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追放魔法使いと無職男  作者: やしろ久真


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第八話 「どういったご関係でしょうか?」

 俺たちは、すっかり私服のユニTに着替え、大股で先頭を歩くクロアに続き、夕暮れ時の街をマックを目指していた。

 クロアは終始不機嫌でむっつりと黙り込んでいるため、俺は絵夢さんと並び歩く。


「あの、俺以外に目撃者がいないっていうのは本当なんですか?」

「ええ、その通りです。事件の発生以降、我々もパトロールを強化しています。加えて、魔法使用の痕跡も追跡しているのですが……」

 その目を掻い潜り、これまで犯行を重ねているということか。


「もしよければ、事件の情報を教えてもらってもいいでしょうか」

「はい、お伝えできることはなんでも」

 本来なら一般人である俺には教えられないこともあるだろうが、俺の素性は潔白であることと事件の関係者として今回は特別に協力を認められているのだろう。


「被害者はすべて女性、二十代前半から後半です。犯行現場は市内を転々としていますが、時間帯はいずれも夜です」

「……女性か。その人たちはもしかして、みんなオフィスで働いている人ですか?」

「……おそらく、その通りと思います。皆さん、被害に遭ったときはオフィスカジュアルな服装だったはずです」

 俺はその情報に、次第に犯人の動機、目的を想像し始める。


「女性で、しかも働いている人。最初の被害者の特徴がまさにそうでした。付け加えるなら美人と言えるかもしれませんが、まあ定義は難しいので置いておきましょう。……犯人は、そういう類の人に強い執着を持っているのかもしれません」

「コンプレックスを発散するための犯行、ということですか」

 絵夢さんは、それまで考えていなかった犯人の動機の方面に対する俺の意見に頷いている。

「もしかしたら、そういう方向から犯人を絞り込めませんか?」

 主に、女性との交際トラブルがあった者や、コンプレックスを抱いている者。

 あるいは、美人で社会的地位がある女性に嫉妬を抱く同性の者。

 そんな犯人像が、俺の中に生まれる。


「……しかし、日本魔法協会で把握している魔法使いの中では、どの人物にも犯行は無理というのが今の調査結果です。行動を追跡しても、犯人に繋がる人物はいませんでした」

 魔法使いの調査結果など俺の想像の範疇を超えているので、何の反論もできない。

「そうですか……」

 それならば、急に魔法を身につけた者か、あるいは海外からの闖入者か、という話になるが……。


「おい、おぬしよ。なにを興味津々になっておるのだ。魔力ゼロのおぬしでは犯人確保なんぞ到底無理な相談じゃ」

 その時、先頭を歩くクロアはしかめっ面でこちらを振り返りながら言った。

 眼前には、郊外に立つマックの店舗が見えてきた。


「いや……せめてなにか役に立てないかと。被害者の人も増えているんだし、それにお前の刑期だってこのままじゃ二十年も加算されちまうんだぞ」

「ふん、別にどうでもいいのじゃ。どうせ刑期は全部で百二十年あるのじゃぞ」

 呆れたようにクロアは吐き捨てた。

「百二十年!? 普通に過ごしてりゃ死んでしまうだろ」

 俺の驚嘆する声を無視して、クロアはマックの店内に入っていった。

「それが元老院のクズジジイ共の目論見なんじゃよ」

 クロアは俺から視線を戻し、そう言い残して店舗に吸い込まれた。


 夕刻のファストフード店内は、帰宅途中に寄り道をする学生がちらほらいる程度で、混雑している様子はなかった。

「わしはポテナゲとハッピーセットとー……」

 メニューにかじりつく勢いでクロアは駆けていき、俺は嘆息して後に続く。


「え、うそー? また会ったね!」

 その時、俺の背後から黄色い声が聞こえた。

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには藤波京香が立っていた。

 昼間と同じく小奇麗な格好をしており、顔を綻ばせて俺に手を振っている。

「お、おう……よく会うな」

 俺は一日に二度同じ人物に街でバッタリ会う確率について計算をする傍ら、この状況を分析する。


「私はこの後のミーティング前に少しでも食べちゃおうと思って。牧島君は夕食?」

「おう、まあね」

 どうやってこの場面を切り抜けようと考えていると、俺の脇からニュッと銀色の頭が飛び出した。

「なんじゃこの女。おぬしよ、間違っても壺を買ったり商材を売って一儲けしようなどとは思わぬことじゃよ」

 なんだその、どうせ無職でボッチなお前には新興宗教かマルチ商法の勧誘でしか話しかける女性などいないと決め付けたような言い方は。

 俺は説明しようとするが、クロアは別に興味は無かったのか、レジカウンターの方へふらりと去って行った。 


「あ、あの……あの子は?」

 突然の銀髪少女の登場に驚く藤波は、俺に尋ねる。

「まあ、俺が世話を見ている……」

 言いかけたところで、俺の肩を後ろから強めに握られる。

 グリンと俺の体が回転し、絵夢さんの方に向けられる。

「あの、牧島様。貴方にこのようなお知り合いがいらっしゃるとは聞き及んでおりませんが」

 強めな早口で、絵夢さんは俺に詰問する。

 その顔には、静かな焦りのようなものが見える。

 まあ、この人は俺の経歴を完全に洗ったうえでクロアの監視を依頼してきたはずだ。

 その頃は別に藤波と交流は無かったのだから、新たに登場した彼女との関係を把握しようとするのは分からないでもないが……。

「ゴホン、彼女は俺の大学の時の同期で、藤波京香という人だ。どうやら近所に住んでいたみたいで、最近ばったり会ったんだ」

「そうでしたか。……私は月差と申します。いつもうちの人がお世話になっております」

 絵夢さんは藤波に向き直り、ペコリと礼儀正しく頭を下げる。

 その仕草や言動は普段の固すぎるほど生真面目な絵夢さんそのものなのだが、今はなんだか妙な勘違いを生み出しそうだ。


「ええと……、その、そちらはどういったご関係でしょうか?」

 藤波は顔を若干こわばらせて聞いてくる。

 俺が口を開く前に、絵夢さんは説明を始めた。


「あまり世間には言えない事もありますので、多くはご説明できません。ただ、関係性で言いますと、主従関係と言えるかもしれません。屋敷の中で生活が管理されており、自由に外出を許可する訳にもいかず、監視も行っております」

「え……」

 まあ、確かに俺は絵夢さん達に雇われているのかもしれないし、クロアの監視もしているので間違いはないかもしれない。

 しかし、度肝を抜くような美人であり女王様チックな絵夢さんが言うと別な解釈もできそうだった。

「身辺の世話も行っております。……済みません、これ以上の事は私の口からは……」

 いや、絵夢さん? なぜそこで言い淀むのですか。

 ああもう、ほら、藤波とか目を丸くして「監視……主従関係……身辺の世話……」とか呟いているし。

 なんか変な方向に勘違いされてるよ絶対。


「おうーい、二人ともさっさと買ってかえるぞー。わしは帰って早く調教の続きがしたいのじゃ。そんで一緒に気絶するのじゃー」

 その時、クロアがレジ前で急かすように叫んだ。

 もちろん、彼女はダビスタをやりたいだけなんだ。

 そしてマックをドカ食いして気絶するように眠りたいだけなんだ。


「調、教……? 気絶……! あの……もしかして……牧島くんってM的な……」

「? いえ、絵夢は私ですが……?」

「そっちなの!? 牧島くんが実は S!? ああごめんなさい、ちょっと風に当たってきます」

「あ、おい」

 俺の呼ぶ声も虚しく、藤波は足早に店をあとにした。


 なんだかもうよくわからんが、まあいいか……。

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