48:あるハムスターの決意と反逆
「あいつモブのくせして超ーウザかったけどさすがにもう大丈夫でしょ!」
「ええ! あれだけキツイこと言われてなお懲りずに近づいてきたら、むしろ私はその鋼の精神を尊敬しますね!」
「ちょっとお、尊敬なんて止めてよ、あいつはただのモブだよ? 尊敬するならヒロインであるこのあたしでしょ?」
乃亜は胸に手を当て、ポーズを取ってみせた。
「もちろん乃亜、あなたこそがヒロインですとも! 拓馬も有栖も陸もみーんな全部、あなたのものです!」
「だよねー? あー良かった、これでやっとあたしが拓馬のヒロインに――」
「何言ってんだお前らああっ!!!」
ついにオイラの怒りは大爆発を起こした。
神さまを肩に乗せた乃亜がこちらを振り返る。
「何よシロ。文句でもあるの?」
「あるに決まってんだろーがっ!!」
地面の土を高速で引っ掻く。
もしオイラが無力なハムスターじゃなく人間の姿だったら、乃亜たちを殴っていたと思う。
「よりにもよって最悪なタイミングでほとんど上限近かった悠理への好感度をマイナスまで落としやがったな!? 引き留めたとき、拓馬は『おれもお前のことが好きだ』って言いたかったはずなのに! なんで笑ってんだよ!? なあ、見てただろ!? 拓馬泣いてたじゃないか!! 拓馬のことが好きならなんで泣かせて笑ってんだよ!? 何がヒロインだよ、おかしいよお前!!」
憤懣やるかたなく、後ろ足二本で立って両前足を激しく振る。
「拓馬の感情や記憶を弄って、自分が好きだと錯覚させて、無理やり恋人ごっこを演じさせて! 本当にお前はそれで満足なのかよ!? そんなことしたって虚しいだけだろ!?」
「ううん、ちっとも虚しくなんてないよ?」
乃亜はその美しい顔に天使のような微笑みを浮かべ、顎に指を当て、小首を傾げた。
「あたしは何も悪いことなんてしてない。悪いのは全部あいつでしょ? あいつがモブという立場もわきまえず、あたしがいない間に拓馬を誑かしたから拓馬がおかしくなっちゃったんだもの。ヒロインに惚れない拓馬なんて拓馬じゃない。あたしは本来の彼に戻しただけ。一体何が間違ってるの?」
「そうですよ下僕。乃亜は何も間違ってなどいません。ヒロインとして正しく拓馬を導いただけです」
乃亜の肩の上で、神さまが同意する。
彼女は全面的に乃亜の味方だ。だからこそ厄介だった。
「大体さー、攻略対象キャラがヒロインを放ってモブに現を抜かすなんてありえないでしょ? そんな乙女ゲーム、ただのクソゲーじゃん。あたしだったらブチ切れて画面割るわ」
「乃亜、その言葉遣いはどうでしょう」
「あ、ごめーん。乃亜は淑やかで上品でいなきゃね。ヒロインらしくね。大変失礼致しましたわ。いまの発言は忘れてくださいませ」
乃亜はスカートを摘まんで一礼し、一人で楽しそうに笑った。
「さーて、邪魔なモブも消えたし、逆ハーレム目指そうかな」
大きく伸びをしながら、乃亜はとんでもないことを言い出した。
「おお、やりますね乃亜。四人同時攻略ですか」
「でもいちいち攻略するの面倒くさいなー。ねーりっちゃん、ぱぱっと四人の好感度上げちゃってよ。さっき拓馬の好感度を弄れたんだからできるでしょ?」
「えーでも、それは……」
「お願いりっちゃん! お願いおねがーい!」
「……仕方ありませんねえ。他ならぬ乃亜の頼みですから」
「やったあ、りっちゃん、これだから好きっ!」
「もう、調子のいいこと言って……今回だけですよ?」
ダメだこいつら。
きゃっきゃと戯れる乃亜たちを見て、オイラは心の底から思った。
人を泣かせてもなんとも思わない奴らなんて、もう神でもヒロインでも何でもない。ただの外道だ。
――悠理。待たせてごめん。
自分の名前を呼んで泣きじゃくっていた悠理の姿を思い浮かべ、オイラは固く固く決意した。
オイラはこの外道たちと敵対し、お前の味方につく。
台無しにされたお前の恋をハッピーエンドに導いてみせる。
圧倒的に不利だということはわかっている。
オイラは神には敵わない。
でも、神に対抗できる可能性を持つ人間を知っている。




