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第六話 軍議

第六話


 アヴァロン・クレイドル内、第一食堂。

 

 三千年前と変わらぬ白磁のタイルと、魔導クリスタルのシャンデリアが輝くその場所で、俺は贅沢な革張りの椅子に深く腰を下ろしていた。

 

 目の前には、宮廷料理長ヴェルデが「急造品」と称したフルコースが並んでいる。

 

「若。まずはその『天然ドラゴンスープ』を。細胞の隅々まで魔導ナノマシンが行き渡り、不浄な外界の毒素を洗浄してくれるはずです」


 ……天然ドラゴンってなんだよ。

 

 ヴェルデが銀の匙を差し出す。俺は杖を傍らに置き、震える右手を必死に制御して匙を取った。

 

(……くっ、やはりラグがある。匙を口に運ぶだけの動作に、これほど精神を使うとは……)

 

 脳の命令が指先に届くまでに僅かな無音の時間がかかる。

 それを悟られぬよう、俺は至極ゆっくりと、あたかも「優雅さを演出している」かのようにスープを口に含んだ。


 「…………ッ!?」

 

 衝撃が走った。美味い、という次元ではない。スープが喉を通った瞬間、全身の血管に高密度の魔力を流し込まれたような熱い刺激が走り、濁っていた視界がパッと開ける。

 

「若。顔色が5.8%改善しました。当然の結果ですが」

 

 ヴェルデが無表情に頷く。隣では、フェンリスが山積みのドラゴンステーキを「あふあふ」と頬張り、ガルーダは直立不動でホログラムディスプレイを展開していた。

 

「若。お食事中失礼いたします。この三日間、若が収集されたコアの魔力波、および騎士団長セドリックからスキャンした記憶データの解析、そして地形の解析が完了いたしました」

 

 ガルーダが四本の腕のうち二本を使い、卓上に立体地図を投影する。そこには、俺の知らない歪な形の平原や山々と、複数の国家の名が刻まれていた。

 

「……現状、この大陸はセネガンド王国を含む五つの大国と、複数の都市国家に分かれています。暦は現代人で言う聖暦1024年。人類は三千年前の我が帝国の歴史を、完全に『神話』として認識しているようです」

 

「神話、か。道理で俺の偽名にコロッと騙されるわけだ」

 

「左様に御座います。さらに深刻なのは、彼らの技術レベルです。若、これをご覧ください」

 

 ガルーダが地図の一部を拡大し、何やら豪華な金細工が施された杖の画像を映し出した。

 

「これはセネガンド王国の国宝の一つ、聖天の杖とされるものです。」


「え、これって……」

 俺がそう言いかけた時、ガルーダも頷きと同時に口を開いた。

 

「……解析の結果、これは我が帝国の汎用型清掃ロボットの制御用リモコンであることが判明しました」

 

「…………」

 

「先端の宝石は単なる出力ボタンに過ぎませんが、今の未熟な魔導師たちは、これに祈りを捧げ、全力で魔力を注ぎ込むことで、ようやく小さな雷を発生させているようです」

 

(……ゴミじゃないか。俺たちの時代なら、電池が切れたら捨ててたような代物を、国宝として崇めているのか?)

 

 絶句する俺に、ガルーダはさらに追い打ちをかけるように、別の画像を映した。

 

「また、各地に点在する『聖なる遺跡』……その正体は、かつての帝国の『産業廃棄物処理場』や『資材置き場』です。彼らはそこから発せられる微弱な漏洩魔力を『聖域の加護』と呼び、命懸けでその恩恵を奪い合っております」

 

「やはり、若の考えの通り一度人類いや、生物種がリセットされている可能性があります」

 

 情けない話だ。我が国を打ち破った連合諸国は三千年の時を前にして世界と共に滅亡してしまうとは。

 

「……若、もう一点。周囲の地形解析を進めていたところ、極めて重要な反応を捉えました」

 

 ガルーダがホログラムの縮尺を急激に広げる。

 アヴァロン・クレイドルから北西へ約二一五キロ。かつて帝国の軍事演習場だったと思われる山岳地帯の地下深層に、禍々しい真っ赤な光が点滅していた。

 

「……何だ、この魔力反応は。先日俺たちが倒した害獣とは比較にならんぞ」

 

「はっ。推定魔力値は計測不能。三千年の間、地下の魔力溜まりを吸収し続け、異常進化を遂げた『超弩級個体』と推測されます。解析によれば、この個体が持つコアを回収し、魔導炉へ直結させることができれば……」

 

 ガルーダの四つの瞳が、かつてないほどの鋭さで光った。

 

「現在スリープ中の同胞のうち、約五名を一気に覚醒させることが可能です」

 

「……五人だと?」

 

 俺の手が止まった。今目覚めているのは三人。ここにさらに五人が加われば、拠点の稼働率は一気に跳ね上がる。

 

「やったぁ! 五人も起きるの!? そしたらフェンリスともっと遊べる人が増えるね!」

 

 フェンリスが尻尾をブンブンと振り回し、食堂の空気が振動する。


 俺はガルーダに尋ねた。


「だがそんな遠方に行かなくても、このままこの原生林でコアを集めて全員復活させるという手もないか?」


 頭を下げてガルーダは答える。


「僭越ながら若、料理長ヴェルデの覚醒は深刻な食事問題を解決すべく本当は残しておきたかった非常エネルギーを足し合わせたことで、3日ほどのコア収集で可能なことでした」


「しかし」


 ガルーダは続ける。


「今回覚醒に使える残存エネルギーは覚醒に必要なエネルギーの約2%、つまりたった1人を覚醒させるのに単純計算、あと685日間の魔獣討伐を行わなければならないのです」


 ……685日か、

確かにガルーダの言った超弩級個体を倒しに行った方が何千倍も効率が良いのだろう。

 だが、現在の超弩級個体の強さを俺たちは知らない。

三千年前のアヴァロン序列三位の"あいつ"と同等量の魔力を持っていることから戦えるガルーダ、フェンリス、俺の3人で倒せるかどうかと言ったところだろうか。


 ……いや、ここで倒さねば俺の配下全員の復活は夢とかしてしまう。

 俺は拳を握りして覚悟を決めた。


「わかった……では3日後その超弩級個体とやらの討伐を行う」

 


「若!!さすがヴァルガリス帝国の王であられる」

「やったぁぁ!強い敵!強い敵!」

「若の体をいち早く回復させる食事を今すぐに作らねば!」


 3人の狂気と言える歓声が起こった。


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