第二話 アヴァロン・クレイドル再活動
第二話
俺は司令室の巨大な円卓、かつては帝国軍の将帥たちが顔を揃えた場所の主座に、深く腰を下ろした。
「……さて。現状を確認する。軍議を始めるぞ」
俺がそう告げた瞬間、左右に控えていた二人の空気が変わった。
ガルーダは四本の腕を厳かに胸の前で組み、直立不動。
「まさか、あの若が王として私とともに国の立て直しを始める日がくるとは……」
なんか泣き出しそうなこいつは放っておくとする。
フェンリスはというと俺の椅子のすぐ横で、長い尻尾をパタパタと揺らしながら、期待に満ちた目で俺を見つめている。
そんな中俺はコンソールを操作しようとして、自分の右手がわずかに遅れて動くのを冷めた目で眺めていた。
体が思い通りに動いてくれない……
三千年の眠り。それはいい。だが、目の前の二人はどうだ。フェンリスは大型犬のように跳ね回り、ガルーダは四本の腕を完璧に制御して、精密機械のような所作で動いている。
「……ガルーダ。一つ聞きたい」
「はっ、何なりと」
「お前たちは目覚めてすぐ、なぜそれほど自在に動けるのだ?俺の体は、どうにも脳の命令と実際の動きが噛み合わん。水の中で動いているような気分だ」
俺の問いに、ガルーダは四本の腕を厳かに折り畳み、深く一礼した。
「恐れながら若、それは御身の力が我らとは比較にならぬほど絶大すぎるがゆえに御座います」
「……ぜっ、絶大すぎるだと?」
思わぬ回答に眉をひそめると、ガルーダは立て板に水のごとく解説を始めた。
「我ら臣下の肉体と魔力は、いわば器と中身が釣り合っております。目覚めと共に魔力の循環が始まれば、肉体は即座に適合する。……しかし、若の内に秘められた魔力は、もはや一つの小世界に匹敵する特異点。いわば、戦艦の特大エンジンを、人間種という小型の偵察機に積み込んでいるような状態なのです」
「なので今の若の肉体は、暴走しかねないほど強大すぎる自身の魔力を押さえ込むだけで精一杯なのです。神経系の伝達が遅れるのは、魔力の圧力によって回路が焼き切れるのを防ぐための、生物学的な防衛反応……。肉体がその絶大なる出力に馴染むまで、今しばらくの時間を要するかと」
なるほど。確かに生まれながらにこの体だったので今まで体が思い通りに動いていたが、三千年の月日による肉体の衰えにより人間種であることも相まって魔力と肉体が釣り合わなくなっているわけか
「あー、わかった! つまり主様は、すごーく濃いから、お外に出るのが大変なんだね!」
フェンリスが隣で「なるほどー!」と手を叩く。
なんか言い方が少しムワッとするが何もツッコまないでおく。
(それじゃあこれから少しの間この不自由な体が続くわけか……)
ますます胃が痛くなってきたが、俺は平静を装って本題に入った。
「……事情は理解した。では本題だ。拠点の状況を報告しろ」
「はっ。アヴァロン・クレイドル、現時点での稼働率は四パーセント。魔導炉の残エネルギーは……極めて危機的な状況にあります」
ガルーダが空中のホログラムを操作する。浮かび上がったグラフは、真っ赤な点滅と共に、底をつきそうなリザーブ電力を示していた。
三千年という歳月は、永久機関に近いとされた我が帝国の魔導炉すら枯渇寸前まで追い込んだらしい。
「今の出力では、コールドスリープ用の電力と拠点の不可視バリアを維持するのが精一杯……」
「そして非常生存室で眠る、残りの十四人の同胞を呼び起こすリソースは、少ししか残っておりません」
(……十四人、か)
脳裏に、あいつらの顔が浮かぶ。俺を「唯一の希望」と信じて眠りについたあいつらを、このまま電池切れで消滅させるわけにはいかない。
「目覚めさせるには、何が必要だ?」
「魔力です。代替案として、この地に蔓延る魔獣のコア、あるいは強力な魂を持つ生命体を、魔導炉の変換槽へ放り込むのが最も効率的かと」
「魔獣を狩るの? やったぁ! フェンリス、いっぱい食べて、いっぱい持ってくるよ!」
フェンリスが嬉しそうに身を乗り出す。
エネルギーがない。情報もない。俺が所持しているのは言うことを聞かない自分の体と、忠誠心が重すぎる臣下2人。
「よし、決まりだ。これより、ヴァルガリス帝国第一二皇子ゼノン・ヴァルガリスはアヴァロン・クレイドル・再活動計画を始動する!!」
2人の歓声がきこる。
「うぉー!!」「さすがです!!」
俺は続けた。
「まず最初に二つ!拠点の再始動と臣下の復活に必要なエネルギー源である魔獣の『核』の収集。そして三千年後の世界、つまり現在の状況把握だ」
俺が宣言すると、二人の瞳に狂信的なまでの輝きが宿る。
「これからの話だが、ガルーダ。お前は要塞の防衛と、周辺の地形データの解析を。フェンリス。お前は俺の護衛として、外への偵察に同行しろ」
「えっ、主様とお外!? やったぁぁ! フェンリス、主様のこと、絶対守るよ! 食べちゃうくらい守る!」
ガバッと抱きついてきたフェンリスの柔らかい感触に、俺の理性が再び悲鳴を上げる。
一方、ガルーダは深く、深く、その鷲の頭を下げた。
「……若自ら、不浄なる外の世界へ。……その深い御慈悲、感服いたしました。このガルーダ、御身が不在の間、この揺り籠を蟻一匹通さず守り抜くことを誓いましょう」
(……いや、慈悲とかじゃなくて、俺も外の様子を見ておかないと怖いからなんだけどね?)
俺は立ち上がり、鈍い感覚の残る足を一歩、踏み出した。
いや、踏み外した。やはり体が思うように動かない。
――ドテッ
恥ずかしさを押し殺し、倒れ込んだまま
俺は臣下相手に今世紀最大級に格好をつけて言った。
「三千年経って、誰がこの大陸の主を気取っているかは知らんが……。勝手に俺の庭を荒らしているなら、少し教育が必要だな」
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