リオ・リチャード第32話
ボオオオオ
「兵糧は焼けたか?」
レオンの副官が言った。
「はい!」
「よし。これで投降する兵も増えるだろう。」
レオンの副官は自分の主の方向を見ていた。
「さあ、仕上げだな。」
テミール将軍はタミルに話しかけた。
「ええ。しかし、ここまで簡単に行くとは思いませんでしたが…。」
テミールは頷いた。
「今回は地の利もあって、うまくことが運んだ。ここが湿地帯ではなかったら、レミールも引っかからなかったに違いない。」
それに続けていった。
「ここから反撃だ。今までの借りを返してやれ。突撃。」
レミール将軍は叫んだ。
「ここは駄目だ。何とか下がって…。」
そういった先には兵糧が焼けているのが見えた。
「将軍、このままでは…。」
副官が周りを見渡した。
あらゆるところに兵が配備されており、逃げ切ることは困難だと分かる。
レミール将軍は目を瞑った。
「どうします?もうすぐそこまで敵軍が迫っています。」
こうするしかあるまい。
「お前らは武器を捨てろ。」
副官が言った。
「しかし…。」
「黙れ!」
副官を叱責した。
「全員でここで討ち死にする気か。今の状況を見ても、自分の命が大事か。俺が責任をとる。あちらも少数。捕虜には出来ず解放されるだろう。それに、私は騙されていた。相手はたいしたことがないと情報があった。しかし、ふたを開けてみれば、テオドラは死に、俺たちは策にはまった。後は部下の個人の判断に任せろ。事実を伝えた上でな。」
レミール将軍は愛馬を進め、テミール軍へと向かう。
副官はそれを考えていたが、レミール将軍が言ったことは正しいのだ。我々は何一つ有力な情報は知らされず、今回は負けだ。
「全員、武器を捨てよ。将軍の死を無駄にはするな。俺たちが討つべき敵は他にいる。」
その周りの人間は武器を捨て、馬から降りた。
リオ・ティル、ルヴェルは合流し、レミール軍の逃げ道になるだろう場所にいた。そこには無残にも焼け焦げた兵糧があった。
「賢明な判断かもね。」
ルヴェルが言った。
「さあ、それはどうかな…。」
リオは言った。
「どうして?」
「レミール将軍はそこまで馬鹿ではなかったはずだ。それでなくては、将軍などの地位につけるわけがない。それにあの統率された部下たちを見ろ。」
次々と武器を捨て、投降する準備を始めている。
「しかし、あの中にレミール将軍の姿が見えないよ。リオ様。」
ティルは言った。
ティルは案外、目が良かったりする。
「そうか…。じゃあ、僕たちに下る気はないのだろう。」
リオは目を落とさずに言った。
出来れば、レミールのような豪将もほしかったのだ。
「テミール将軍次第だな…。」
リオは誰にも聞こえないように言った。
いずれはリオも決断しなくてはいけないことだ。
レオンは敵軍の様子を見ていた。
敵を褒めるのはよくないかもしれない。
しかし、強い敵や尊敬できる敵は褒めるべきだと思う。
「さすがに将軍だな。」
俺にもあの決断ができるかどうか、レオンは考えていた。
テミール将軍は叫んだ。
「全軍、止まれ。」
1人を除いて、敵軍は降伏の準備をしている。
それを見たテミールはすぐさま軍を止めた。
「やはり、こうなったか…。」
副官が心配そうにテミールを見つめる。
それを見たテミールは言った。
「心配するな。ここは俺だけでいいだろう。」
そういってテミールも愛馬をレミールのもとへと向かわせた。
また、視点が変わっています。
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