俺の名前は金箔高橋
俺の名前は金箔高橋。
念のため言っとくが金箔と高橋ってコンビ名じゃない。
投稿用なろうネームとかでもない。
戸籍に載ってる本名だ。
名字が金箔で名前が高橋。
……いや高橋って名字だろ!普通名前に高橋って付けねーよ!
この名前は俺の父方のジジイが名付けたものだ。
ジジイが病気で亡くなった後に遺言状を確認したら当時まだオカンの腹の中にいた俺に『高橋』と名付けるよう書いてあったそうだ。
オカンは抵抗したが、この田舎では「遺言だから」と煩い親戚も多く、読みを『こうきょう』にすることで折れた。
……ホント何この謎ネーム!?
付けられた方の迷惑度合いがキラキラネームと変わらねえんだけど!?
まあ、両親の許可は得たので、大学進学して煩い親戚どもから離れる際に読みはそのままで改名しようと思ってる。
あと、数十年後にあの世に行ったら、泣くまでジジイをボコッたうえで名付けの理由を問いただすつもりだ。
◇◆◇
「よお、ケータ」
「おう、コーキョウ。あー、土曜なんだけど、オレの婆ちゃんに会ってくんないか?東京から遊びに来るんだけど」
朝の登校時。親友のケータと挨拶を交わしたところで頼み込まれた。
もともと土曜は一緒に遊ぶ約束をしていたので問題ないが。
「ああ、いいけど。なんで?」
「いやそれがさーなんかお前に話したいことがあるって」
「?お前の婆ちゃんって東京で料理研究家やってるんじゃなかった?俺と接点ないはずだけど?」
「いや、俺も初めて知ったんだけど、東京に進学する前はここに住んでて俺らと同じ高校に通ってたって」
「マジ?」
ケータの家は俺らが小学校に上がるときに親父さんの転勤でこっちに来たのでそれ以前にこの土地に関わりがあったとは知らなかった。
「いや、それでも俺と関わりはないよな?」
「だよなあ」
ともかく土曜にケータの家に行くことにした。
◇◆◇
「ごめんなさいね。貴方の名前は、多分私が原因なの。私の旧姓が高橋だったのよ」
「え!?ええっ!?ど、どういうことです!?」
土曜日当日。
初対面のケータのお婆ちゃんに深々と頭を下げられてるんだけど!?こういうときなんて言えばいいんだっけ!?
「あ、あの、あああ頭を上げてくださひ!」
「コーキョウ落ち着け。美華子婆ちゃんも最初から説明してよ」
隣に座ってるケータがフォローしてくれた。
「そうね。私は父の転勤で高校入学のときにこの市に来て高校を卒業するまでの三年間をすごしたのだけど。在学中に高橋さんのお爺さん、仁太郎さんに告白されたのよ」
「「ええーっ!?」」
「まあ、お断りしたのだけど」
大学を卒業して地元に戻ってきたジジイは当時高校生だった美華子さんと偶然知り合って告白した。
美華子さんが断り続けてもしつこく告白し続けた。
いや諦めろや!迷惑だろ!
「それで私が高校を卒業して進学のため上京するときにも駅のホームまで見送りに来てくれたのだけど」
『美華子さん。貴女が卒業したら迎えに』
『いえ、申し訳ありませんが貴方と一緒になるつもりはありませんので。っていうか民世さんとの結婚話が進んでますよね?奥様を大事になさってください』
『い、いやそれは僕の意思では』
といった押し問答の末、見かねた友人たちに引きずられるように美華子さんから引き離されたジジイは最後に叫んだ。
『美華子さん!僕は!僕は貴女を忘れはしない!僕に娘ができたら貴女の名を付ける!』
「まあ私はそれに『止めてあげてくださーい、ちゃんと考えて名付けてあげてくださーい』って返したのだけどね」
「ウチのジジイが済みませんでした」
ウチの婆ちゃん(民世婆ちゃん)と結婚話進んでるときにそんなことしてたのかよ!
もうなんか全方面に迷惑かけてるな!
「それにしても名字の方を付けるなんて」
ケータが当然の疑問を口にするが。
「あ~、ジジイの子供も孫も男ばっかりだったからな。美華子って名付けられなかったんだろ。俺も出生前診断で男ってわかってたしな」
「それで美華子と付けられず名字の高橋の方を名付けたと」
「おそらくな……ってこれもう当初の目的見失いすぎだろ!?」
そういうとこだぞジジイ!
「本当にごめんなさいね」
「いやどこをどう解釈しても美華子さんに非はないと思います。悪いのは全部ウチのジジイであることが判明しました。ありがとうございます」
それでもお詫びにと美華子さんは料理研究家としての腕をふるってご馳走をつくってくれた。
俺は美華子さんの料理に免じてジジイへの罰を『泣くまでボコる』から『デコピン一発』に減刑してやることにしたのだった。