18:帰宅後のやり取り
「レモンスカッシュとクッキーのお礼に、今度は僕がお茶会に招待するね」
二時間ほど続いたお茶会の締めくくりは白石先輩の笑顔だった。
帰り際にLIMEのグループ『有栖のお茶会』に招待してもらった後、私と拓馬は本屋とスーパーへ寄って料理本と日記帳と食材を買った。
「夕食出来たら連絡するね」
「ああ。じゃあ」
夕方の五時半過ぎ。
アパートの203号室の玄関先で、それまで持ってもらっていた荷物を受け取り、私は拓馬と別れた。
「ただいまー」
鍵を開けて扉を開くと、
「お帰りー」
淡いピンク色の玄関マットの上にいた大福が出迎えてくれた。
後ろの二本足で立ち、つぶらな瞳で見上げてくる大福は今日も変わらず可愛い。
大福の住居はリビングの隅に置いたプラスチックの衣装ケースの中だけど、彼はどんな場所にでも自由にワープすることができるので、気が向いたときはこんなふうに出迎えてくれる。
気が向かないときはプラスチックの衣装ケースの中で寝そべって、私が砕いたポテチをのんびり齧っていたりする。
もちろん普通のハムスターにポテチをあげてはいけない。
私も最初は「オイラはハムスターの形を取ってるだけだから人間の食べ物を食べても平気だ」と言われても半信半疑で「いやでも見た目まるっきりハムスターなのにポテチはダメでしょ。おとなしくペレットや野菜食べてなさい」と断っていたんだけど。
大福を飼うことにした翌日、深夜に奇妙な音で目を覚まし、足音を忍ばせてそうっと台所に行ったら大福が買い置きしていたポテチの袋を開け、ほお袋を一杯にしているという衝撃的な現場を見てしまったのだからしょうがない。
だってこのハムスター、戸棚の中にワープできるんだもん。
防ぎようがないじゃない?
実際にポテチだろうとチョコレートだろうとアスパラガスだろうと食べても平気な顔をしているので、私の中で大福は「ハムスターの形をした何か」だと思っている。
繰り返しますが絶対に普通のハムスターにこんなものあげちゃだめです!
最悪死んでしまいますから!
「今日は随分と荷物が多いな。一週間分の食料でも買い込んできたのか」
鼻をひくひくさせて匂いをかぎながら、大福。
「ふふふ。聞いて驚きなさい、なんと今日から私、拓馬に手料理を振る舞うことになったのです! 今日のメニューはハンバーグだよ! 色々考えたんだけど、やっぱり食べ盛りの男子高校生っていえば肉かなって。肉と言えば焼肉かなとも思ったけど、さすがにそれはね。経済的な面から諦めざるを得なかったわ」
私は靴を脱いで、そのまま廊下を歩いた。
大福も短い足を動かして後をついてくる。
「そうか。ついにお前の手料理を食べるようになったんだな。レモンの蜂蜜漬けを拓馬が食べたときから、いずれこうなるとは思っていた」
「……邪魔するの?」
荷物をまとめて冷蔵庫の前に下ろし、私は大福の前に跪いた。
キッチンマットの感触がひんやりと冷たい。
「いや。拓馬の悲惨な食生活を考えれば、身近にまともな料理を作り、提供する人物が現れたのはむしろ喜ばしいことだ。乃亜が現れるまで拓馬はベストコンディションでいてくれなくては困る。悠理がその手伝いをしてくれるというのなら、応援こそすれ、邪魔なんてとんでもないよ」




