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社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。  作者: 星名柚花


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20/58

20:お味はいかがですか?

 大葉と大根おろしの上にピンクの梅肉を添えたハンバーグ。

 付け合わせはいまが旬のさやいんげんとベビーコーン、人参のグラッセ。


 他にはひじきとオクラの和え物、味噌汁、卵焼き。

 あとオプションとして沢庵と納豆も用意しました。


 さあ果たして反応はどうだっ!?

 私は拓馬とリビングのラグマットに座り、ハンバーグを一口食べた彼の表情の変化を固唾を飲んで見守っていた。


 拓馬を招くために、リビングは徹底的に掃除し、大福の住居である衣装ケースはクローゼットの中に隠した。


 異性を部屋に招くなんて、お父さんを除けば初めて。

 拓馬が私の生活空間にいて、同じテーブルを囲んでいるなんて不思議だ。

 しかも彼は私の手料理を食べている。


 切って漬ければ終わりのレモンの蜂蜜漬けじゃなく、私が手ずから揉んでこねて成形して焼いたハンバーグ。

 これを手料理と呼ばずに何という。


「……ど、どう?」

 拓馬が飲み下すまで表情を一切変えないので、私は不安に駆られ、恐る恐る尋ねた。

 それを待っていたかのように、拓馬は美しい顔をくしゃっと崩した。


「美味しい」

 とびきりの笑顔は私の脳天を直撃した。

 私だけに向けられた笑顔だと思うと堪らない。

 これまでの頑張りが報われた。

 身体中で喜びが弾け、「やったー!!」と山に向かって叫びたい気分である。


「凄いな、お前天才じゃねえの? おれこういうさっぱりした味付け好き。ハンバーグも噛むたびに肉汁が蕩けてめちゃくちゃ美味い」

「へっへっへー。そうでしょーそうでしょー」

 私はでへへと笑った。

 我ながら気持ち悪い笑い方をしてるなと思うけど、それくらい嬉しいんです。

 隠し味に愛情込めたもんね!


「実はこのハンバーグ、半分が豆腐でできてるんだよー」

「え、マジで?」

「ふふふ。豆腐を使うことでカロリーは控えめ、栄養もアップ、さらにお財布にも優しいんですよ。ついでにたくさんちびハンバーグ作っといたから、お弁当に入れるね」

「ああ。楽しみにしてる。これも美味しいな」

 拓馬が摘まんだのはひじきとオクラの和え物。


「それは凄く簡単だよ。ひじきとオクラを醤油と梅干で和えただけ。ひじきは食物繊維やカルシウムが豊富だし、オクラは腸の働きを整えるペクチンとか、ビタミンA、ミネラルもたっぷりだよ」

 私は卵焼きを箸で切り裂いて、口の中に入れた。


「ふうん。なんか色々考えてくれてんだな」

「拓馬の食生活を支えると決めた以上は栄養バランスだって考えるよ。献立にはできるだけ旬の野菜を取り入れていきたいと思ってる。ずっと元気でいてほしいしね」

 それは何の気なしの発言だったのだけれど、拓馬は何か感じたのか、私の顔をじっと見た。


「……何か?」

 卵焼きを飲み下し、私は首を傾げた。


「お前ってさ」

「ん?」

「……何でもない」

 拓馬は言いかけた台詞を飲み込んで、自分の分の卵焼きを一口食べた。


「卵焼きは味付けしてないんだな」

「うん。他のメニューが濃い目だったからいいかなって……味付けたほうが良かった?」

「いや」

「そう。味付けするとしたら何味がいい?」

「んー? 何でもいいけど。甘いやつ?」

「砂糖入りね。了解。甘いものは苦手なのに、卵焼きは甘めが好きなんだね?」

 ハンバーグを箸で切り裂いていると、大福が視界の端に現れた。

 ケースの中でおとなしくしているのは退屈になったらしく、私の傍でうずくまり、小さな耳を立てて会話を聞いている。


「母さんが作るのが甘めだったから。弁当に入ってるやつも甘かったし」

「ああ。砂糖が入れてあると腐りにくいから、お弁当向きなんだよ」

「へー、そうなんだ。知らなかった」

 それきり会話が途切れ、二人で黙々と箸を動かす。


 静かになるとやっぱり緊張してしまう。

 自分の部屋で好きな人と二人きり。非日常の極みだ。


 私はしばし、言葉を忘れて拓馬の姿を観察した。

 部屋の照明を浴びて煌めく髪、扇型を描く睫毛、料理を見つめる瞳、茶碗を持つ左手、箸を動かす右手。


 拓馬は丈が長めの白いTシャツの上から青いプルオーバーシャツを着て、黒のスキニーを履いていた。

 プルオーバーシャツの裾から覗く白シャツがお洒落だ。


 こんなに美形なら、街を出歩いててスカウトとかされないんだろうか。

 私がスカウトマンなら絶対声をかけるわ。

 あ、でも、拓馬が芸能人になったら嫌だな。

 会える回数減るじゃない。

 ファンの子が殺到したりして、このアパートから出ていくことになるかも。転校の可能性もあるな。

 うん、絶対やだ。一般人のままでいて欲しい。


「何見てんの?」

 空になった皿を見ていたはずの目が、急に動いて私を捉え、心臓が飛び上がった。


「へっ。あーその、ええと」

 頑張れ頭、話題を捻り出せ!


「……拓馬に美味しいって言ってもらえるのは嬉しいし、作るのは全然構わないんだけどさ。拓馬自身が料理できるようになったほうがいいよね。昔の偉い人も言ってたじゃない。魚を与えるんじゃなくて、釣り方を教えなさいって。そのほうがずっと、その人にとっては有益だって」


「おい、何言い出すんだよ悠理。拓馬が料理できるようになったら、後々乃亜が困るじゃないか。拓馬が料理できないからこそ、乃亜は拓馬に手料理を振る舞い、絆を深めていくんだぞ。勝手に拓馬の特性を変えようとするな。未来がめちゃくちゃになる!」

 大福が床で抗議しているけれど聞こえないふり。


 拓馬に大福は見えないし、その声も聞こえない。

 ここで私が会話を始めたら頭のおかしい人認定されてしまう。

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