32:藤美野のイケメン大集合
「あの、皆さん、この度は本当にありがとうございました!」
「いいってば。謝罪も感謝も。もう何回も聞いたよ」
「耳にタコができそうだよね」
「そ、そうですか……でも。うう」
「中村さん、これから『ありがとう』も『ごめんなさい』も禁止ねー言ったら罰金」
「ええっ!?」
「あはは。さ、由香ちゃん、グラス持って」
「う、うん」
「それじゃー夏休み突入と拓馬の全治を祝ってー」
『かんぱーい!』
幸太くんの乾杯の音頭に合わせ、皆でグラスをぶつけ合う。
日曜日、私は有栖先輩のマンションにいた。
いつものメンバーに加えて、今日はなんと由香ちゃんもいる。
由香ちゃんは私の隣に座り、緊張しきった様子でグラスに入ったオレンジジュースを飲んでいる。
それぞれの席の前にはチョコレートのパウンドケーキが用意されていた。
このケーキを作ったのは陸先輩だ。
彼がお菓子作りの名人で、お茶会で提供されるお菓子が全て彼のお手製であることは『カラフルラバーズ』で知っていたけれど、正直、いまでも信じがたい。
無口な彼がエプロンつけて、いそいそお菓子を作ってる姿なんて想像つかない。
難易度の高いシュークリームだってお手の物だし。
もし陸先輩のルートに入っていたら、彼とお菓子を作るイベントが起きたりしたんだろうなぁ。
「……ねえ悠理ちゃん。私、本当にここにいていいのかなぁ……メンバーも場所も豪華すぎて、ここにいるのが申し訳ないんだけど……」
これだけの面積があるというのに、しっかりクーラーの効いた涼しいリビング。
その高級ソファに座り、由香ちゃんは不安そうだ。
「わかるわかる。まさに藤美野のイケメン大集合だもんね」
テーブルを囲っているメンバー全員が眩しいくらいのイケメン。
私もこの環境に慣れるまで時間がかかった。
花瓶にはいつも季節の花が活けられているし。
今日飾られているのは向日葵と白いカラーだ。
「でも、いいに決まってるよ。主催者の有栖先輩直々に招待されたんだから、胸を張って」
「そうだよ、中村さん」
聞いていたらしく、有栖先輩に微笑まれ、由香ちゃんはびくっと身体を跳ねさせた。
「あ、ありがとうございます……」
テーブルにグラスを置いて、由香ちゃんが頭を下げる。
「……どうも中村さんは過剰に僕を恐れてる節があるよね? そんなに怖かったかな? あれでも随分抑えたつもりなんだけど」
有栖先輩が微苦笑する。
あれで抑えた?
しかも『随分』……?
彼の本当の一人称が『俺』だってことは知ってるけど、本気で怒ったらどうなっていたんだろう。
いや、考えるのは止めよう。止めるべきだと本能が言っている。
わざわざ藪をつつく真似はすまい。
この分だと出てくるのは蛇じゃなくて人喰い虎だ。
君子危うきに近寄らず!




