情報整理
「ミゲル! どうなっている!」
しばらくすると、ヤグモさんたちが合流してきた。
結構飛ばしてきたのか、馬たちに疲労の色が見える。
「ヤグモ、街のみんなの救護に当たってくれ。事情はあとで話す」
一人でも多く助けたいという思いが伝わってくる。
「わかった」
それをヤグモさんも察したのだろう。何も言わずに指示に従う。
街の方へ向かっていくヤグモさんの背中を見ながら、ミゲルさんは口を開く。
「オキニス、俺らはこっちだ。行くぞ」
断るなんて選択肢は、僕の中にはなかった。
朝一に街に戻ってきたのだが、街の人の救護に回っていたらもう日が沈みかけていた。
「さすがに疲れました……」
キャラバンの中に乗り、項垂れながら僕は言った。
「予想以上にけが人が多かったな。家も全損して、外で寝泊まりするやつもいる」
辺りを見渡すと、家のあった場所の前で横になっている人達がいる。
「さて、もうひと踏ん張りだ。アジトの確認をするぞ」
ひょいっとキャラバンから飛び降り、軽い足取りでアジトへと向かうミゲルさん。
それに、僕らは続く。
道中、僕らは一言もしゃべらなかった。色々あったので、各々整理の時間が必要なのだろう。
「着いたな」
アジトは上の部分が吹き飛んでいるが、建物としての形状は保っていた。
建物の中に入ると、辛うじて食堂が原型を保っていた。
「随分と風通しが良くなったなぁ」
ミゲルさんはそういうが、窓ガラスは割れ、壁はところどころに穴が開いていた。風通しがいいどころの騒ぎではない。
「それで、何があった?」
流れを断ち切るようにヤグモさんが言う。
「……街はバケモノによって破壊された」
ややあって、ミゲルさんが答える。その顔は苦痛に耐える表情に似ていた。
「バケモノ、ですか……。もしかしなくても、なぞの音の後に空へ飛び立ったアレ、ですか……?」
返事をしたのはサラさんだった。ミゲルさんの説明で足りない部分を補足するような質問だ。
「ああ。そいつらにおっちゃんはやられた」
その言葉に反応したのはカミラさんだ。
「あの爺さんが死んだっていうのかい?」
「そうだ。おっちゃんは最後にこう言った。『上級国民に気をつけろ』ってな」
僕も聞いていたものだ。驚きはないが、改めて聞くととんでもない話のように思える。
「上級国民、か。謎の音が鳴った後、バケモノの背中に人が乗っていたような気がする。もしかしたら、それが上級国民だったかもしれないな」
帰っている途中に見たのか、ヤグモさんがそう言う。
「真相はわからない。だが、その可能性は高いだろうな」
腕を組み、考え事をするような様子のミゲルさん。
今回の事件は、不可解な点が多すぎる。謎の音に空飛ぶバケモノ、さらには上級国民の存在。
『空には魔物がいるとも言われている。上級国民は独自の技術で島を守っているらしい』
ふと、ヤグモさんの言葉が頭の中をよぎった。
「魔物……」
「オキニス、なんて?」
考え事中にぽろっと言葉にしてしまったものを、カミラさんが拾う。
「いえ、前にヤグモさんから教えてもらったんです。空には魔物がいるって。もし、上級国民が魔物を操れる手段を手に入れていて、地上を襲ってきたとしたら……って考えたら辻褄が合う気がして……」
「……なるほどな。確かに、そう考えると納得がいく。が、何のために今襲ってきたのかがわからないな」
「そうですね。その理由まではわからないです」
理由、か。上級国民にはあったことがないので、何を考えているかはわからない。他の街でも同様のことが起きているのか、それとも、今回のが世界初なのか。
「ま、考えてもわかんねぇな。明日は素材屋に行くか。今日は疲れた。休もう」
そう言って、ミゲルさんはアジトの外に消えていく。その顔には、いくつかの迷いが見えた気がした。