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社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。  作者: 星名柚花


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29:有栖の独擅場(1)

「……有栖先輩……」

 私は眩暈を覚えた。

 拓馬が殴られることまで含めて、最初から全部計算のうちだったのだ。


「どうして赤嶺先輩がここに……白石先輩まで……」

 由香ちゃんは困惑している。

 有栖先輩は学校の王子様、超がつくほどの有名人。

 彼を崇拝する生徒は多く、校内にはファンクラブまである。


 ちなみに陸先輩も相当にモテる。あまりに有栖先輩のファンが多すぎて影に隠れてしまっているだけで。


「やあ、はじめまして中村さん」

 由香ちゃんの呟きが耳に届いたらしく、有栖先輩は友好的に笑った。


「可愛い後輩たちから協力要請を受けてね。まあ僕がここにいる理由なんてどうでもいいでしょう? いま問題にすべきはそこで無様に這い蹲ってる豚だよ」

 豚っ!?

 ナチュラルな毒舌に仰天した。

 有栖先輩は笑顔の裏で激怒しているらしい。


「部外者が出しゃばって申し訳ないけれど、後は僕に任せてもらえないかな? 決して悪いようにはしないから」

「も、もちろんです」


 品行方正で、どんな時も優等生の仮面を崩さない学園の絶対的アイドルが同級生を豚呼ばわりしたことに恐怖を覚えたらしく、由香ちゃんは青い顔で何度も首を縦に振った。


「ありがとう」

「保健室行かなくて大丈夫?」

 有栖先輩が微笑む一方、私は拓馬に尋ねた。


「後で行く。どうなるのか見届けたいし」

「そう」

 頬の具合は心配だったけれど、拓馬の気持ちもわかる。

 私はおとなしく引き下がり、口をつぐんで成り行きを見守ることにした。

 もう私の出る幕はない。

 これからは有栖先輩の独擅場どくせんじょうだ。


「さて」

 有栖先輩はうずくまっている井田先輩の前に立ち、腰に手を当てた。


「話をしようか。二年一組、出席番号二番。藤美野西四丁目の高岡ハイツ405号室に住んでる井田正輝くん」


「な、ど、どうして住所を」

 書類でも読み上げるように、すらすらと言われて、井田先輩が狼狽える。


「お望みとあれば君の家族構成、ご両親の勤め先、ご家族それぞれの略歴を述べてもいいよ? 僕は人脈の広さがささやかな自慢でね。電話一つで様々な情報を提供してくれる知人もいるんだ。恥ずかしい過去も知ってるけど、君の名誉のために言わずにおくよ」


「……なんだよ。なんでお前がしゃしゃり出てくるんだよ白石! ボクはお前が大嫌いなんだ!」

 怒りを原動力にしたらしく、井田先輩は驚愕の呪縛から逃れ、憤然と立ち上がって吼えた。


「心外だね、どうして? 僕は万人に愛されるキャラクターだと思うんだけど」

 不思議そうに首を傾げる有栖先輩。

「だああああ、スカしやがって! お前のそういうところがムカつくんだ!!」

 顔を紅潮させて、井田先輩が荒々しく地団太を踏む。


「行く先々でいちいち巨大ハーレムを作りやがって! 知ってるか! ボクはこの前、木曜日の放課後、お前が引き連れた女子軍団に廊下を塞がれて三十分も通れなかったんだぞ! わかるか、三十分だぞ三十分!」

 

「そうなんだ、ごめんね? 気づかなくて。どうやら僕の目は君のことを映す価値もない塵芥だと認識したみたいだ。きっといまも映したくないんだろうけど、そこは頑張ってもらわないとね。どんなに君が見苦しくても、本当に見えなくなったら会話しづらいし」

 なんて素敵な笑顔なんだろう。台詞と全くかみ合ってない。


「この野郎……!」

 井田先輩が握り拳をわなわな震わせる。


「そんな口の利き方をしていいのかな? 状況わかってる?」

 有栖先輩はスマホの先端を自身の顎に触れさせた。


「このスマホには君が晒した醜態が収められているんだよ? このデータ、どうしようかな?」

「ぐ……」

 井田先輩が唇を噛み、有栖先輩は優雅に笑む。


「三つの選択肢を上げよう。まずはそのいち。君の自宅に行って、中学二年という多感な年頃の妹さん含め、ご家族それぞれにプレゼント」


 この場にいる全員が絶句した。

 井田先輩は白目を剥いている。

 受けた衝撃の大きさを考えれば、立ったまま気絶していてもおかしくはない。


「あ、もちろんプライバシー保護のために、中村さんや拓馬のことは特定できないように編集してから渡すよ。安心してね」

 とびきりの笑顔を見せる有栖先輩。


「いやプライバシーは大事ですけどそういう問題じゃないっすよ有栖先輩!!」

 幸太くんが焦ったように一歩前に出て叫んだ。


「罰とはいえ、その仕打ちはあまりにむごすぎませんか!? いくらクズでも一応同じ高校生ですよ!? オレなら『ボクの女神』だの『粛清』だの喚いてる動画を親に見られたら羞恥で死にます! もう首を吊るしかないですよ!?」


「やだなあ、親に見られて恥ずかしいことをするほうが悪いんだよ」

 渾身の叫びも届かなかったらしく、有栖先輩の微笑は揺るぎもしない。


「に、二番目は……二番目の選択肢は……」

 白目を剥いたまま、震え声で井田先輩が促す。


「二番目は放送部と新聞部の子にプレゼント。みんな娯楽に飢えてるから、頼まなくても面白おかしく脚色してくれるだろうね。公表された瞬間、君の学校生活は終わるね。ご愁傷様」

「……三番目は?」

 井田先輩はもはや泣いている。

 自分の言動がいかに恥ずかしいものであったか自覚はあるらしい。


「三番目は」

 有栖先輩は笑みを消し、真顔で井田先輩を見つめた。


「中村さんと拓馬に心から謝罪し、今後中村さんに近づかないと誓うこと。そうすればスマホのデータは君の目の前で消してあげる」


「……本当だな? 約束だな!?」

「いいよ。中村さん、拓馬」

 呼びかけに応じて、二人が進み出る。

 由香ちゃんは口元を引き結んでいて、拓馬の表情は特にない。

 腫れた右の頬が痛々しい。

 バスケットボールをぶつけてしまった春の悪夢の再現のような有様を見て、私はそっと唇を噛んだ。


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