惨状
みじけぇな。短いですよね。すみません
「ひでぇな……」
街は原型をとどめていなかった。
建造物は崩れ落ち、道には瓦礫が散乱している。
「ミゲルさん! カミラさん!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「リン! 無事だったか!」
そう、素材屋の看板娘であるリンさんだ。服は泥まみれになっているが、大けがを負っている様子はない。
「何とか見つからずに隠れていました」
「知り合いが生きてるってことが知れてよかったぜ。ところで、何があったんだ?」
顔をうつむかせながら、リンさんは語る。
「それが……よくわからないんです。突然、金属の擦れる音が爆音で響いたと思ったら、雲の向こうからあの化け物たちが姿を現して、口からビームを出して街を蹂躙して行ったんです」
やはり、あの金属音が元凶か。誰が、何の目的があってやったのか、謎は深まるばかりだ。
「なるほどな。とりあえず知り合いの店を回って無事を確かめるか」
僕はミゲルさんについていく。街に来て日が浅いので、下手すれば迷子になる。
最初に向かったのは先日お世話になった武器屋だ。
「跡形もないな」
そう、辛うじて店があった雰囲気のみが残っている状態。
誰もここに武器屋があったなんて信じないだろう。
「うああ……」
瓦礫の下から呻き声が聞こえてきた。まさか、そんな。信じたくない気持ちが無限に湧いてくる。
「おい、おっちゃん!!」
ミゲルさんは必死に瓦礫をどかしている。僕もそれを手伝う。
しばらくして、瓦礫の下にいた店主さんが日の目を浴びる。
「ゴホッ……」
店主さんは咳をすると同時に吐血した。
「……小僧と少年か」
ヒューヒューと呼吸音が聞こえる。僕は医学に知識はないが、おそらく店主さんの命はそう長くないだろう。
「……ワシの最後の仕事が、お前らで良かった。最高の幕引きだ」
「そんなこと、言うなよ」
ミゲルさんの声が震えている。目尻には涙が浮かんでいる。
「まだ、あんたに頼みたい仕事は山ほどある。死なれちゃ困るんだ」
「はは……小僧。老体を労わることを覚えろ。ワシはもう長くない」
診断所に行ってもどうにもならないのだろう。それほど、店主さんは致命傷だった。
「最後に……年寄りの忠告を聞いてはくれんか?」
「いくらでも聞いてやる! だから、最後とか言わないでくれよ」
「上級国民だ。あやつらには、気をつけろ。今回の事件は彼らの仕業である可能性が高い。化け物の背中に、人が乗っていた。身なりがきれいな奴が、な」
「上級国民、だと……」
なぜこのタイミングで上級国民が出てくるのだろうか。さっぱりわからない。
「カハッ」
店主さんは一際多く血を吐いた。
「もうワシは逝くとする。感謝するぞミゲル。お前と話すのは楽しかった……」
プツンと糸が切れたように、店主さんから力が抜ける。
「おっちゃん……」
ミゲルさんの頬を涙が伝う。肩をわずかに震わせ、泣いていたのだ。
なんだろう、心に穴が開いたように、気力が抜けていく。
「なぁ、オキニス」
しばらくして、ミゲルさんは口を開いた。
「俺の独り言、聞いてくれないか?」
「はい」
こんなに弱っているミゲルさんは珍しい気がする。
「街にいたほうが良いのか。街にいない方がいいのか。どっちも嫌な予感がしたんだ。こんなの初めてだった。どうするのが正解か、わからなかったんだ」
「僕も、街に出るときに嫌な予感がしてました」
「最終的には出たほうが良いって、俺の勘が強く告げた。それはおそらく、俺たちが無事な選択だ」
ミゲルさんはふぅ、と短く息を吐く。
「なぁ、街にいたらおっちゃん助けられたのかなぁ」
「それは……わかりません」
助けられたかもしれない。しかし、それは恐らく誰かの犠牲の上でしか成り立たないような気がする。
「でも、僕らは今生きています。生きてれば、何でもできます。ミゲルさんと、ヤグモさんと、カミラさんと、サラさんと、僕で。僕はこのメンバーならどんな困難にだって立ち向かえる気がするんです。店主さんの残してくれたヒントを頼りに、冒険してもいいと思います」
「そう、か。俺たちは生きてるんだもんな。おっちゃんの情報は無駄にしない」
ミゲルさんは決意に満ちた目をしていた。きっと、これからどでかい事をしてくれるんだろう。
「よし、オキニス! 街の困ってる人を助けるぞ!」
いつもの調子だ。元気をもらえる。
「はい!」
だから、この人がリーダーなのだろう。