第三話 調査開始
魔力が多すぎるが故に体が言う事を聞かないと言うことがわかったゼノン。
三千年後の外の情報と14人の臣下の覚醒の為にフェンリスを護衛にして外へ行くことに。
第三話
このアヴァロン・クレイドルから出るためのであるハッチまでは、優に一キロメートルは離れている。
かつての帝国なら、床に敷設されたリニア・スライダーに立つだけで、数分で移動できた距離だ。だが、今の要塞にそんな贅沢な電力を回す余裕はない。
「……っ、ふぅ。……はぁ」
俺はガルーダが武器庫から持ってきた『皇家の儀礼杖』を支えに、一歩、また一歩と廊下を進む。
この杖は本来、式典で王族の威厳を示すための魔導触媒だが、今の俺にとっては単なる「三千年物の超高級な松葉杖」だ。
(……足が、自分のものじゃないみたいだ。神経の信号が脳に届くのが遅すぎて、一歩踏み出すたびに『おっと、地面があったのか』って驚くレベルだぞ)
俺の横では、黒いベレー帽を被り、二本の尻尾を機嫌よさそうに振るフェンリスが、俺の足取りに合わせてペンギンみたいにちょこちょこと歩いている。
彼女の衣装は、三千年前の流行……ではなく、俺が趣味で(正確には、当時のデザイナーに命じて)作らせた『隠密偵察用制服』だ。
黒のシャツにネクタイ、そして短いプリーツスカート。
ガーターベルトが食い込む太ももは、返り血を拭った後でも、どこか艶かしい光沢を放っている。……こんな格好で「護衛です!」と言われても信じてくれる人は少ないだろう。
「主様ぁ、やっぱりフェンリスがおんぶしてあげようか?そしたら一瞬だよ?」
「……断る。俺はこれでも、ヴァルガリス帝国の現国王だ。部下に背負われて外の世界に現れるなど、末代までの恥だ」
実際は、背負われた瞬間に彼女の馬鹿力で俺の背骨がポキッといきそうだからだが。
「若。……出口用ハッチ、開放準備完了しております」
廊下の突き当たり。巨大な円形の防壁の前で、先回りしていたガルーダが四本の腕で敬礼した。
このハッチの向こう側は、三千年は外気と要塞を仕切る緩衝地帯になっていたが、今はどうなっているかわからない。
ガルーダがレバーを引くと、重低音を響かせて巨大な歯車が回り始めた。三千年間、一度も開かなかった扉が、金属の悲鳴を上げながらゆっくりと口を開く。直後、網膜を焼くような眩い光。
視界が白く染まり、徐々に形を成していく。
そこに広がっていたのは、俺の知る「文明」の欠片も存在しない、圧倒的なまでの原生林だった。
俺が知っていた帝都は、常に魔導エンジンの排熱と金属の匂いに満ちていた。だが、今この場に流れ込んできたのは、むせ返るような「生命」の香りだ。
「……空気が、違うな」
「うん! なんだか美味しそうな匂いがするよ、主様!あ、あそこで何か動いてる……。フェンリス、今すぐ捕まえてきてもいい?」
フェンリスの二本の尻尾が、ピンと直立する。彼女の瞳が、無邪気なものから「捕食者」のそれへと一瞬で切り替わった。
「待て。まだだ。……ガルーダ、拠点の秘匿魔法は維持できるか?」
「はっ。外部からこのハッチは大きな大木に見える様に、カモフラージュを展開し続けております。……ですが若、魔導炉の出力が不安定です。御身の帰還まで、長くはもちませぬ」
ガルーダの四つの拳が、強く握られる。
彼にとっても、主である俺をこの不自由な体のまま外へ出すのは断腸の思いなのだろう。
「わかっている。……行くぞ。三千年後の元領地が、俺たちを歓迎してくれることを祈ろう」
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