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社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。  作者: 星名柚花


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44/58

44:せめて、きっぱりフラれよう

 目が溶けるんじゃないかと思うほど泣いたらお腹が減った。

 泣くという行為は意外と体力を使う。どんなに悲しくとも、苦しくとも、誰だって永遠に泣いてはいられない。


「……はー」

 カップラーメンを食べ終えて、私はラグマットに寝転がった。

 カップラーメンを食べるなんて久しぶりだ。

 拓馬が「今日は友達と夕食食べるから要らない」ってLIMEで連絡されたとき以来か。一ヵ月ぶりだな。

 毎日同じだったら飽きるだろうけど、やっぱりたまに食べると美味しいよね。お手軽だし。


 拓馬は今日、乃亜と何食べたんだろ。

 まだ乃亜の部屋にいるのかな。


 ぐるぐると思考が渦を巻く。

 これまで見た拓馬の表情が次々と思い浮かんでは消えていき、私は目を閉じて、再びため息をついた。


 不毛だ。拓馬は乃亜の彼氏になったのに。

 私がいくら拓馬のことを考えようと意味なんてないのに。


 そうだ、もっとポジティブに考えよう。

 乃亜が拓馬の料理係になるというならそれでいいじゃないか。


 もう毎日の献立にいちいち悩むこともない。栄養バランス、お弁当の色合い、予算、そういったことに気を遣わなくても済む。

 私の分の料理ならもっと適当でいい。わざわざ皿に盛りつけなくたって、フライパンから直に食べたって構わない。


 気が向かないときは無理せずインスタントに頼ればいいし、お昼だって購買でパンやおにぎりを買って済ませればいいのだ。


 楽になったじゃん。

 面倒な料理係から解放されて良かったじゃん、やったね――嘘だ。

 確かに面倒だと思う日もあったけど、拓馬が美味しいと喜んでくれる顔を見れば、それまでの苦労も面倒も全部帳消しになり、頑張った自分を誇らしく思えたのに。


「……あーもう、だから。未練がましいな、私」

 眉間を指で揉み、呻く。


 諦めきれないのはちゃんと拓馬にフラれてないからだろう。

 大福からは「告白が受け入れられたら恋心を封印する」と脅されていたけれど、もう大福はいないし、乃亜という彼女がいる以上、告白が受け入れられることはまずない。

 ある意味安心してフラれることができるというわけだ。


「……良し。決めた。明日拓馬に告白して、きっぱりフラれる! そしたら気持ちにも区切りがつくはず!」

 決意して、私は跳ね起きた。

 台所に行ってカップラーメンの空き容器を捨て、使った箸やコップを洗う。


 それから、私はテーブルに再び座り、ルーズリーフを広げた。

 もう私の出る幕はないかもしれないけれど。

 それでも、拓馬のためにできることはまだある。





 翌日の昼休憩。昼食後。

「やっとできた……」

 ルーズリーフに最後の一文を書き終え、私は机に突っ伏した。

 このまま目を閉じて眠ってしまいたい。深夜まで作業をしていたせいで昨日は寝不足だ。


「……一色さんいるかな」

 眠気を断ち切って起き上がり、教室内を見回す。

 乃亜の姿はない。拓馬もだ。

 デート中なのかもしれない。

 学食、屋上、図書室、中庭――学校の敷地内にはいくらでもデートスポットがある。


「一色さんなら、さっき教室から出て行ったよ。十分くらい前かな」

 と、後ろの席から声がした。

 振り返れば、由香ちゃんが私を見ている。


「……一色さんにどんな用なの?」

 由香ちゃんはためらいがちに聞いてきた。


 今朝、拓馬と乃亜が付き合い始めたと知って、由香ちゃんはそれはそれは驚いていた。嘘、なんで、とひとしきり狼狽した後、悠理ちゃんはそれでいいの? と聞かれた。


 いいか悪いかなんて私が言える立場じゃないよ、と言ったら由香ちゃんは沈黙し、ごめんと謝った。

 それきりこの話題に触れることはなかったけれど、なんとなく私たちの間には気まずい空気が流れている。


「これを渡したいんだ」

 ルーズリーフの束をまとめて水色のファイルに綴じ、立ち上がる。


「……一応聞くけど、不幸の手紙とかじゃないよね?」

「そんなわけないでしょ!」

 脊髄反射の勢いで突っ込むと、由香ちゃんは笑った。

 初めから冗談だとはわかっていたので、私も笑い返す。


 そうして笑い合えたことで、いつも通りの私たちに戻れた気がした。


「探しに行ってくるね」

「うん、行ってらっしゃい」

 由香ちゃんは小さく手を振った。


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