赤眼のレリク 第105話
~断末の谷 第3戦~
「だいぶ、歩いたわね。」
「そうですね。」
俺たちはさらに奥に行くために前へ進んでいた。谷というだけあってここは一本道だ。しかし、普通の人間では防ぐことなんてとてもできないだろう…。
もうここには太陽の光は届いていない。しかも、砂漠からは100キロは離れているだろう。
俺は言った。
「生態探査」
どうやら、ここにはモンスターはいないらしい。
「とりあえず、今日はここで休もう。先を急ぎすぎて、負けてしまったら意味がない。それに、アクアがしんどそうだ。」
二人がアクアを見た。顔色がよくないことがわかったらしい。
ラリアがアクアのそばによる。
「大丈夫?」
彼女の体に異常は特に見られないらしい。
「うん。少し、体が疲れただけだから…。」
そういって彼女は地面に座った。それと同時に目を閉じてしまった。
きついだろう。彼女の元へ向かっているのだから…。
「アクアはここまで体力がなかったようには思えませんでしたが…。」
ロスが心配そうにアクアを見つめる。
「そうね。ここ最近調子がよくないみたい…。」
「何か体に異常はなかったか?」
俺はあえて少し疑問を変えた。
「う~ん…。見た限りは何も問題ないように見えた。もちろん、女の子の日が近いのかもしれないけど…。それは私にはわからないから…。」
そこで、ロスが余計なことを言った。
「ラリアにもそういう日があるのですね。初めて知りました。」
ラリアの顔が般若へと変貌を遂げた。俺はもう知らないぞ。
「さて、そろそろ行こう。あっちの出方が気になる。」
正直、アクアの体力は回復しきっていないだろう。しかし、急がないと先手を打たれるかもしれない。
「アクア、いけそう?」
なんだかんだ言って、しっかりと面倒を見ているな、ラリアは。
それに比べてこいつは…。
俺は砂の天辺を見た。
そこにはロスがいる。
もうお馴染みの光景だ。
「だから、僕はいけないことを言いましたか?」
「?」
アクアは寝てたから、わからないだろう。いや、わからないほうがいい。
「行くぞ。」
俺の言葉と同時にラリアが術を解いた。ロスでも砂にはあまり勝てないらしい。
「ひどい目に会いました。」
それはお前のせいだろう?
俺はそう思った。
だが、その思考もすぐにさえぎれられた。
「生態探査」
「どうしたの?何かいた?」
「この先だ。」
俺は木が茂っているところを指差した。
「どうやら、只者ではないですね。モンスターですか?」
ロスが聞いてくる。フィールドにまで影響を与えるようなモンスターはあまりいない。いるとすれば、ドラゴンぐらいだ。
「まあ、俺は一度だけお目にしたことがあるのはドラゴンだけだ。ほかのモンスターは見たことがない。」
「そうか~。また、変なやつが出なければいいけどね。」
アクアがそういう。しかし、そんなにうまくはいかないだろう…。
俺たちは脚を進めた。
「さて、これはいったいなんです?」
「「さあ?」」
「まあ、木の系統であることは確かだな。」
俺たちはまたまた、モンスターを見上げた。
「しかし、1体とは僕たちもなめられたものですね。」
「気をつけろ。めちゃくちゃ、強いということも考えられる。」
俺が見る限り、人のような木が動いている。もちろん、人間の背丈の5倍はあるが…。それに十分に幹や枝にも栄養が行き渡っているらしく、堂々としたものだ。
「あれは何?」
アクアが言った。
「あれは人?」
ラリアが言った。
幹に誰かの顔がある…。いや、沈んでいるのか、体が…。しかし、顔色は青紫に変わっている。
「もし、あれが人なら助けなくてはいけませんが…。」
そういって、ロスは俺のほうをみた。
「もちろん、ひとつしか生体反応は感じられないぞ。」
あの人は死んでいると見て間違いないだろう。
「しかし、木の系統をぶつけるとはなかなか、根性がありますね。こっちにはレリクさんがいるのに…。」
そういってロスが俺のほうをまた見た。
確かに、それは思っていたが、あの顔におそらくカラクリがあると見て間違いないだろう。
「それにしても、気色悪いね。少なくともいい趣味とはいえない。」
アクアが言う。
「だが、あの顔、どっかで見たような気がしないか?」
俺は二人に尋ねた。
二人は必死に思い出そうとしているようだ。
「まあ、お前らに頭のほうは期待していないからな。」
俺ははっきりそういった。
「何ですって!」
アクアがそういったとき、モンスターがしゃべった。
「お前ら、少し緊張感が足りないような気がするな…。」
俺たちは一斉に距離をとった。
「モンスターがしゃべるなんて…。」
「俺はモンスターじゃない…。」
モンスターではない?どう見てもそれは人の形をしていないだろう。
モンスターはいきなり、木の葉を振りまいてきた。
「炎上網」
これぐらいなら、たいしたことはない。
「今回の敵は楽勝ですね。」
しかし、モンスターの術エネルギーはどうやら、木ばかりではないらしい。
「くるぞ。こいつはほかにも何か使えそうだ。」
「そうね。これは少しまずいかもしれない。」
そういってラリアは上を見ていた。
バリバリ
閃光のように稲妻が走る。
俺の術に当たっていたが、それも一瞬だった。
それぞれ違う方向に散ってしまった。それと同時に周りの木々が一斉に動き始める。
「これが相手の狙いか…。俺やロスはともかく、アクアには少しばかり、骨のある相手だな。」
俺は回りの木を燃え散らした。
「さて、さすがにこの状況でもまだ、余裕で要られるか?」
俺はモンスターに話しかけた。
「心配は無用だ。もともと俺はお前が狙いだ。」
「何?」
彼は何か詠唱を唱え始めた。それにあわせて、光が徐々に俺の周りへと集まってくる。
「これは?」
「食らえ。」
俺の体は吹き飛んでいった。
「レリクさん。」
「くそ、助けに行きたいけど…。」
「厄介ね。この木は。」
3人は普通とは違う木に悪戦苦闘していた。
俺は壁に叩きつけられた。
「ぐっ。」
あらかじめに俺が来る方向を読んでいたらしい。いや、それとも察知していたのか…。しかし、これで、相手の正体がはっきりした。
少し、体が軋む。しかし、少し動かしてみたが、目だった外傷はないみたいだ。
「お前をやれる日が来るとは思わなかった。レリク。」
「そうだな。ルイ。」
彼は確かにルイだった。
「だが、落ちたな。」
「何?」
「お前が俺に負けたらしいが、正直お前のことは1つも覚えていないぞ。カスになんか興味はない。」
彼は表情を変えた。どうやら、逆鱗に触れたらしい。
だがな、俺はお前が気にくわない。
「お前の行いはギルドで知っている。かなりあくどい所までやってきたらしいな。」
「それがどうした?俺は力を手に入れるためにここまできたのだ。そしてお前を倒すためにな。」
こいつは俺が作り出してしまったものらしい。だったら、俺が処理しないといけないよな。
「力に溺れたな。」
俺は槍を振るった。
「フレイムバーニング」
木々が徐々に焼け始め、ジャングルはなくなっていく…。何もフィールドに与えられる技を持っているのはお前だけではない。それに木系統では俺には勝ち目はない。
「ぐっ。」
彼は木から分離した。
ザッ
3人が俺の隣へ来た。
「助かりました。あの木は普通とは違いまして…。切ったら切った分だけ増えていきました。」
まあ、“H”がこいつに力を与えたのだろう。到底、こいつだけではできないはずだ。
「ルイだったの…?」
ラリアが不思議な表情で見ている。
「これはとんでもないことですね…。」
ロスは軽蔑の眼差しで見ている。
「うるせえよ。」
彼は俺に切りかかってきた。
ギィィィィン
ラリア、ロス、アクアがその剣をとめる。
「何、お前らごときに俺の剣が止められはずはない。」
「でも、とめているな。」
俺はルイを見ていった。
「お前には大事なものが欠けている。」
まあ、それは知る必要もないし、知ることもできないだろうがな…。
「さよならだ…。ルイ。」
俺はルイの腹に槍を刺した。
「案外、楽に勝てたわね…。」
俺たちはルイの死体を見下ろしていた。
「そうだな…。まあ、こいつは時間稼ぎだったのだろうな。」
「それにしても、ルイがここまで力に執着しているとは思わなかったですけどね…。」
ロスはルイを見ていった。
「普通の人間はそうだ。俺たちみたいに特殊な強いものを持っているわけではない。俺たちは俺たちで苦労してきたがな。この強い力のせいで…。」
全員が黙った。
「そうね…。こいつは戦場にも呼ばれなかったみたいだし、」
「もういい。それより、先を急ごう。あの木、どうやら普通ではなかった。“H”の力は徐々に増してきているのかもしれない。」
俺はラリアの言葉を遮った。
それはアクアの影響だろう。そろそろ、本来の力を取り戻すはずだ。しかし、なぜ、彼女が直接来ないのか気になる。
「そうですね。わざわざ、時間を与える必要もないですね。行きましょうか?」
ロスは歩き出した。
ラリアはどうやら、アクアを治療しているらしい。
「どうした?どこか怪我をしたのか?」
俺はラリアに尋ねた。
ロスもこっちを振り返った。
「いや、違うのだけど…。」
「ここに痣ができちゃって…。」
アクアは腕まくりをした。このマークは…。
「どうしました?レリクさん?」
ロスはこっちをしっかり見ている。
俺は平静を装い、言った。
「いや、なんでもない。アクア、その痣は痛むか?」
「ううん…。痛まないけど…、少し気になって…。」
まあ、それは当然か…。
彼女の目の下に月のマークができていた。
「それなら、気にする必要はないだろう。先を急ごう。」
あのマークが出たって事は…。もう時間がないか…。