リオ・リチャード第17話
レオンはある情報を聞いた。
「住民が避難?」
「ええ、それが結構な数にのぼるらしく、こちらでの検討も視野にと思いまして…。」
こいつは確かリオの部下だったはず…。
「検討はしてみる。しかし、今は出陣の準備だけで精いっぱいだ。何としても、レミール城だけは落とさなくてはならん。」
物資だけでも住民の負担となる地域で難民の保護にまで手が回るわけがない。
それをタミルが指摘した。
「もちろん、現状はそうかもしれないが、出来る限りのことはしてほしい。」
「わかっています。今は人手も十分ではないのです。しかも、兵力では圧倒的に敵が優勢です。」
「そうだな。確かにレオン殿の言うとおりだ。だが、どうして、今、レミール城から逃げる住民が増えるのだろうか?いや、」
レオンも思いついた。
「気づかれました?」
「ええ。おそらくは、2人は監獄を脱出し、それを流布していると考えることができるでしょう。この難民はそれを聞いた人たちが戦争が起こると分かり逃げてきた。」
ということは国王軍にも2人の脱獄は知れていると考えてもよい。
「一刻の猶予もないですな。テミール将軍に化けているものは血眼に彼らを見つけようとするでしょう。」
「シーリーとミランダを派遣していますが、この状況では少し厳しいかもしれません。」
あくまで彼らは偵察として送り込んだのであって、彼らの保護が目的ではない。
ルヴェルが言った。
「問題は他にもあるわ。城内の中でも富裕層が多いらしいわね。特に将軍よりの。」
レオンは頭を抱えた。これでは単なる難民もある程度の優遇が必要になるかもしれない。
しかも、この街には貧困層が多く、そこに富裕層が来るだけでも問題なのだ。
「レオン殿、そんなに深刻に考える必要もないかもしれません。」
「というと?」
「彼らは運命の岐路に立っています。テミール将軍がなくなれば、逆族として殺されることは目に見えています。そうなれば、彼らには我々とともに立ち上がるかもしれません。もしくは、そういうことを目的とした難民である可能性も否定できません。」
ティルが言った。
「リオ様かもしくはテミール将軍の策略かもしれないと?」
「左様。だが、状況があまり理解できない上に出陣の兵に動揺を与えてもよろしくない。」
「ですが、2人は危ない状況にあるということですね。」
あまりの強い口調に少しの間があった。
「そ、その通りです。」
いつもは温厚なティルが声を張ると危機迫るものを感じる。
昔はいじめられていたが、リオとの特訓を重ね、彼も今や副隊長の位置になっている。
立場的にはレオン、タミルと変わらない。
今はレオンが隊長代理を務めているだけだ。
「じゃあ、僕が行こう。貧民の生まれだから、目立ちにくいだろうし。」
そういって、ティルはこの部屋から出ようとした。
「ちょっと待て、ティル、出陣は明日の晩だ。焦ってもしょうがない。それに奴は強い。」
ティルは副隊長だが、信頼度はリオに次いで2番目だ。リオを一番信頼しているというのが大部分だが、貧民の生まれというのもそれに拍車をかけている。今、ティルが抜けると確実に兵が動揺する。それでなくとも、今、士気が高いということは言えない状況だ。
「だから何?リオ様だけでは太刀打ちできないこともある。それに君主の危機に家臣が誰も助けにいかにというのもおかしな話。」
「いや、そうじゃなくてだな…。」
「じゃ、行ってくるね。」
「ハッハハハハハ」
ルヴェルは声を出して笑った。
「貴殿も苦労するの…。」
タミルのその一言にレオンは机に頭を打ちつけたい衝動に駆られた。