表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。  作者: 星名柚花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/58

46:言いたい/言えない言葉

 メゾンドカラフルから徒歩五分、住宅街の一角に真新しい公園がある。

 遊具はブランコに滑り台、鉄棒、動物を模した乗り物。

 後は広場とベンチ。その程度の小さな公園だ。


 午後八時半過ぎという時間帯のせいか、私が到着したときから園内には誰もいない。

 時折、公園の前を歩く人はいても、みんな通り過ぎていく。


「…………」

 夜の公園で一人、私はブランコの傍に立っている。

 緊張はそれほどしていない。


 相手に恋人がいて、きっぱりフラれるとわかっている以上、ドキドキしたって全くの無意味だ。


 ふと苦笑が口元を掠めた。

 ほんの数日前までは乃亜に闘志を燃やし、絶対負けない、なんて思ってたのに、現在はこの体たらく。全く情けない。


 でも、しょうがないよね。何せ戦う暇すら与えてもらえなかったんだもの。

 まさか転校初日で二人が付き合い始めるとは。


 悲しいし、少しだけ悔しくもあるけれど、現実を認めなきゃいけない。


 拓馬は乃亜を選んだんだ。私じゃなかった。

 私じゃダメだった。


 目頭が熱くなり、私は急いで空を見上げた。

 空は分厚い雲に阻まれて、星一つ見えない。


 拓馬と見た夏の星空を思い出す。

 八月十三日。乃亜と出会った夏祭りから十日後のこと。


 今日はペルセウス座流星群が見れるんだって、と夕食中に拓馬が言った。

 一緒に見る? と誘われて、私は即座に頷いた。


 日付が変わる頃、私たちはアパートの屋上にビニールシートを広げ、仰向けに寝転がって空を見た。


 天体観測の途中、私が冷やしたラムネの瓶を持ってくると、拓馬は「お前ってほんと気が利くなあ」なんて笑ってた。


 ビールみたいに瓶をぶつけて乾杯した。

 あの日飲んだラムネは信じられないくらい美味しかった。


 天気が微妙だったこともあって、肝心の流れ星は数回しか見ることができなかったけど、そんなの全然構わなかった。


 ぼうっと空を見上げてる無防備な横顔を見て、このまま時間が止まればいいのに、なんて密かに願っていたことを、拓馬は知らないだろう。


 足音が聞こえた。公園の砂利を踏む音が、こちらへ向かってくる。

 私は夜空から音の聞こえた方向へと視線を転じた。


「話って、何」

 拓馬が立っていた。長袖のパーカーにジーンズという姿で。

 彼我の距離は二メートルもない。

 でも、手を伸ばしても届かない距離だ。


「ごめんね。わざわざ呼び出して」

「……別にいいけど」

 拓馬の表情は特にない。怒ってもいないし、笑ってもいない。


 ふと、ペンキの臭いを感じた。遊具の塗料の臭いだ。

 場所選びに失敗した。

 遊具の傍ではなく、広場で待っていれば良かった。


 けれど、ロマンチックさを求めて何になるというのか。

 場所がロマンチックであればあるほど、惨めになるだけだ。


「あのね。拓馬。私」


 切り出すには一拍の間が必要だった。

 息を吸って、拓馬の目をまっすぐに見つめて、言う。


「あなたのことがずっと好きだった。アパートで初めて出会ったときから、ずっと……ずっと好きでした」


 脳裏に拓馬との思い出が次々蘇る。

 いまでもその全てを鮮やかに思い出せる。


「――――」

 私はさらに口を開きかけて、閉じた。


 本当は胸に滾る熱い想いの全てをぶつけたい。

 どんなに拓馬のことが好きだったか伝えたい。


 叶うことなら乃亜と別れて、と叫びたい。

 私を選んで、と。

 泣いて喚いて、縋りつきたい。


 でも、それがどんなに拓馬を困らせるかわかるから、言えるわけがない――。


「……ごめんね、急に。変なこと言い出して。拓馬には素敵な彼女がいるのにね」

 私は右手で前髪を弄りながら顔を伏せた。

 泣いてしまいそうで、これ以上拓馬の顔を直視していることができなかった。


 震える左手を強く握る。

 借り物競争のとき、夏祭りのとき、いつだって拓馬が繋いでくれたのはこの手だった。


 あの幸せな温もりは、きっとこの先どれだけ時が流れても忘れない。


「……いま私が言ったことは、全部忘れて。伝えなきゃ後悔すると思って言わせてもらっただけだから。本当に、拓馬と一色さんの仲を邪魔するつもりなんてないの。もう拓馬には近づかないようにするし、連絡先も消すね。もう……必要ないだろうし」


 有栖のお茶会のLIMEグループも抜けさせてもらおう。

 断ち切るんだ。拓馬に関する全てを。


 どんなに苦しくても辛くても、そのほうがお互いのためになる。

 私は涙の衝動を振り切って顔を上げ、笑顔を作った。


「聞いてくれてありがとう。それじゃ」

 頭を下げ、涙が零れる前に立ち去ろうとした、そのときだった。


 ほとんど反射的、といった動作で、左手首を掴まれた。

 驚いて振り返れば、拓馬が私の手を掴んでいる。


「…………?」 

 何故引き留めるんだろう。私は大いに困惑していた。


 もう近づかない、それで終わりのはずなのに。


「おれは」


 拓馬は何かを言いかけて、言葉を切った。

 もどかしげにその唇が上下する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ