赤眼のレリク 第101話
~断末の谷 初戦~
「こいつら!」
俺が放った炎を吸収していやがる。
「レリクさん!」
ロスが俺の心配をしてくる。俺は別に火系統だけではないぞ。
そう考えている間にロスの後ろにモンスターが迫っていた。
犬というよりは犬型のアンデットらしい。アンデットでも特殊な部類になるらしく、体中の肉は死臭を放っているが、それはある程度、術によって回復できるらしい。
体格はドーベルマンよりも少し大きいぐらいか…。
「くっ…。」
キャン
その犬はラリアによって後ろから真っ二つに切られた。
「すみません。」
「集中を切らすな。くるぞ。」
俺は目の前のモンスターをなぎ払った。彼らの肉片が無残にも飛んでいく。しかし、彼らは味方の死体を乗り越えて、次から次へと攻撃を仕掛けてくる。俺は槍を回すようにして、周りのモンスターを蹴散らした。
しかし、彼らの連携は見事なものだ。
「アクア!」
ロスの声が聞こえた。
俺は術エネルギーを使い、一瞬にしてアクアの元に駆け寄った。
「甘いぞ。」
俺のついた槍は確実に犬の眉間を捕らえていた。
その犬はすぐに目の輝きを失った。
ザッザッ
ラリアとロスが隣に来る。
「数が多すぎる!」
ラリアが叫んだ。
「しかも、動きが早い。いったい何の生物ですか?」
ロスは俺に尋ねてきた。
「もし、俺がこいつらのことを知っていたら、火を使うわけないだろう。」
俺たちは四人で背中を向き合うようにして円陣を組んだ。早い話が数に圧倒され、囲まれているのだ。
「アクア、大丈夫?」
ラリアがアクアに話しかける。どうやら、どこかやられたらしい。
「ごめん。大丈夫。それよりもここは私がやらないとね…。みんな、少し時間を稼いでくれる?これぐらいなら、やれるはず。」
ロスは焦ったように声を上げた。
「まだ、初めですよ。ここで体力を…。」
しかし、彼女はもうすでに術エネルギーを溜めている。
「アクアを囲め。一匹も通すなよ。」
俺たちはトライアングルのようにアクアを囲んだ。
「行くぞ。一斉に術をかける。」
俺は木を選択した。火の次に得意なのは木系統だ。
「枝吹雪」
俺たちの周りに枝のような矢が降り注ぐ。しかし、これだけでは彼らの動きをとめることはできない。
「雷鳴波」
彼を中心にして、超音波が回りに響く。俺たち人間よりも感覚に敏感な犬は動きを止めてしまう。
キャン
キャン
よし。
「砂煙」
遠くにいる犬を近くに来させないために彼女は砂の煙幕を張った。
これである程度時間は稼げるはず。
「まだ、アクア!」
ラリアが焦ったように叫ぶ。ここは砂漠じゃない。彼女の術エネルギーの消費量は少なくないはずだ。
「もう少し…。」
アクアは必死に術エネルギーを溜めていた。しかし、この術、どこかで見たことが…。
そう思っていると…
「レリクさん、後ろ!」
俺の後ろには犬が迫っていた。
しまった!
そのとき、後ろからアクアの声が聞こえた。
「ダイアモンドダスト」
俺たちの一面が氷と化していた。
「レリクさん、焦らないでください。」
これはあのときの…。
「アクア!」
ラリアが叫んだ。
俺たちの後ろでアクアが倒れていた。しかし、モンスターは周りと同じように凍っていた。どうやら、ここはアクアに助けられたようだ。
俺とロスはアクアの元へ駆け寄った。俺たちはアクアを心配してみたが、ラリアが肩を撫で下ろした。
「どうやら、術を使いすぎて、気絶しているみたい。」
彼女は俺に微笑みかけた。
「アクアに救われたわね。」
「ああ。そうだな。少し集中を切らした。」
「それにしてもここに“初代”が来たのは本当なのですか?」
「何か怪しくなってきたわね…。」
そうだ。俺たちは伝説を基にしてここにきた。それは間違ってないように思われる。しかし、親父の話だとここに来たのは“初代”だけだったはず…。どうやって、この奥まで…。
俺はアクアの顔を見て、その思考を止めた。他のモンスターがここを襲ってこないとも限らない…。
「生態探査」
それを使った瞬間に二人の顔が強張った。
「まだ、来るのですか?」
俺はモンスターの動きを感じた。しかし、ここを襲ってくるようなことはないようだ。
「いや、それはないらしい。どうやら、ここのモンスターは縄張り意識でも持っているのかもしれない。」
安心したようにラリアが息をついた。
「こんな戦いが連戦で続いたんじゃ、私たちには勝ち目がないと思っていたわ。いいほうに向かっているみたいね。」
しかし、俺は少し違和感を感じていた。
「まあ、そういうことだ。モンスターが襲ってこないときを狙って、休憩を取るようにしよう。そうでもしなくては体が持たない。」
ロスが頷く。
「ですね。ここまで初戦でエネルギーを使うとは思っていませんでした。」
彼はそういってその場に座り込んだ。
ラリアはアクアのそばに駆け寄っていった。
俺は断末の谷の奥を見た。
この先にはいったい、どんなモンスターが待っているんだ?
俺は不安を感じながらも腰を下ろした。