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追放魔法使いと無職男  作者: やしろ久真


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第九話 「同じような孤独」


 マックドカ食い祭りも、ひとしきり買ってきた分を食べ終え、だらだらゲームをしながらポテトを食べ尽くし、腹が満たされると自然と終息した。

 絵夢さんは魔法協会に戻り、屋敷には二人きりになる。


「おぬしよ、コンビニにアイス買いに行くか」

 そろそろ帰るべきかと思った矢先、クロアの一声で俺たちは夜の街に踏み出した。


 相変わらず、今年の夏の夜はしっとりとした空気を纏っていて、俺たちが初めて会った時と同じように路地は閑散としていた。

 遠くで鈴虫が鳴いているあたり少しは気温も落ちてきたようだが、歩けばあっという間に汗が滲んだ。

 コンビニでアイスを大量に買い込んだクロアは、袋を俺に押し付け一歩先を闊歩していた。


「なあ、百年以上も幽閉されて……大丈夫なのか?」

 俺は、夜の静寂な空気に乗せられたのか、昼間から気になっていたことを聞いてみる。

 銀髪の少女は、コンビニで入手したガリガリ君を咥えながら、振り返りもせずめんどくさそうに返事をする。


「大丈夫とはどういう意味じゃ。はっきりもうせ」

「家族とか友人とか、もう会えない人もいるだろう」

 百二十年。加算されれば百四十年の刑期を、あの屋敷の中で監視されながら魔導書の解読を続けて過ごす。

 普通に考えれば、人として故郷に帰ることは叶わないだろう。

 例え、解読を進めて刑期を減らせるとしても、そのゴールは果てしなく遠いと思う。

 その頃には、身を取り巻く世界の様子も変わっていることだろう。


「はん、そんなもの。わしにはハナから存在せぬよ。本国でさえ、わしが消えて惜しまれるのはこの魔力の才だけじゃ」

 その言葉は軽口のように飛び出たが、俺の気持ちには重くのし掛かった。

 彼女もまた、俺と同じような孤独を抱えていたのかもしれない。

 境遇や規模は全く違うかもしれないが、根本的に共通することもあるのかもしれない。


「でも、やりたいこととか、行きたい場所とか、色々有ったんじゃないのか」

 俺は聞きながら、どの口が言うのだと思う。

 俺だって、それは同じだったはずで。

 何の枷も無いのに、自分からその可能性を放棄していたくせに。


「……前にも言ったがのう。魔法の才能は、生まれた時点でほぼ決まっておるのじゃ。わしは、何の因果からか、生まれた時点では世間にその才能が発見されず、物心ついた頃に魔法を使い始め、そこから人生が激変したのじゃ」

 クロアはこれまで、自分の過去の話を全くしようとしなかった。

 彼女の出生は、俺には知る由もないが、あまりいい思い出は無いのだろう。


「じゃが……それでもわしの孤独は変わらなかった。わしを路傍の石程度の赤子とみるか、利用価値を見定める宝石とみるか、それだけの違いじゃ」

 クロアはつまらなさそうに話をする。

 けれど、ずっと心の奥に仕舞っていた苦悩を吐露しているように見えた。


「わしは実は生まれた時からレベル100の最強の存在だったのじゃ。これ以上の成長や挑戦は、最初から皆無じゃった。魔法を使えばわしに出来ない事はなかった」

 聞く人によっては、その言葉は自慢しているように見え、クロアは妬まれたり、傲慢な存在にしか思えないだろう。

 俺はなんの感慨も無く、その言葉を受け取る。


「それに、わしを見る人は皆、わしの魔力にしか興味がなかった。わしという存在は無視され、そこに貼られた付加価値という札にしか関心がもたれなかったのじゃ」

 クロアは口が冷たくなったのか、ガリガリ君をチュポンと取り出し、杖のように振りながら続ける。


「じゃから、一緒なんじゃよ、此処で朽ち果てようと。それに魔法使いとは愚かな連中なのじゃ。魔法を世の中のために使おうとは思わず、標本にして飾っておくことにしか興味がないのじゃ。魔法社会に生きていようと、どうせ寿命が来るまで博物館で暮らすのと同義じゃて」

 世の中の主導権ははるか昔から、非魔法使いの物になっている。

 クロアが解読した魔導書もきっと、例の禁術書庫に仕舞われていくだけなんだろう。

 世の為、人の為に、その才能を活かすこともない。


「じゃが、わしはここでゲームと出会った。わしは一本でも多くのゲームをクリアするのじゃ!」


 その結論に、俺は思わず苦笑する。


「そうだな。それもまた、羨ましい人生かもな」

 そう言葉にすると、俺も存外今の生活を気に入っているのだと実感する。


 特に具体的な何かがなくても、どこか興味が惹かれる日常が、今は愛おしい。


「いっそ、魔王でも存在していたら、お前も活躍出来たのにな」

 最強の魔法使いは、きっと世が世なら勇者として本当の冒険をしていたことだろう。

「そうじゃのう。ドラクエⅡも早くクリアせんとのう」

 そう言いながら、歩く足取りは軽やかだった。

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