全身義体が開発されたら?
◤SF設定考察メモ◢
■ 概要
人体のすべての器官・組織を人工的な構造物に置き換える「全身義体」が実現したと仮定する。この技術が確立された時、医療、社会、倫理、経済、戦争、宗教など、あらゆる分野に影響が及ぶ。その変化の全体像を予測し、未来社会の構造と価値観の変化を描き出す。
■ 用語解説
・全身義体
脳または意識以外のすべての身体を人工物に置き換えた身体構造。
肉体的制約からの解放を目的とし、事故や病気による欠損補填、
または身体能力向上のために導入される。
・人格移植
脳神経構造をデジタルコピーし、義体にインストールする技術。
完全な意識移行が可能であれば、物理的な生身すら不要となる。
・法的身体
法律上、人間として認定される身体。
生体であることを必須とするか否かは時代によって変化する。
■ 予想される影響
1. 医療・福祉の再定義
・先天的障害者や難病患者の肉体を義体化することで、完全な機能回復が可能に
・高齢化問題の緩和。肉体の劣化に起因する介護コストが激減
・脳や神経系の疾患以外はすべて「治癒可能」とされ、医療行為の大半が工学系に移行
・従来の「健康寿命」という概念が無意味になる
2. 経済と階級の分断
・義体の性能差=社会的階級差を生む。廉価モデルと高性能モデルの格差が固定化
・「労働用義体」「戦闘用義体」などが開発され、
労働市場は人間の形をした機械に置き換えられる
・義体に換装された者が「改造人間」として差別を受ける一方、
「純粋人類主義」を掲げる運動も生まれる
3. 生命観・死生観の変化
・義体の導入により、「肉体の死」は意味を失う。脳や意識が生きていれば「人間」とされる
・脳損傷時に備えたバックアップ装置が一般化し、
死を「バックアップの更新忘れ」とみなす文化が発生
・魂や輪廻に関する宗教的世界観との衝突。
「義体に魂は宿るか」という問いが宗教戦争を誘発
■ 未来予想
1. 法制度と義体市民権
全身義体者の増加により、「肉体が人工物でも市民権はあるのか」が争点となる。一部の保守的国家では、義体者は市民権を持たない「契約人格」に限定され、奴隷的な地位に追いやられる。一方、先進国では「肉体ではなく意識の連続性」が人権の基準とされ、義体化しても人間としての尊厳が認められる。
2. 軍事利用と義体兵士
全身義体は当然、軍事利用される。従来の兵士では耐えられない極限環境での作戦行動、例えば宇宙空間・海中・高放射線地帯での作戦が可能になる。義体兵士は破壊しても意識データさえあれば再生可能なため、道義的な制限が弱まり、戦争がより苛烈になる可能性がある。また、義体兵士の反乱や人格操作に関する懸念も強く、軍内での倫理規範が問われる。
3. 意識の移植と「不老不死」の幻想
義体の完成により、人間の「不老不死」への欲望が現実味を帯びる。脳が老化しないよう再生技術が導入され、さらにはデジタル意識(完全なアップロード)へ移行することで、物理的肉体をも超越した存在が誕生する。だが、これが「元の自分」と連続性を持つのか、単なる模倣なのかを巡り、哲学的・宗教的論争が巻き起こる。




