表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放魔法使いと無職男  作者: やしろ久真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/15

第十話 「当たって砕けろ」

 それから数日の間、俺の身の回りは凪いだように事件の音沙汰は無く、何の変化も無かった。

 クロアが進めるドラクエⅡも、仲間を増やせず同じ街で停滞していた。


 だけど、そんな平穏もすぐに終わった。


 ある日の夕食前、今日もクロアはリビングでダラダラとゲーム三昧だった。

 というのも、嵯峨野が屋敷に来た日以来、部屋で魔導書の解読を進めているところをとんと見なくなった。

 そんな時、息を切らした絵夢さんが飛び込んできた。


「牧島様……すみません、再び被害者が出てしまいました」

「そうですか。それで、今回は何か手がかりは……」

「それもつかめておりません。そして、被害者の方ですが……藤波杏香さん。牧島様のご友人でいらっしゃいますよね」

 その瞬間、俺は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。

 そのショックは時間差で、ドクドクと心臓の鼓動を高鳴らせる。


「……え、あ、……あの、無事なんですよね?」

「……はい、今の所、一命は取り留めております。しかし、昨晩の発見より意識が戻りません」

「……そ、そんな」

 重苦しい口調の絵夢さんは、誇張でもなく事実を述べていた。

 俺は、思わず言葉を失ってしまう。

 

「スティグマータの威力も上がっておるのか? わしの解除魔法でも治らんのか?」

 俺たちのやり取りを聞き入れて、クロアは立ち上がり傍に寄った。

「いえ、今は我々協会が管理している治癒魔法を使用しています。……クロア様の魔法は、扱える者がおりません」

「……ふん、わしが出向けば一発じゃが、それも協会は許さんのじゃろう?」

「……契約内容を見直しております。規則ですので」

 苦々しく言う絵夢さんに、俺は憤りを感じるが、彼女を責めても意味はない。

 おそらく、最初の襲撃の時と同様に、クロアが魔法を使えば一瞬で解決するのかもしれない。

 しかし、彼女はその行いのせいで二十年の追加刑期を課せられてしまった。

 クロアに頼ることはできない。


 俺は大きく息を吸いなおし、脳内に酸素を行き渡らせる。

 

「……今のところ、被害者の中で、死者は居ませんよね」

「はい、協会の治癒魔法であれば、時間を要しても回復はしております」

「なら、引き続き治療をおねがいします」


 俺が今出来ることは、藤波を救うことではない。

 俺に魔力はゼロなのだから、彼女を救う魔法なんて使えない。


 俺は拳を握り、怒りを募らせる。

 他でもない、自分自身にだ。


 これまでの情報を冷静に精査すれば、藤波が標的になる可能性には十分気付けたはずだ。

 いや、頭のどこかではもう理解していたのかもしれない。

 だが、俺はこれまで他人を思い遣る行動を全くしてこなかった。

 誰かと深く関わることに怯え、一人の世界で怠惰に生きてきた。

 どうせ何も起こらないだろう、根拠のない予測に甘え、平穏な日常が続くとばかりに思っていた。


 そのくせ、つい先日。

 藤波と久しぶりに言葉を交わし、俺は僅かな温もりを覚えていた。

 こんな俺の事でも、記憶してくれている人が居ること。

 人との繋がり、彼女との繋がりというものに、優しさを享受していた。

 なのに、俺は彼女のことを、俺を認識してくれていた友人を、守る事を忘れていた。

 

「絵夢さん、協力してもらえますか」

「……はい?」

 俺の言葉に、絵夢さんは不意を突かれたように顔を上げる。


「俺には魔法は使えません。襲撃者を発見しても、取り押さえることはできないでしょう。その時に、絵夢さんに戦ってもらうことになります」

 彼女の実力は不明だが、名刺に書かれていた『達人』という文字は、俺の脳裏に焼きついていた。


「はい。もちろんです」

 絵夢さんは、俺の事などこれぽっちも期待していないだろうに、その眼差しは強く頷いてくれた。

「まあ、そこは信用できるじゃろ。近接戦闘で絵夢に敵うものなど、この国はおろか世界を見渡してもそうそうおらん」

 クロアは彼女の実力を知っているのか、腕を組みうんうん頷いている。

 天才魔法使いの彼女にそこまで言わしめる腕前に、俺は心の中で身震いする。

 下手に絵夢さんを怒らせるのはやめよう。


「して、おぬしよ。さすがに旧友を手にかけられやる気になったようじゃがの。何か算段はあるのか?」

「……ああ、まあ、モノは試し、当たって砕けろって感じだな」

 

 俺は喋りながらも、頭をフル回転させる。

 ようやく、俺は真剣にこの事件を解析し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ