リオ・リチャード第15話
「失礼する。」
無愛想のように聞こえた一言ではあったが、彼の汗や行動の性急さからは十分に事態が掴めるものだった。
「すみませんが、その“書状”を見せてもらいませんか?」
「分かった。」
タミルはすぐにそれを手渡した。
リオの字は達筆で読みにくいが、彼の状況をすぐに理解することができた。
「君がレオン君だね。人数はこれだけなのか?奇襲するにしてもこれでは敵わない。」
彼の声にはかなり焦りが含まれている。
タミルは冷静な人だと聞いていたが、予想外のことには案外、冷静ではいられないのタイプなのだろうか。
もしそうだとしたら、そこは俺とよく似ている。レオンはそう思った。
「少し落ち着いてください。騒いだからといって、状況はよくなりません。それよりもこの書状はいつ送られてきたものです?」
タミルは深呼吸を何度もしていた。しかし、彼とて将軍がこれほど危機的な状況はなかったのかもしれない。
「これは今日、送られてきたものだ。書状にあったように巡回は2日に一回来るかどうかということだ。脱出は容易に出来るとは書いてあった。それはリオ王のおかげだが、状況は待ってくれない。すでに国王軍はこちらに軍を派遣することを閣議で決めたらしい。テミール将軍がいない状況でだが!」
この国の中央の閣議は名目上、地方を治める将軍たちも参加し決定することになっているが、完全に国民に非公開なため、将軍や中央の官僚たちが発表しない限りは閣議があったかどうか自体も不明になる。
テミール将軍はこのことを国民に了承を得た上で行っていたため、国民から厚い信頼を受けていたが、その信頼が仇となり、各地を転々とすることになった。
シーリーが言った。
「しかし、すぐに国王軍が到着することはないだろう。王都からは馬に乗っても2週間はかかるはず。」
それを遮るようにタミルが言った。
「先遣隊というものがある。」
レオンはすぐにその意味が理解できた。軍を動かすにはこの国の法律で閣議を原則、開かなくてはならないが、モンスターの討伐などの名目ではいちいち閣議を行うわけにはいかない。そのため、先遣隊は原則、閣議には縛られず動かせる部隊となっている。
「その先遣隊は?」
タミルが苦い物を口にするような口調で言った。
「数はおよそ5000。指揮を執るのはテミール将軍の義理の弟にあたる、レミール将軍だ。」