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第五話 3人目の臣下

第五話


「それでだな。我々にこの時代のことについて、色々教えて欲しいのだ。……礼と言っては何だが、その折れた足ぐらいは繋いでやろう」


 その騎士は少しの沈黙という状況整理の後快く快諾した。


「……ありがたき幸せ!!このセドリック貴方様が満足するまでこの命を振り絞ってでも情報を提供いたします!」


――それから三日間。俺たちはセドリックを案内役(半分は荷物持ち)として、樹海の深部を探索したした。

 

 目的は情報の収集、そして何より拠点の燃料となる魔獣のコアの収集だ。

 

「あ、また変なのいた! 主様、やっていい!?」

 

「……許可する。コアを傷つけるなよ、スウェル」

 

「はーい!」

 

 ド、パァァァン!! と、もはや聞き慣れた爆音と共に、この時代のプロの騎士たちが束になっても勝てないような巨大な魔獣が、ただの「赤い霧」に変わる。

 そしてフェンリスが回収してきたコアを、俺は王家の紋章の機能を使ってガルーダの待つ拠点へ自動転送する。

 

「お、消えた……!? 仙人様の御力、もはや神話の領域……」

 

 空間が歪み、一瞬にして光の中に消える核を見て、セドリックはもはや驚く気力すら失ったようで、ひたすらメモを取っていた。


――そして三日、

 

「……十分だな。セドリック、ここでお別れだ。お前の国へ戻り、王に伝えておくがいい。『古の隣人が目覚めた』とな」

「は、ははっ……! 必ずや!」

 

 俺は杖を突き、一歩遅れて動く足を必死に制御しながら、霧の中へと消えていった。

 

 ……実際はというと、もう少し樹海を調べたかったのだが三日間の野宿で腰がバキバキになり、早く拠点の最高級ベッドにダイブしたくて仕方がなかった。


「ただいまぁー! ガルーダ、お土産はないよ! 全部スウェルが食べちゃったもん!」

 

 転送ゲートを抜け、拠点アヴァロン・クレイドルの重厚なハッチが開くと同時に、フェンリスが叫ぶ。

 だが、俺たちを待っていたのは、ガルーダの堅苦しすぎる挨拶ではなかった。

 

「――お帰りなさい。若。予定より遅いご帰還ですね」

 

 廊下に響くのは、清潔感のある、しかし冷徹なまでに静かな声。

 そして鼻腔をくすぐったのは、血生臭い樹海には絶対に存在しえない、芳醇な赤ワインのソースと焼きたてのパンの香りだった。

 

「お、おい……この匂いは……」

「というか、この声……まさか!」

 

 廊下の先、白く磨き上げられた床の上に、一人の男が立っていた。

 汚れ一つない純白のコックコート。その上に、帝国の紋章が刻まれた防弾エプロンを締め、片目には食材解析用モノクルを装着している。

 

 帝国宮廷料理長、兼、第十二皇子専属生体栄養管理官。


 ヴェルデ。

 

 彼は手に持っていた銀のトレイを脇に抱え、完璧な角度で、しかしどこか威圧感のある一礼をした。


「……3人目に起きたのはヴェルデか。」


 確かにガルーダは最良の判断をしてくれた。

 そういえば俺は食事のことを微塵も考えていなかったのだ。

 最良なのだが……

 

「はっ。三時間前にガルーダよりエネルギーの分配を受け、覚醒いたしました。……それより若、動かないでください。スキャンします」

 

 ヴェルデがモノクルを光らせると、俺の全身を青い光がなぞる。

 

「…………最悪だ!!!!」


 ………やっぱりだ……

 

「三日間の摂取栄養素は、粗末な干し肉と不潔な湧き水、そして魔力密度の低い野生の木の実。腸内環境は3万年前のゴミ捨て場以下!若、あなたの体は今、神経伝達の遅れ以前の問題で『腐りかけて』います」

 

「……言い方。一応、これでも俺は仙人パトスっていう設定で……」

 

「そんな三流演劇のような嘘はどうでもよろしい。若の細胞が泣いています」

 

 ヴェルデは全力ダッシュで厨房に戻り、ある「紫色の怪しく光る液体」を持って戻ってきた。

 

「まずはこれを。私が先ほど拠点のバイオ農園を再起動させ、急造した生体魔導栄養薬です。味は保障しませんが、飲まなければ次の一歩でその衰えた足がもげますよ」

 

「……う、うむ」

 

(こいつ、相変わらず主君への扱いが厳しいな……)

 

 俺が覚悟を決めてその液体を飲み干すと、驚くべきことに、全身に熱い衝撃が走り、脳と足の疲労がわずかに改善したような感覚があった。

 ……味は、そうだな……消費期限の切れたコーヒーを真夏に外で一週間ほど放置した後に砂糖を入れた感じだ。


 俺が後から来る吐き気のする味に悶絶していることなど気にせずヴェルデはフェンリスに話しかけた。

 

「フェンリス、貴女には地下の食肉庫を解放しておきました。三千年熟成の冷凍ドラゴンミートです。勝手に生で食べないように。必ず一度、私の加熱処理を通しなさい」

 

「わぁぁ! ドラゴン! ヴェルデ、大好き! 早く焼いて焼いて!」

 

 フェンリスが尻尾を振り回してヴェルデに飛びつくが、彼は柳のようにかわし、再び俺に向き直った。

 

「若。お風呂の準備はできています。そしてその後、食堂にて食事を摂りながら、ガルーダと合流してください。……若が送ってくれた魔獣のコアの解析結果……あまりに低品質で吐き気がしましたが、それをどう料理(運用)するか、軍議の続きを行いましょう」

 

 ヴェルデはそれだけ言うと、そそくさと厨房へと戻っていく。

 

(……ふぅ。これで、拠点の維持は安定しそうだな。ガルーダが守り、フェンリスが狩り、ヴェルデが食わせる。……完璧な布陣だ。あとは、俺のこの体さえまともになれば……)

 

 俺は杖を突き直し、久しぶりの我が家の温もりに少しだけ安堵した。

読んでくださりありがとうございます!!

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