつけろよ。」
皆、それに賛成したようだった。ダンジョン内のモンスターはダンジョン内の影響を受けやすい。しかし、羽が生えているというのは厄介だ。人間は空を飛ぶことができない。空中になると術や武器の命中率が極端に落ちる。これがすばやい動きになるとかなり厄介だ。
しかし、こうも集団で動くのは大体の場合は下級モンスターのはずだが…。いったいどうなっている?
全部で60匹。そのうち、1匹だけ体が大きな奴がいる。俺はそいつが動き出す前に始末することにした。だが、少し強そうなので詠唱を行うことにした。詠唱を行うと術エネルギー変換効率が高まる。戦場で後続の術部隊が詠唱を行うのはこのためだ。
「我が火の神サラマンダーよ。レリクのエネルギーに答えたまえ。火の上級術マグマを使役することを許したまえ。」
もちろん、古語で詠唱をしている。
「マグファイア。」
俺はこの時モンスターは死んだものだと思っていた。
ボオオオオン
「やったか?」
「いや、まだだ…。」
「テディー。どうした?」
「1匹倒したが…。あれは無属性だ。しかもお前が攻撃する前に4匹は戻って守りに行った。」
「シャアアアア」
無属性。一見役に立ちそうにない属性だが、鍛えることによってすべての属性に対抗することができるものになる。人間ではなかなかそういったものはいないが、モンスターだと生まれつき使える奴も多くいる。そう言ったモンスターは上級種に分類される。しかし、モンスターがモンスターをたてにして守るなど聞いたことがない。可能性としては2つぐらいしか…。
ヒュン。
ザジュ。
モンスターの首が飛んでいく。
どうやら、スピードも申し分ないようだ。人間の急所を確実に狙ってきている。どうやら、ここで騎士は全滅したとして間違いはないだろう。
キンキンキン。
味方も善戦している。負傷者はあまりいないようだ。みな、ベテランということもあって、動きが早く隙がない。もう少しでモンスターは駆除できるだろう。しかし、
「妙ですね。」
ラリアがそう言った。
「ああ。おかしい。」
テディーもそう言った。
本来モンスターというものは群れで動くものもいるが、助け合うというようなことをしない。だからこそ、モンスターといわれているのだが…。この場合は、
「どこかに召喚師がいるということになるな。今では数も少なくなっていると聞いていたんだが、居る所にはいるもんだ。」
「お前も召喚師だろう。レリク。」
「キシャアー」
「ん?逃げるのか?」
ガボ。
一匹のモンスターが何かを取り出した。
それを別のモンスターが口に含み、
キュン
放った。
ボフフフウ
「くそっ。煙幕だ。全員、敵の奇襲に備えろ。レリクはまた頼むぞ。」
「もうやっている。」
ロスがいった。
「テディーさん。モンスターはいなくなったように思います。相手がこの隙を逃すとは思いません。」
「そうだな。どうだ、レリク?」
「そのようだ。しかし、どうする。」
煙幕がようやく晴れたころには45匹のモンスターの死骸が転がっていた。どうやら、弱点は羽だったらしい。
「召喚師が現れたとなれば話はまったく異なる。装備の問題も戦力も情報すらまったくない。これでは死にいくようなものだ。こちらも一旦、ギルドに戻ることにしよう。俺たちだけでは解決できる問題ではなくなったようだ。」
そうして俺たちはダンジョンを後にした。
少しだけきれいなモンスターの死骸を持って…。