ジェットパックが開発されたら?
◤SF設定考察メモ◢
■ 概要
ジェットパック、すなわち個人が装着して空を飛ぶための推進装置が技術的に実現されても、それが広く一般に普及するとは限らない。コスト、安全性、航続距離、操縦の難しさといった現実的制約により、ジェットパックは限られた専門領域での使用にとどまり、一般大衆の移動手段としては定着しないと考えられる。本稿では、その限定的普及の未来における社会や技術、倫理への影響を考察する。
■ 用語解説
・ジェットパック
人体に装着し、小型ジェットエンジンや電動ファンで空中を移動する個人用推進装置。
垂直離着陸(VTOL)が可能。
・機動優位性装備
特殊な環境で迅速な移動・展開を可能とする高性能装備。
従来の乗用車や航空機では対応しきれない局所任務に利用される。
■ 予想される影響
1. 一般社会での導入見送り
・本体価格数百万円以上、燃料・メンテナンスコストも高額
・短時間飛行しかできず、従来の車両や公共交通と比較して非効率
・操縦に高度な訓練を要し、事故時の危険性も高い
2. 特殊用途での定着
・山岳救助、災害時の高所アクセス、離島医療支援など、地形制約の大きい現場に活用
・軍事用途では局所的な強襲・偵察・潜入などに限定利用
・イベント演出や映画撮影など、エンタメ産業での利用が可視化される
3. 監視・規制の強化
・市街地での無許可飛行は禁止。空域の法的整備が進む
・飛行認証、免許制度、事故時の責任範囲を明文化
・国や自治体による所持・使用の登録制導入。事実上「許可制の兵器」に分類される可能性も
■ 未来予想
1. 「地上の人々」と「空を持つ者」の分化
高価で操作の難しいジェットパックは、個人で保有するのではなく、組織に所属する「空の作業員」のみに許可される機材となる。たとえば空中電線の点検技師や高層建築の保守業者、軍や消防の機動部隊などである。これにより、地上生活を送る一般市民と、「空中作業空間」にアクセスできる少数精鋭の人材とが分化する可能性がある。空の技術は開かれた自由の象徴ではなく、免許と訓練に裏打ちされた「限定的特権」として扱われる。
2. 軍事・公安用途の進化と社会的緊張
都市部でのゲリラ活動やテロへの対処として、ジェットパックを装備した迅速展開部隊が創設される可能性がある。ドローン連携による立体的な都市制圧や、ビル間を飛び越えての移動などは警察・軍の機動力を一変させる。だがその一方、こうした装備の保有が治安維持と市民監視の境界を曖昧にし、「空中からの監視社会」を警戒する動きが出る可能性もある。ジェットパックをめぐる信頼性と透明性の確保は、民主的社会において重要なテーマとなる。
3. 空中エンタメと富裕層の嗜好
一般人の常用には向かないとはいえ、娯楽用途では「空を飛ぶ」という体験は極めて魅力的であり、遊園地や観光施設で短時間の空中浮遊体験として商品化される。特に富裕層向けには、専用練習施設や高級リゾートでのパッケージツアーが提供され、「空の冒険」が高級レジャー産業として成長する。ジェットパックの存在は身近になっても、決して日常には溶け込まず、「限られた者だけの空」として象徴的に残るだろう。
■ 締め
ジェットパックの開発は、人類の飛行への夢を実現する一歩ではあるが、必ずしも万人に開かれた技術ではない。高コスト・高リスク・高訓練を必要とするその特性ゆえに、社会における位置づけは限られたものとなる。空は近くなっても、誰もが自由に飛べる未来はまだ遠い。だが、それでもなお「飛ぶこと」に魅了される者たちは、狭き門を越えて空へと舞い上がり続けるのだろう。その姿は未来社会における新たな専門職の象徴であり、空の時代の幕開けを静かに告げる存在となるかもしれない。




