表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【全306話】SF設定考証集  作者: 技術コモン
メディカル領域
88/292

癌を完治できるようになったら?

◤SF設定考察メモ◢



■ 概要

もし癌が完治可能な病となったら、それは21世紀医療の大転換点となる。現代医学において最大級の死因である悪性腫瘍が「完全に治る病」となった時、私たちの生き方、死生観、社会構造はどのように変化するのか。その未来を多角的に考察する。



■ 用語解説


・癌完治

 発見時期を問わず、転移・再発を含むあらゆる悪性腫瘍を完全に根絶し、

 患者の生命活動に一切の障害を残さない医療技術。

 

・全身再構成治療

 治療の一環として、がん細胞の局所破壊にとどまらず、

 臓器・組織単位の再生や再構築を行う次世代医療。

 

・老化関連疾患

 癌が制圧されたことで注目されるようになった、

 神経変性疾患、自己免疫疾患、代謝疾患など、加齢との関係が深い病。



■ 予想される影響


1. 死因構造の再構築


・死因の第1位が癌ではなくなる。老衰、心血管疾患、認知症が新たな主因に。

・寿命が10〜20年単位で延伸する可能性。超高齢社会の加速。

・葬儀業、医療保険、終末期医療ビジネスの根幹が変わる。


2. 社会保障・医療制度の負荷変化


・癌治療に特化した医療機関の大規模な再編。

・医療費の総額は一時的に減少するも、長寿化による慢性疾患の治療費が増加。

・健康寿命延伸により、定年制度・年金制度の見直しが避けられない。


3. バイオテクノロジー産業の構造変化


・抗がん剤や放射線治療関連産業の衰退。

・再生医療、老化抑制医療、ゲノム編集に焦点が移る。

・「死ににくい体」を目指すヒューマン・アップグレード需要の急増。



■ 未来予想


1. 癌克服以後の死生観の変化


癌が「死を招く病」でなくなった時、人々は死をより哲学的に、あるいは確率論的に捉えるようになる。従来「いつ死ぬかわからない」ことを前提に組まれていた人生設計は、「生き過ぎるかもしれない」ことを前提とした計画に転換される。若年層は結婚・出産を遅らせ、高齢層の就業継続は当たり前となるだろう。


2. 医療技術の加速と格差


癌治療の完治を実現した技術が、他の難病治療にも応用される。特に個別化医療、細胞レベルのリプログラミング技術が加速し、治療というより「調律」に近い医療が普及する。しかし、高度な医療は高コストとなり、富裕層と一般層の健康格差は広がる恐れがある。逆に、国民皆保険体制の国では社会保障制度の見直しと再分配政策が加速するかもしれない。


3. 「癌が治る」ことへの心理的反動


初期には多くの人が歓喜するが、時間が経つにつれ、別の問題が浮かび上がる。たとえば「本当に治療が必要か」「自然死を選ぶ権利はあるか」といった倫理的課題。あるいは、がんによる死を免れたがために、その後の人生で事故死や孤独死に苦しむ人々が増えるという側面もあるかもしれない。治療技術の普及と並行して、「生き延びること」の意味が再定義される必要がある。


4. ポスト癌医療と人類進化


がんの完治は、医療の最終到達点ではなく新たな出発点となる。多くの研究者は、がんを克服した人類は次に老化と戦い、さらに先には「死そのものの克服」に挑むと予想する。技術的特異点を通じて、人類は自然死の回避、記憶の転写、意識のデジタル保存といった方向へと進化の道を歩む可能性がある。



■ 締め

癌が完治する未来は決してユートピアではない。生の価値が変化することで、死の意味もまた問い直されるだろう。しかし、それは人類が科学を通じて「命」を自らの手に取り戻す過程であり、未来の医療がもたらすもっとも根源的な変化なのかもしれない。生と死の狭間に、かつてないほど人間的な問いが立ち上がる世界となる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ